記者の目 / その他

2020/9/5

“さりげない”見守りをICT活用で実現

 高齢者世帯が増加している。内閣府発表の資料によると、2017年の時点で、65歳以上の人がいる世帯は2,378万世帯。全世帯(5,042万5,000世帯)の47.2%を占める。核家族化の進展により、離れて暮らす家族や身内にとって、安否を確認できる見守りサービスのニーズはより高まっているといえるだろう。
 これまでの取材活動で見てきた見守りサービスは、監視カメラや赤外線センサー、そして人が訪問することにより見守りをするケースといったものであった。それが最近では、IoT・ICTを活用した、これまでとはまったく異なる見守りサービスが登場している。キーワードは“さりげない見守り”だ。

◆電気を「点ける・消す」で安否を知らせる

 NTTレゾナント(株)が提供する高齢者向け見守りサービス「goo of thingsでんきゅう」(以下、でんきゅう)。今年3月にリリースされた同サービスは、電球を住居内に設置するだけで離れて暮らす身内に安否を知らせることができるというサービスだ。

 「従来からある見守りツールの多くは、機器の導入・設置など手間がかかるものがほとんどでした。しかしこのサービスは電球をソケットに挿入するというシンプルなもの。説明書などを読まなくてもできる作業で設置を完了できます」(NTTレゾナント パーソナルサービス事業部CA部門担当課長桐山淑行氏)。

「goo of thingsでんきゅう」は、SIMを内蔵した電球。LEDのため寿命が長く、交換は長期間不要

 電灯のスイッチをON/OFFすると、その情報がクラウドに送信される。離れて暮らす家族などの見守る側は、スマートフォンにアプリを入れれば、その情報を確認できる。

でんきゅうのON/OFFをアプリで確認することができる
 

 「でんきゅう」は、住戸の中のどこに設置しても、複数導入してもOK。どこの「でんきゅう」がON/OFFされたかも、アプリで確認できる。「日に何度も使う場所として、当社としてはトイレへの設置を推奨しています。トイレは薄暗く、日中でも点灯することも多いので、その点でもトイレへの導入がおすすめです」(桐山氏)。

 ON/OFFの通知に加え、長時間連続で点灯・長時間無点灯の状態が続いた場合は、見守る側のスマートフォンにアラートがプッシュ通知される。

長時間連続で点灯・長時間無点灯の状態が続いた場合は、プッシュ通知で知らせる

 このアラートを確認して、電話などで連絡をとったり、訪問したりすることで、異常発生時にも早期の対応が可能となる。

 高齢者世帯ではWi-Fi環境がない場合も多いが、このサービスでは電球に内蔵されたSIMで携帯キャリアの通信回線を活用するモデルのため、Wi-Fi設備の費用や工事は不要である。

 見守られる側の精神的負担が少ない見守りというのも、このサービスの特長。監視カメラなどを設置する場合、見守られている人に「監視されている」というストレスが発生しがちだ。しかし「でんきゅう」の場合、外見上はそれまでと何ら変わるところはない。“知られる”情報も電球をON/OFFしている状況のみ。高齢者自身が電灯のスイッチを押すことで、家族へ「今日も元気だよ」と伝えるようなサービス設計となっている。そのため、見守られる高齢者にとっては、ストレスはほとんど感じずに済みそうだ。

 見守る側にとっても、都合の良いときにアプリで手軽に確認でき、かつ、アプリをインストールすれば複数人での見守りが可能なため、精神的負担感は少なくて済む。『特に心配というわけでなくても、ついつい毎日見てしまいます』といった声を聞いています。また、過去の履歴も確認できるため、確認した状況をきっかけに、会話のネタにもなるといったご意見もあります」と、コミュニケーションツールとしての役割も果たしているようだ。

 料金は、初期費用9,800円、月額料金580円。初期費用が数万円、月額数千円というサービスが多い中で、かなり安価な印象を受ける。

◆どの家電を何時から何分使用したかが分かるサービスも

 東京電力エナジーパートナー(株)が提供している見守りサービス「遠くても安心プラン」は、どこの住宅にもある分電盤にエネルギーセンサーを設置し、利用電力を測定することで、見守りを行なうサービスだ。

 先に紹介した「でんきゅう」では、照明スイッチのON/OFFを遠隔で確認する形であったが、こちらは、その家の家電利用状況をWEBアプリで把握することにより見守りを行なう。分電盤に設置されたエネルギーセンサーが、家庭全体の利用電力を測定。その情報を無線LAN経由でクラウドに送信し、それをAIが解析するという仕組み。

分電盤に設置されたセンサー(右下の小さい白い箱状のもの)が利用電力を測定、クラウドに送信。使用している家電を認識し、WEBアプリに通知する

 利用状況を確認できる家電は、電気炊飯器、電子レンジ、IH、洗濯機、掃除機、エアコン、テレビ、その他電気ポットやドライヤー、電気ストーブなどの高熱系家電(電熱線を使用する家電)の計8種類。アプリにより「7時30分ごろに電子レンジを使用」「11時頃から洗濯機を回した」などといった情報を確認することができる。

 「私も両親の家にこのサービスを導入しているのですが、『今朝は炊飯器でご飯を炊いているから、きちんと朝食を食べたんだろう』『今日は掃除機を使用していないがどうしたのかな』など、生活の様子を把握することができます」(東京電力エナジーパートナー(株)経営戦略本部商品開発室開発企画第二グループ・上吉原 瞬氏)。

 なおアプリでは、これらが分かりやすくイラスト付き表示されるため、様子が一瞬で分かる。

見守り先で利用している家電を確認できるWEBアプリの画面
 

 家電の使用状況に加えて、さまざまなアラートも用意。例えば家電を一定時間以上使い続けているときに出る「家電の長時間使用」アラート、見守られる側の人の居住地域で熱中症警戒レベルが上昇しているにもかかわらずエアコンの使用がないときの「熱中症の恐れ」アラート、「電気を使用している様子が一定時間以上ない場合」のアラートなどが用意されている。

見守る側のWEBアプリに表示されるアラートの一つ、「熱中症の恐れ」アラート

 「特徴的なものとしては、深夜帯に家電を使っている場合に出るアラートも用意しています。認知症の初期症状として昼夜逆転行動があるといわれているので、いつもの生活リズムと異なる活動が考えられる時にもアラートを発報するようにしています」(経営戦略本部商品開発室開発企画第二グループ課長・大西 忍氏)。

「家電の深夜利用」のアラート。昼夜逆転行動の有無も確認できる

 同サービスは、安否確認に加え、毎日の暮らしぶりを見守る側が把握できるため、遠く離れていて共通の話題を見いだせないようなときでも、会話につなげやすいという副次的なメリットも大きい。
 「エアコンの使用の有無も分かるので、暑いのにエアコンを使っていないときに『ちゃんと使用しないと熱中症になってしまうよ』と電話で使用を促すこともできます」(大西氏)。利用者インタビューでも、「カメラのレンズなどがないので、親も気にならない様子。子供たちから電話やメールが来てうれしそう」などの声が寄せられている。

 料金は、機器レンタルの場合で初期費用3,300円、月額3,270円、機器買い取りで初期費用6万5,780円、月額1,070円など。インターネット回線が必要となるが、その環境がない世帯に向けてはLTEルーターも合わせて導入できるオプションも用意されている。なお、異常が疑われた際に確認に行くことができない場合に備え、年2回まで無料で訪問確認を依頼できるサービスもついている。

◆第三者による見守りにも活用

 両サービスは、家族・親族間以外の見守りスキームも構築しており、導入実績もある。

 「でんきゅう」は、青森県むつ市で電球を無償提供しての実証実験を実施中(2020年9月末まで)。電球配布を受けた参加者の情報を一括して確認できる管理画面を、同市の福祉課に提供。担当者がログインすると、電球から届く情報を一覧で確認することができる。「アラートが出ていたら電話連絡を入れたり訪問優先度を高めたりといった対応につなげていただいています」(NTTレゾナント パーソナルサービス事業部CA部門・中戸進哉氏)。

 また「遠くても安心プラン」は、民間ディベロッパーが開発する今年竣工予定のシニア向け分譲マンションにて全戸に導入される予定。管理員等のスタッフに、異常時のアラート通知が届き、早期の対応ができるような仕組みだ。

 こうしたシステムがサービス付き高齢者向け住宅をはじめとする集合住宅や賃貸住宅に導入されれば、事故物件と言われる心理的瑕疵物件を減少させることにつなげられるはず。また、孤独死は高齢者に限った話ではなく、働き盛りの年代でも多数発生していることから、一般的な集合住宅に導入しても、メリットが生まれそうだ。年齢にかかわらず、単身者にとっては、安否を意識せずに確認してもらえるというソフトサービスとして、喜ばれそうだ。

◇   ◇   ◇

 これまでやや高額なサービスの印象のあった見守りサービスが、ここまで廉価で提供されるようになった点に驚いた。そして、目に見えるような機器の設置などが必要ないため、見守られる側にはその意識を抱かせることなく見守ることができる環境は、見守る側・見守られる側の双方にとって非常に良いことと感じた。
 また、両サービスに共通しているメリットが、「離れて生活していてなかなか連絡をとらないが、やりとりのきっかけになった」というもの。別々に暮らしていると日頃の様子が把握しづらく、そのことがますます疎遠になるきっかけになったりするが、相手の生活が見える化されることで、メールやメッセージアプリでやりとりする良いきっかけになっているとのこと。デジタルというとやや温かみに欠ける印象がなきにしもあらずであるが、離れていながらコミュニケーションのきっかけになるという点で、むしろ“温かな関係”復活にもつなげられるサービスではないかと感じた。(NO) 

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月刊不動産流通2020年10月号」の特集「コロナで加速! 不動産テックで業務が変わる」でも、同サービスについて掲載しています。併せてご覧ください。                    

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