テナント用ラウンジや多用途のワーキングスペースに転用
全国の主要都市に多くある築年数が経過した中小ビル。そのままでは集客に苦戦しているビルが多いほか、現状は問題なくてもそのままでは将来的に競争力が落ちていく可能性が高いビルも多い。中規模オフィス特化型のJREIT「いちごオフィスリート投資法人」では、築年数の経過した既存オフィスビルを、シェアリングエコノミーの発想で新たな活用方法で価値向上し、集客力を上げている。その事例を紹介する。
◆打ち合わせスペースを持てる先進的なオフィス空間
一つ目は、1980年10月築ビルの1区画をテナント向けの共用ラウンジ「ICHIGO LOUNGE(いちごラウンジ)」(約15坪)として改装した事例。
延床面積6,468.08平方メートル、鉄骨鉄筋コンクリート造地上9階地下1階建て。耐震補強工事は実施済み。JR「池袋」駅から徒歩約5分に位置する。3階のワンフロア(約160坪)が空いたことを機に、6区画に分けて、1区画当たり12.89~38.33坪と小規模オフィスに改装。そのうち1区画を同階のテナント専用のラウンジにしたものだ。
レンタブル比は下がるものの、移転先を探すベンチャー企業といった同社顧客からは「1区画15~35坪程度で共用部が充実しているなど先進的な中小ビルが少ない」という相談が寄せられていたことから、空きが出たことをきっかけに今回の企画に至ったという。
ラウンジには、テーブルやソファ、24型モニター、無料ドリンク等を設置。Wi-Fi環境も整えた。同階のテナントは無料で自由に利用することができる。改装費はそのほか水回りやセキュリティ設備の刷新も含めて約2,900万円。ラウンジの運営費はテナントからの共益費で賄う仕組みだ。同階テナントだけに配られる専用カードキーで入退出できる。
専有部の賃料は坪当たり2万5,000円~。周辺相場と比較すると5割程高い設定だが、募集開始当初より高い反響を得ており、2月の内覧会開催から1ヵ月程で1区画の契約が決まり、現在3区画が契約済みである。通常、同様の条件のビルの場合、内覧会から契約まで3~4ヵ月要することが多い中、早期に決まっている状況だという。その後も、1区画へ申し込みが入り、順調に契約が進んでいる状況だ。
同社は「従業員の働きやすい環境づくりをあえて専有部に施さなくとも、いちごラウンジを利用することで高い満足度を得られることから、テナントはレイアウト等をあれこれ悩む必要もなく早期に入居を決められたのでは」とみている。ラウンジは、頻繁に利用されている状況だという。今後、すべての区画が埋まれば、会社を超えた横のつながりや新たなビジネスチャンスの創出に期待が持てる。
◆さまざまな人を誘引する時間貸しスペース
続いて、1972年築のビルに入居するグループ会社の(株)セントロがフロアの一部(約85坪)をワーキングスペース「Coin Space by Centro」(79席)に改装した事例。
延床面積6,943.23平方メートル、鉄骨鉄筋コンクリート造地上11階地下1階建て。JR「五反田」駅徒歩1分に立地。空きが出た10階の一部を時間料金制で利用できるワーキングスペース、自習室に改装。3月30日にオープンした。
空港ラウンジをイメージしたワーキングスペースには、カウンターやテーブルタイプ等の普通席(38席)のほか、グレード感のあるブースタイプの席(9席)を設置。自習室の32席も、通常は普通席として提供する。いずれの席も電源やWi-Fiを完備している。
こちらが特徴的なのは、従来のコワーキングスペースが、会員制で執務利用がベースだったのに対して、会員登録をしなくても短時間から低価格で利用できること。オープニング価格では、普通席で12分当たり100円から、最大料金1,500円という設定だ。ホームページでの事前予約のほか、エントランスの券売機にて利用時間分のチケットを購入できる。利用時間は平日の9時~20時30分。なお、顧客の声を踏まえて、土曜日、日曜日も営業する方向で準備中を進めている。
その気楽さから多様な顧客層の獲得が期待できる。実際、渋谷等にある既存のコインスペースでは、仕事利用に限らず、スマートフォン等の充電や趣味の集まり等、多くの人が多様な目的で利用しているという。
改装費については、初弾としてのフラッグシップモデルということもあり、必ずしも採算性を優先しなかった部分はあるというが、多様な集客を得ることで、知名度と収益をあげていきたい考えだ。
コインスペースの既存利用客を中心に、ドロップインや新規会員なども増加傾向にあるという。新規会員は、仕事での利用が主で、毎日利用している人が多い状況だ。セミナー等での貸し切り利用といった需要にも対応していく計画だ。
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都市部では、大規模新築ビルの竣工ラッシュにより、築年数が経過した中小ビルはますます集客が難しい局面を迎えるといわれている。一方で、スタートアップ企業や個人ワーカー等からは、手頃な広さや価格で、大企業が推進しているようなサテライトオフィスの利用やリフレッシュスペースの確保といった、柔軟で快適に働ける環境が不足しているという声もある。
これまで空室に悩んでいた既存中小ビルも、今回紹介した事例のように新たな発想を取り入れることで、まだまだ活用できるチャンスはありそうだ。(umi)