記者の目

2022/4/18

物件差別化につながる“館内物流”

「館内物流」という言葉を知らない方も多いのではないだろうか。オフィスビルを思い起こしてみていただきたい。入居する企業に宅配で荷物を届ける場合、宅配事業者各社が、直接テナント企業まで荷物をもって届けるのが一般的だが、それに対し、ビルの一ヵ所で全テナントの荷物の配送・集荷を行ない、屋内の配送を専用の担当者が行なうのが「館内物流」というシステムだ。オフィスビルや商業施設などで導入されるケースが増えてきているという。
今回、オフィスビルの館内物流現場を取材することができたので、紹介したい。

◆効率的な荷物の集荷・配達を実現

 子持ち・共働きの記者はネットで買い物することが日常茶飯事。宅配事業者には常日頃からお世話になっている。戸建住宅であれば、個別配送は当たり前だが、大規模なオフィスや商業ビル、マンションで配達を行なうことをイメージすると、そのやり方は非常に効率が悪いように思える。

 高層のオフィスビルに配達することをイメージしてみよう。トラックを駐車場に駐車し、入館手続きを行なう。エレベーターに乗って上層フロアへ移動。受取先の企業で荷物を手渡して下に降りて…という流れになるだろうが、建物の規模が大きくなればなるほど、この作業にかかる時間は増すことは容易に想像できる。単純に駐車場から上層階フロアを往復するだけで、10分単位で時間がかかるだろう。

 そうした作業負担に加え、最近の社会環境の変化も、これまでの状況に疑問符を投げかける。「高いセキュリティを誇るビルが増えている昨今、不特定多数のドライバーが随時出入りする状況は、テナントも含めて決して喜ばれるものではありません。また、コロナ禍で検温・消毒などの必要も出て、おのおのの事業者が個別に配達を行なうことの作業負担は、以前より増しています」と語るのは、西濃運輸(株)のロジスティクス部 BC推進課 課長の平林 涼氏だ。

◆館内物流には多くのメリットが

 そうした状況を解決する手段として、「館内物流」に注目が集まっている。この手法を分かりやすく説明すると、次の図のようになる。

館内配送の概念図(西濃運輸(株)作成資料を基に編集部作成)

 宅配事業者がそのビル内に届ける荷物を、館内物流の担当者に一括で届ける。担当者は各テナントに荷物を届け、集荷も行ない、その荷物を宅配事業者に引き渡すところまで行なう。建物内に専門の物流サービス会社が入り、建物内の配達・集荷を一手に引き受ける。簡単に言うとそのようなイメージだ。
 今回同社が館内物流を担当している「メブクス豊洲」(東京都江東区)での館内物流を取材することができたので紹介しよう。

 駐車場に直結する入口近くに、同社管内物流の荷捌き専用スペースを開設。ここで宅配事業者が届けた荷物をまとめて受け取り、担当者が各テナントへ荷物を届け、併せて集荷も行なう。ドライバーは荷物をまとめて届け、受け取ることができるため、非常に効率が良いように見える。

荷捌き駐車場横の入り口から入ってすぐのところに、館内配送の事務所兼作業スペースがある。
宅配事業者はこのビル内の荷物をまとめて届けて配達終了。ドライバーの負担は大きく芸減されているように見受ける

 時間帯指定での配達や時間指定での集荷もOK。冷凍冷蔵庫を配送センターを完備しているため、クール便についても対応する(本物件では事情により提供していないが、代引き・着払いといった収受代行もサービスメニューとして用意されているそう)。

 なお、名称は「館内物流」だが、荷物の受取・引渡しを外部施設にて実施するケースもあるという。例えば商業施設でアパレルや雑貨など嵩のはる荷物が多い場合などがあり、そのようなケースでは外部の物流倉庫などを活用してこのシステムを導入するケースがあるそうだ。
 昨今、大規模商業施設が増えている。巨大モールの中の特定店舗に一つの荷物を届ける…それはたいへん非効率に思える。館内配送システムは、そうした非効率性を解消するよいシステムだと感じた。

 ちなみに、このシステムを導入することで、荷物の配達業務自体の効率化以外にも、下記のようなメリットが期待できるという。

①荷捌き駐車場の混雑緩和
各社のトラックの駐車時間が短くなることから、駐車場の混雑緩和が期待できる。また入退館管理システムの活用により、効率的に駐車場を利用してもらうことが可能になる。

➁荷捌き駐車場スペースの縮小
各社の駐車時間が減ることで、トラックの回転がよくなり、結果として駐車場を減らせることにつながる。

③路上駐車の減少
①に関連して、時間指定などがある宅配では、駐車場に停められない場合、建物近くに路上駐車して配達に向かう場合が往々にしてある。しかしその状況はビルの美観を損ねるし、何より安全面でも問題がある。荷捌き駐車場の混雑が緩和されれば、必然的に路上駐車も減る。

④荷捌きエレベーターの混雑緩和
ビルや施設によっては、台車などで乗ることのできるエレベーターが限定されているケースも多い。その上、各社が台車を出して荷物を運ぶとなると混雑してしまうことが容易に予想できるが、館内配送の場合館内配送業者単独のため、混雑リスクが大幅に下げられる。

⑤個別対応の手間の削減
複数社の配達員に個別に対応する必要がなくなることは、ドライバーにとっても、そしてテナント従業員にとっても大きなメリットだろう。

伝票についても、ドライバーはビル内のものをまとめて出して渡せばOK。館内物流事業者が、まとめて受取の手続きを行なう。館内に届けた結果、荷物の差し戻しが必要だった場合も、館内物流の事業者が対応

 同社は現在、大規模複合ビルや大規模オフィスビル、大型商業施設など8物件で館内配送を担当。着実に実績を積み上げている。

 これまであまり耳にすることのなかった館内物流だが、再開発などによりビルや施設の大規模化が進む中で、今後は積極的に導入する事業者が増えていくのではないだろうか。

◇    ◇ ◇

 このシステムは、ビル事業者やテナント事業者にとってメリットが非常に大きいと感じた。駐車場稼働の効率化が進めば、荷捌き駐車場の数を減らすこともできるだろう。ドライバーが頻繁に出入りすれば、館内の衝突や破損のリスクも当然高まるわけで、そうしたものを排除できたら、管理会社にとってもありがたいのではないか。

 しかし、聞いてみると、現状このサービスは、配送事業者が業務効率化を目的に費用を拠出するというケースが多いそうだ。従って費用負担を重く感じる配送事業者は参加できず、館内物流による配送と一般の配送が混在しているのだという。
 このシステムの効果をさらに上げるためには、多くの事業者が参加できる仕組みとする必要があり、今後は配送事業者の負担を軽減し、参加を促すことが重要であると感じた。

 なお、先般取材した物流施設では、館内物流はテナント事業者へのサービスとして、施設運営会社が費用を負担していた。
 ビルや施設の価値向上と考えて運営事業者の負担に理解が得られたら、この効率的なシステムは一気に普及していくだろうし、それはテナントサービスとして物件の差別化にもつながるのではないかと思う。(NO)

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