記者の目 / 開発・分譲

2018/12/4

コンバージョンは一期一会

ホテル開発ラッシュの中、超好立地で新規開業

 東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定してから、「宿泊施設不足」「ホテルの建設ラッシュ」といったキーワードをよく耳にするようになった。実際、2016~20年の4年間では東京都で31%、大阪府では42%もホテル客室が増加し、今ではむしろ「供給過多」という声まで挙がっているが…
 ラグジュアリーホテルならともかく、先に挙げた「客室不足」に対応するような宿泊型ホテルにとって重要になるのは、やはり観光地や最寄り駅へアクセス性の高い“立地”ではないだろうか。
 そんな中、日本土地建物(株)は5月、都心の駅前1分の立地に「春日の湯 ドーミーイン後楽園」を新規オープンした。
 激戦が続くホテル事業、同社はなぜ、この場所でホテル開発に踏み切ったのだろうか。また、同ホテルは今後どのような戦略を打ち出し、周辺ホテルとの差別化を図っていくのだろうか。

「春日の湯 ドーミーイン後楽園」外観

◆好立地で開業のワケは、“コンバージョン”

 ホテル開発の発端は、同物件を保有・利用していた一般企業が移転を決めたこと。実は同物件は元オフィスビル。1995年の竣工以来、20年以上企業の本社として機能していた。

 日本土地建物は、移転のコンサルティングを担い、その一環で、同社グループの日土地アセットマネジメントが組成したファンドが同物件を取得。そのまま転売する案や、オフィスのままバリューアップ改修する案も検討したが、周辺に同規模の競合物件が複数あることから、同物件の立地特性に着目した別の案の検討を開始した。

◆決め手は立地と建物状態

 同物件は都営三田線・大江戸線「春日」駅から徒歩1分と駅近。さらに、同エリアは東京ドームや武道館等の観光施設や大学等の教育施設、オフィスも集積しているとあって、かなりの宿泊適地だった。併せて、同時期に同エリアで新規ホテル開業の予定もなかったことから、「オフィスをホテルへコンバージョンする」という同社初の計画が始動した。

 なお、コンバージョンにおける工事費のコントロールに最も留意すべき点だが、同物件は建物状況が良好であり、エレベーターホールの仕上げ材やカーテンウォール、窓などの既存部材を可能な限流用する工夫を、設計会社・施工会社一丸となって検討した。「収益性はホテルとしたほうが格段に上がることが期待でき、計画始動の決定打になりました」(同社CREコンサルティング部プロジェクトマネジメントチーム副課長・深谷正則氏)。

建物断面図。左がオフィスビル時代、右がコンバージョン後

 建物は、敷地面積約1,632平方メートル。地下2階地上9階建て、延床面積約7,559平方メートル。オフィス時代は、地下1階が会議室・倉庫、1階がテナントと事務所、2~9階が執務スペース。コンバージョンにより、地下1階を大浴場・レストラン、1階をテナント・エントランス、2階をフロント・簡易宿所、3~9階ホテル客室へと改修した。

◆既存パーツの流用が好転。客室バリエーションにつながる

 オフィスビルをホテルへ用途変更するに当たり、課題となるのは“旅館業法”だ。特に客室には「採光窓の面積を床面積の10分の1以上とする」という縛りがある。しかも今回はコスト削減の観点から、「状態の良い既存パーツは流用する」という方針があり、窓もその1アイテムだった。 

 そこで、元々執務スペースであった3~9階のホテル客室は、オフィス時代に使われていた従来の窓を起点に、床面積を合わせる形で設計した。その結果、元社長室の区画は、ビジネスホテルらしからぬ巨大な展望窓が設置された32.2平方メートルの客室に。

ビフォー(オフィスビル時代)
アフター(コンバージョンで客室となった)

 一方、元給湯室だった区画は、セミダブルのベットや1人掛けのソファが置かれた14.4平方メートルの客室になった。

既存の窓も自然に配置され、元給湯室と言われなければわからない
窓に合わせて客室を設計したため、部屋の形状もパズルのように入り組んでいる

 また、窓に接しないフロア中心部もホテル客室とは出来ないため、ロの字型に客室を配置し、中心部はリネン室とした。

中央はリネン室。建物の外周に沿ってロの字型に客室を配置

◆個室では採光が確保できないフロアは簡易宿所に

 2階以下は、さらに採光の確保が難しかった。フロアの奥行きが19mと、3~9階に比べてかなり長く、同じように中心部をリネンとしたホテル客室フロアにするにはデッドスペースが大きすぎる。また、地下1階に関しては、そもそも採光がない。

 そこで、2階は天井に接しない仕切りで専有スペースを区切るキャビンタイプの簡易宿所とし、レンタブル比を増加させた。

キャビンタイプの客室

 地下1階は大胆に、約330平方メートルのレストランと、約100平方メートルの大浴場(男女別)を設置。共用部の充実を図った。

大浴場

◆オープンから3ヵ月、反響は?

 同物件は竣工後、日本土地建物グループが運営する私募リート「日本土地建物プライベート投資法人(NTPR)」に組みこまれた。また、ホテル運営は(株)共立メンテナンスがになっており、同社のホテルブランド・ドーミーインとして運営されている。 

 オープンしてから約3ヵ月。現在は全体の8割の客室で宿泊予約を受け付けており、稼働率は90%を超えているという。「キャビンタイプの宿所は、気軽に宿泊したい周辺のワーカーや、観光目当てで宿泊費を抑えたい若年層からの反響が大きく、また、大浴場は、周辺のホテルや簡易宿所ホテルとの差別化ポイントとなり、これを決め手として宿泊を決めてくださるお客さまもいます」(同ホテル支配人)。

***

 日本土地建物は04年よりコンバージョン事業に注力しており、「オフィスからSOHO型住宅」、「社員寮から老人ホーム」、そして、今回の「オフィスからホテル」など、8つのプロジェクトを手掛けてきた。今後の事業展開について深谷氏は「当社はさまざまなノウハウを蓄積しているが、コンバージョンは一期一会で、良い物件が見つかって初めて計画できるもの。今回は、建物のポテンシャルと周辺マーケットが合致したため、ホテルにするという結論が出た。物件ありきの事業なので先読みできないが、今後もコンスタントに取り組めれば」と話す。

 同ホテルには、コンバージョンならではの工夫により、キャビンタイプの簡易宿所や、大きな大浴場などのポイントが生まれた。それが、若年層の観光客や、周辺に集積する企業のスタッフなど、1泊の宿泊料金を比較的安価で抑えたい顧客層にマッチし、反響を呼んでいる。同氏の、「コンバージョンは一期一会」という言葉が腑に落ちた。
  一見制限が大きく思えるコンバージョンだが、既存の設備を活かすことで、安価で、しかし現代に沿ったニーズを生み出すことが出来る手法。同物件はその魅力が、最大限に生かされていると感じた。(お清)

【関連ニュース】
オフィスをホテルにコンバージョン/日土地(2018/5/11)

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コンバージョン

建物の用途を変更すること。例えば、空きオフィスを集合住宅に変更する、社員寮を有料老人ホームに変更する、というような変更を指す。構造、設備、防災法規など、法的、技術的にクリアしなければならない点も多い。

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