記者の目

2022/11/9

ウクライナ・ロシアの争いと日本の金融(後編)

 「月刊不動産流通」で「不動産事業者と地域金融機関のWin-Winな関係に向けて」を連載中で、金融を中心にさまざまなデータを分析している佐々木 城夛氏に聞いた、ウクライナ・ロシアの争いと日本との関係性について解説していただく第2回目。建築などへの影響についてもうかがった。

◆木材だけではなく、あらゆる資材の価格が上昇

 ‐‐不動産事業に関係する木材などでも、物価上昇が著しいようです。

 「木材はもちろんですが、建材、金属なども含めて日本国内には資源が乏しく輸入に依存していますので、価格上昇が進んでいます。そんな中で、しばしば報道されているのが木材価格ですから、その印象は強いでしょうね」

 ‐‐“ウッド・ショック”という言葉は、もはや一般名詞化したようにも思います。

 「この事象の要因は、ウクライナへの侵攻以外にも、昨年の米国のロックダウン解除後の住宅建築需要の拡大、そして、世界的な虫害・山火事などといった、いくつもの理由が複層的に重なり発生していると考えられています」

お話をうかがった沼津信用金庫参与
(元・信金中央金庫)の佐々木 城夛氏

 ‐‐環境問題も大きく影響していそうです。

 「統計を確認できる今年7月時点の価格は、新型コロナの感染が国内でみられるようになった2020年の平均価格に比べ、製紙の主原料はもちろん、バイオマス燃料やガーデニングの資材などに使用される木材チップも6.2%上昇しています」

 ‐‐えっ、そんなに値上がりしているんですか!

 「かねてより、脱炭素社会を実現させるべく再生可能エネルギーの導入拡大が模索され、バイオマス発電所もその1つに挙げられていました。しかし、こうした状況を受け、今年2月には、日本製紙㈱の山口県岩国市における計画撤回ほか、採算を取ることが難しいと判断した事業者の計画休止・白紙撤回が相次いでいます
 その他、 木材は74.6%上昇し、建設用材料は112.3%と、文字通り倍以上の価格となっています(図表1参照)。

図表1 木材関係物価指数推移

 21年の輸入木材のうち、ロシアからのシェアは金額ベースでは5.2%に過ぎません。しかし、住宅用の製材分野では、EU、カナダに次ぐ第3位となっています。今後の戦闘の長期化により、建築やリフォーム費用などがさらに上昇可能性は十分にあるでしょう」

 ‐‐他の資材の価格も上昇していますね。

 「鉄骨についても価格が上昇しているのは、皆様ご存知のとおりです。
 鋼材には、鉄鉱石と原料炭を高炉で精錬する鉄骨と、解体ビルなどから出る鉄スクラップを電気炉(電炉)の電熱で溶解して再利用する鉄筋があります。鋼鉄に占める割合は、前者と後者とほぼ3:1であり、前者は自動車ほか製造業中心に提供され、後者は建設業を中心に供給されています。
 日本国内では鉄鉱石は全く採掘できず、全て輸入に頼らざるを得ないため、国際市場価格の変動の影響から逃れることはできません。そうした電気炉関係の価格ですが、鉄スクラップ価格のピークが2008年7月の一方、鋼材のピークは今年の5月以降になっています(図表2参照)。

図表2電炉材原理用・鋼材価格推移

 この図を見てお気づきの方もいらっしゃると思いますが、2008年のあたりと21年以降に上昇局面が確認できます」

 ‐‐本当ですね。08年と言えばリーマンショックですか?

 「そのとおりです。21年以降の上昇は、新型コロナによる影響と思われます。なお不況期による価格上昇という二重の負荷を被る形となります。近時の価格上昇は“アイアン・ショック”とも呼ばれています。
 日本は資源に乏しく食料自給率も低いため、国内の物価は国際商品市況動向に左右されます。3月17日に米国が政策金利を引き上げたことで、日本との金利差が拡大。ドル円の為替相場では円安が継続し、これが物価を押し上げています。
 米国の連邦準制度理事会(FRB)のパウエル議長は、8月26日に実施した講演でも、約40年ぶりの記録的なインフレを抑制するため、強力な金融引締策を継続することを強調しています。6月、7月、9月に、3会合連続でそれぞれ0.75%の利上げを実施していますが、今後もさらに引締策を優先する“タカ派”の姿勢を明らかにしています」

◆アメリカ利上げ!で日本は?

 ‐‐アメリカは、利上げに舵を切りましたが…。

 「一方で、日本銀行は金融緩和策を継続する姿勢を崩していません。そのため、金利差はさらに拡大する可能性があります。先に挙げた国内の電気炉で生産される鉄筋についても、国際市場の価格変動の影響を受けます。輸出した方が高く売れるならば、そちらに流れるからです。中国を始めとする海外需要は強く、急激な円安が、輸出志向を後押しすることにもつながるでしょう」

 ‐‐日本国内で予想される変化は?

 「10月13日に、企業間の取引価格である国内企業物価指数の9月の速報値が公表されましたが、前年同月比9.7%の上昇で、過去最高となりました。一方で、小売価格である消費者物価指数は、前年同月比で、9月も3.0%の上昇に過ぎません。コロナ不況の折、これまでは調達費用が上昇しても、企業側が消費者離れを恐れて小売価格に転嫁していなかったことを裏付けています。
 しかしながら、企業側の体力にも限界があり、原油価格の高騰などを知る中で、消費者側にも一定の理解が得られると企業側が判断。小売価格が上昇してきています。

 ‐‐スタグフレーション(景気後退と物価上昇の同時進行)の可能性も示唆されていますね。

 「2008年には、イランとイスラエルの軍事的緊張を背景とした原油高に、リーマンショックが加わってスタグフレーションが発生しました。今回発生すれば、前回同様に、地政学的リスクの顕在化に伴う景気悪化と位置付けられるでしょうね」

スタグフレーションの危惧も(写真はイメージ)

◆金融機関の融資姿勢は変わる?

 ‐‐金融機関との取引時に注意しておいた方が良いことはありますか。

 「20年3月にスタートした“ゼロゼロ融資”の総額だけで約42兆円に達するなど、新型コロナの感染拡大に伴う経済活動へのテコ入れ策が融資市場にもたらした影響は甚大です。もっとも、これは金銭の給付ではなくてあくまで『融資』ですので、当然ながら返済を求められます」

 ‐‐そうすると、金融機関の姿勢が厳しくなるような気がします。

 「金融機関側は、今年度から元本の返済が本格化すること、そうした中で相当数の延滞などが見込まれること、をすでに強く意識しています」

 ‐‐ということは、少しは安心できるのでしょうか。

 「明確な回答は難しいですが…。先に挙げた米国に加え、英国でも、8月4日に27年ぶりという0.5%の金利の引上げに続き、9月22日にもさらに0.5%の引き上げが決定されました。利上げは7回連続で、いずれも、ウクライナ情勢などを背景とした物価の高騰に対応した金融引締策です。
 この結果、金融機関が保有する(米国ドルほか)外貨建債券などの価格が下落して決算に影響を与えることが必至となりました。その一方で、円安や物価高がさらに進み、さまざまなな事業者の決算に悪影響を与える中で、さらなる支援が要請される見込みであることに悩まざるを得なくなっています。
 従って、金融機関から融資を受けている中で、残念ながら売り上げや利益などの事業計画が未達成の場合は、できる限り具体的なてこ入れ策の説明を行なえるようにしておくなど、慎重な対応にご留意いただいた方が良いと思います」

◇ ◇ ◇

 ロシアのウクライナ侵攻のニュースが発せられた当初、この争いがこんなに長引くとは夢にも思わなかった。そして、急激な円安ドル高、物価上昇と、一寸先も見通せない状況に、漠とした不安を抱かずにはいられない。
 なお佐々木氏によると、現在の黒田東彦日銀総裁の在任中には、事業に影響を及ぼすような金融引き締めなどが早々行なわれる予定はなさそうとのこと。今回の取材を通して唯一の安心材料の話というのが悲しくもある。(NO)

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