記者の目

2023/5/19

“猫ファースト”のリノベーション

愛情の対象から「伴侶」へと変化したペット

 コロナ禍により在宅ワークの機会が増え、ペットの飼育者が増加。現在は空前のペットブームが巻き起こっている。伴侶のように暮らすペットを示す「コンパニオン・アニマル」という言葉も認識されつつあり、ペットは愛情の対象ではなく、心を通じ合う対象として考えられるようになってきた。そうした中、猫と人がお互い幸せに暮らせる“猫ファースト”のリノベーションで、ウェルビーイング(Well-being)を高める提案を行なっている不動産会社もみられる。

◆猫・犬の総数が15歳未満の人口を上回る

 先日、驚くべき数字を目にした。日本で飼育される猫・犬の総数1,589万匹が、15歳以下の人口1,447万人を上回るというものだ(2022年時点)。16年には、「猫>犬」の逆転現象が起こり、猫の飼育頭数は増加の一途をたどっている。

 (一社)ペットフード協会の調査によると、18年から猫の新規飼育頭数は3年連続で増加しており、21年は48万9,000頭と、過去8年の調査で最大飼育頭数を記録した。

 その背景として、日本の住環境(マンション暮らし)や、ライフスタイルの変化(都心回帰・共働き)に猫の習性がマッチしていることが挙げられる。
 例えば、鳴き声が小さい猫を飼うのはマンション暮らしに適しているし、散歩が必要ない猫なら昼間仕事で家にいない人でも飼いやすい。医療費も犬の半分程度で、お金も手間もかからないと言われている猫は、これからも増加し続ける可能性が高いという。

◆いつまでも健康でいてほしいから

 「愛する猫にはいつまでも健康でいてほしい」。そうした飼い主の願いをかなえるべく、猫専門のフレッシュフードを提供する会社も現れている。

 キャットフードをはじめとしたペット関連商品の企画・製造・販売を手掛ける(株)uniam(東京都港区、代表取締役:杉本亜衣氏)は、ペット栄養管理士・獣医師と一緒にキャットフードのレシピを開発。栄養バランス・新鮮さ・味わい・食感にこだわり、合成保存料や香料、着色料は一切使わない。豊富な動物性タンパク質と良質な脂質を考え、産地や輸送ルートまで分かる肉や魚を使用しているとか。人間の食品も調理できるほど厳しい衛生環境基準をクリアしたキッチンで製造。新鮮な素材の栄養を壊さず、人の手でやさしく低温調理しているそうだ。

ペット栄養管理士・獣医師と一緒にレシピを開発するこだわりぶり<画像提供:(株)uniam>
猫は食事の好き嫌いが多く、人工的な味付けをせずに満足させるのは至難の業なのだとか<画像提供:(株)uniam>

 1パック80グラムで、価格は600円ほど。1食にかける値段としては決して安くない。

 また、昨日まで食べていたキャットフードを急に食べなくなったり、食べムラが起きたりと、猫の食事への悩みを抱える飼い主が多いことから、年齢や体重、体格に合わせ、獣医師が猫のフードプランを診断するサービスも提供しているそうだ。

◆「好き」を形にした「偏愛」のある暮らし

 こうした猫好きのユーザーに対し、猫と人間が幸せに暮らす住まいのリノベーションを提案しているのが、既存マンション探しとリノベーションのワンストップサービス「リノベる。」を提供するリノベる(株)。

 同社は、人は誰でもちょっとした「偏愛」を持っており、その「好き」という気持ちを形にしたリノベーションを提案することで、心も体も元気になる満足した暮らしが実現できると考えている。
 特に、ペット可物件の賃料の高さからマイホームを購入し、愛猫との暮らしを存分に楽しもうというユーザーも見られるといい、同社では猫好きの人のためのリノベーションも提案。ユーザーが猫を迎えることを前提に住宅を購入・リノベーションした事例や、愛猫と幸せに暮らすためにリノベーションした事例など、偏愛ぶりがうかがえる“猫ファースト”のリノベーションが増えているという。

 一つの例を紹介しよう。
 物件探しでは、愛猫の日向ぼっこの環境を考え、日当たりを重視。築31年、約68平方メートルの2LDKを、1LDK+WICにリノベーションした。

愛猫との暮らしを存分に楽しむため、既存マンションを購入。従前は2LDKの間取りだった<画像提供:リノベる(株)>
1LDK+WICにリノベーション。明るく開放感のある空間となった<リノベる(株)>

 一緒に暮らすのは少し大きめの猫。市販のキャットウォークの強度に不安があったため、LDKの壁と天井をぐるりと囲むオリジナルのキャットウォークを設置。一部はアクリル製とし、愛猫の遊ぶ姿や肉球が下から眺められるようにした。
 一番日当たりのいい場所に設えたインナーテラスには、白樺の原木を2本設置。マンションの室内でも自然が感じられる要素を盛り込んだ。キッチンは猫が入れないよう独立したスペースに。安全性を確保しつつ、お互いに寂しくないよう、キッチンの正面に室内窓を設けている。廊下の玄関手前には防止用の建具を設け、さらに安心・安全に暮らせる環境を整えた。

一番日当たりのいい場所に設けたインナーテラスには、白樺の原木を2本設置<画像提供:リノベる(株)>
キッチンの正面に室内窓を設け、猫の様子を見守りながら料理ができるようにした<画像提供:リノベる(株)>

 リノベーション後、飼い主はおうち時間が充実し「早く家に帰りたい」という気持ちが増したそう。愛猫の遊ぶ姿に癒される毎日を満喫しているという。

◇   ◇ ◇

 空前のペットブームは、ペット業界のみならず、不動産業界にも新たなビジネスチャンスをもたらす可能性がある。
 例えば、本棚としても利用できるキャットウォークを備え、飼い主と猫が心から喜び幸せに暮らせる「ペット共生」賃貸を供給するなど、家賃を上乗せしたとしても猫好きにはニーズがあるだろう。また、入居者特典としてペットの健康相談サービスを無償で提供したり、飼い主同士のコミュニティ形成を促すイベントを開催したり。こうした猫好きをターゲットとしたサービスは、飼い主の心をつかんで長期入居のきっかけとなるかもしれない。

 リノベーションだけでなく、アイディア次第でさまざまな不動産ビジネスに展開できる可能性を秘めた「ペットブーム」。今後の動向に注目したい。(I)

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お知らせ

2024/3/7

「海外トピックス」を更新しました。

飲食店の食べ残しがSC内の工場で肥料に!【マレーシア】」配信しました。

マレーシアの、持続可能な未来に向けた取り組みを紹介。同国では、新しくビルを建設したり、土地開発をする際には環境に配慮した建築計画が求められます。一方で、既存のショッピングセンターの中でも、太陽光発電やリサイクルセンターを設置し食品ロスの削減や肥料の再生などに注力する取り組みが見られます。今回は、「ワンウタマショッピングセンター」の例を見ていきましょう。