記者の目 / 仲介・管理

2023/4/24

「心理的瑕疵」の解消に挑む

事故物件の価値取り戻す「オバケ調査」

 賃貸住宅オーナーや管理会社にとって、避けては通れないトラブルの一つである「心理的瑕疵」。室内で住人が孤独死したり、建物内で人が死ぬなどして一度「事故物件」の烙印を押されてしまうと、賃貸住宅としての価値は長年にわたり毀損する。国土交通省が指針を出すなど、不動産実務の現場でも事故物件の円滑な流通に向け努力が進んでいるが、ユーザーや仲介事業者が事故物件を忌避する限り、問題は解決しない。今回は、この「心理的瑕疵」を取り除き、事故物件の価値を取り戻そうと、新しいビジネス「オバケ調査」をスタートした会社を紹介する。

「何となく」が引っ掛かり、賃貸実務者すら「住みたくない」

 「結局のところ、心理的瑕疵というのは、読んで字のごとく『心の持ちよう』の問題。その不安を取り除いてあげれば、物件の価値は取り戻せるはず」と語るのは、不動産コンサルティング会社、(株)カチモード代表取締役の児玉和俊氏。

 児玉氏は15年以上にわたり、賃貸住宅の管理やコンサルティングに携わり、賃貸管理の実務者として、メンテナンス事業の責任者として、事故物件に苦しむオーナーや仲介・管理実務者の苦労を目の当たりにしてきた。管理部門の責任者だったころには、「部下に任せるとショックを受けてしまう」(児玉氏)と、8か月間で5件もの事故物件を自ら処理した経験もある。

「何となく気持ちが悪い」という入居者心理を取り除かない限り、事故物件問題の解決はあり得ません」と語る、カチモード代表の児玉氏

 「入居者の室内汚破損はたいていの場合、オーナーの火災保険で処置できるのですが、特殊清掃が必要なほどの事故物件は、さすがに厳しい。最低でも70万円以上、ゴミ屋敷での孤独死などは数百万円のリフォーム費がかかります。せっかく綺麗にしても、家賃は相場の6~7割からのスタート、それでも客付けが難しい。仲介担当者を責めるわけにもいかず、やるせなさだけが残ります」(同氏)。

 事故による賃貸住宅の価値を取り戻すにはどうしたらいいか、児玉氏は悩んだ。そこでまず、事故物件に苦労している側の管理会社の実務者に「自分なら事故物件に住みたいか」を聞いたところ、「亡くなった人(オバケ)に何かされそう」「事故があった後一番最初に住むのは嫌だ」など、見事なまでに「住みたくない」という答えが返ってきた。

 2021年10月には、国交省から「特殊清掃が入るほどの事故物件でも、3年を経れば告知の義務はない」という指針も出たが、「事故物件であることを知らされないのは嫌だ」という実務者もいて、結局は「(事故物件は)何となく気持ちが悪い」「オバケが出そう」という入居者心理そのものを取り除かない以上、どんなルールがあっても問題は解決しないという結論に達した。

 
特殊清掃を終えた物件。これだけ綺麗にしても、従前の家賃は取れないし、入居者も簡単には決まらない

 当の実務者でさえ忌避させる「何となく気持ちが悪い」という感覚は、同氏も理解できないわけではなかった。実際、7,000室以上の賃貸住宅に立ち入ってきた同氏も「言葉では説明できないが、気持ちが悪いこと」を数十回経験してきた。「かび臭いわけでも、ジメジメしているわけでもないのですが、何かがあった部屋は入ると臭いが違うのです。後で聞くと、首つり自殺が2回もあった部屋だったとか…」(同氏)。

 しかし、実に非科学的な「何となく気持ちが悪い」を理由に事故物件が避けられていたら、事故物件問題は永遠に解決できない。ならばこの「何となく~」を科学的に可視化し、否定できれば、事故物件のイメージを払しょくし、不動産の価値が取り戻せるのではないか?。そのためには、当事者ではない第三者的立場が必要だと、勤めていた不動産会社を辞め、22年12月、カチ・モードを創業した。

物件に泊まり込み、夜なべでデータ計測

 同社が手掛ける「オバケ調査」とは、事故物件の現地に同氏が赴き、「オバケ出現のプライムタイム」(同氏)の深夜帯(22~6時)に滞在。「映像録画」「音声録音」「電磁波調査」「室温調査」「湿度調査」「風力調査」を通じて、「オバケとのコミュニケーションを取る」(同氏)というもの。事業立ち上げにあたっては、ポルターガイスト現象などの超常現象を科学的に調査している明治大学教授の小久保秀之氏の監修を得ている。

「オバケ調査」の七つ道具。ICレコーダー、カンテラ、温度計・湿度計、電磁波測定器、ビデオカメラ、カメラなどを駆使して「おばけとのコミュニケーション」を試みる

 「オバケ」とは「実際に存在するのかしないのか明確な証明ができない存在」で、現地調査を通じて、何らかの「異常現象」や「計測数値の異常」が発生しないかを確認し、その結果を詳細な報告書としてまとめる。調査料は1件5万円。同じ住戸の再調査は1万5,000円だ。

 「オバケが出た」とする条件は「オバケが出て、コミュニケーションが取れた」「オバケの存在を複数回確認した」「オバケを確認した」など5つ。入居者など「オバケが出たと主張する人」が一緒の場合、同時に出会うことが条件となる。

調査の結果異常が無ければ「証明書」を発行。「おばけは出ない」お墨付き
報告書は、事故発生の経緯から調査結果まで記載しているため、それ自体が立派な告知書ともなる
計測した各種データは、30分ごとにその数値を記録していく

オバケ発見の「懸賞金」で相場賃料での運用目指す

 さて、同社は「オバケを調査する会社」ではなく、不動産コンサル会社。面白いのは、ここからだ。万が一、オバケが出た場合、同社は依頼者(オーナー)に「懸賞金」を出す。懸賞金の額は、おばけ発見の5つの基準に照らし最大で100万円、最低で10万円。そのうえで、その住戸を同社が借り上げて、告知期間が過ぎ、賃料が元に戻るまで運用する。つまり、オーナーへの懸賞金は、事故物件化して毀損した賃料の補填でもある。

 一方、調査の結果、異常が無かった住戸には、科学的異常はなかったとして証明書を発行する。これが「オバケは出ませんよ」という一応のお墨付きとはなるが、もちろん「事故物件」としての告知義務は残る。そこで、今度はこの懸賞金を「入居者」に出す。「事故物件ですが、万が一オバケが出たら、懸賞金を出します」というわけだ。この「証明書」+「懸賞金」で、事故物件であっても相場賃料での運用を目指すという。

 類のないビジネスということもあり、事業立ち上げ当初から問い合わせも多い。実質4ヵ月の間に、4件の調査を行なった。3物件は室内で、1つは敷地内で飛び降り自殺があった物件。いずれも異常はなかったそうだが、「各種計測データは30分ごとの平均値を報告しますが、敷地内で自殺があった物件は、深夜に一瞬、異常な数値を示しました。あとで聞いたところ、その時間は推定死亡時刻だった」(同氏)なんて聞くと、記者は少しばかり背筋が寒くなる。

 ちなみにこの物件は、100戸中20戸が空き住戸だったが、調査と懸賞金とを組み合わせたことで、間もなく10戸が埋まったという。「オバケ物件」が出た場合は同社が借り上げ運営でリスクを背負うわけだが「オバケ好きのコミュニティなどから『事故物件で一晩過ごしたい』『怪談イベントで使いたい』という話は結構あるので心配はしていません」(同氏)とポジティブに捉えている。

◆     ◆     ◆

 事故物件を「お祓いする」という賃貸会社は聞いたことがあるが、心理的瑕疵に科学のメスを入れるというのは、今までになかったビジネスだ。「1回入居者が入れ替わった事故物件の再調査や、事故物件ではないが『何となく嫌な感じがする』という入居者からの依頼(この場合は、管理会社の許可を得る)のほか、鑑定士からは『(墓地が隣接するなどの)忌み地評価』の参考資料としても使えると言われています」(同氏)。

 もちろん、最大の目的は「価値を戻す」から付けた社名の通り、心理的価値問題の解決だ。「独居高齢者が増え続ける中で、室内で人が亡くなるというのは避けられません。賃貸や売買仲介の現場では、それありきで流通する仕組みが必要であり、当社の存在意義は小さくはないと思っています」(同氏)。
 一度「金縛り」に遭った経験のある記者も、機会があれば「同行取材」にチャレンジしたいと思う(J)

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心理的瑕疵の告知

宅地建物取引業者が不動産の取引や取引の代理・仲介を行なうときに、取引の相手に心理的瑕疵を告げること。宅地建物取引業者は、業務を行なうときに、取引条件に関する事項であって、取引相手の判断に重要な影響を及ぼすこととなるものについて、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為が禁じられている。

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