海外トピックス

vol.320 鮮やかな色彩と深い影に満ちたメキシコ南部の町

ワハカの町。どこの家の壁も鮮やかな色に塗られている。スペインの影響で鉄細工が至る所に使われ、美しい

 ピンクや赤、黄色、青、紫など、鮮やかな色彩が町中に氾濫している。ワハカ(Oaxaca)は16世紀スペイン植民地時代の建物が市内に多く残るメキシコ南部の美しい町である。

 強い日差しなので、中間の微妙な階調が吹っ飛び、色彩の鮮やかさと影に覆われた暗部の対比だけが目に飛び込んでくる。それらに対峙する時、こちらの生命力が強くないと、たじたじとなる。

 時間が経つにつれて濃い影が静かに移動してゆき、その変化で刻一刻、街全体の色彩がダイナミックに変貌する。

ワハカの町。光と影との対比が激しい

ハワイやバリとも異なる、メキシコの「光」

 メキシコでの旅の最も強い印象は「光りの質と静けさ」であった。光りと影の対比が強烈というだけでない。科学的な解明はきっとされているのだろうが、光りの粒子が細かいというか、浸透力が強いというか…。

 トロピカルな地域に行くと、例えばハワイやバリ島、カリフォルニア州南部でさえ同じように日差しが眩しいが、メキシコの光に限っては、いずことも違うのだ。乱舞する光でなく、色彩が体内にストレートに染み込んでくるような感覚にとらわれる光だ。

 そして不思議な静寂さ…。

アーティストのスタジオ。地元の土を使い、彫刻の作品を多く制作している(ワハカ)

近代建築家バラガンの色彩感覚を肌で

 以前、メキシコシティを訪れて、建築家ルイス・バラガンが設計したいくつかの家を見学したことがある(Luis Barragan Morfin 1902-1988)。

 建築の本では何度も見ているが、現地を訪れ、実際にその場所でその瞬間の空気の濃密さや乾燥の度合い、光りと影が織りなす簡素で力強い建物を目の当りに見て、初めてその美しさとデザインの必然性に納得した。

 バラガンは、モダニズム建築の範疇に入るが、メキシコの田舎の民家に見られる鮮やかなピンクや赤、黄色、紫など地方色を取り入れてバランスよくまとめた近代建築家である。広い壁面に強い日差しが影を落として壁の色彩と強烈な対比をなすのだが、自然光を大きな要素としているため、季節や時刻、その日の天候によって印象が違う。

 彼の建築はメキシコシティに集中しているが、ワハカ地方の壁の色や街並みを眺めて、バラガンが感じた色彩とメキシコ独特の光と影との調和を共感できたのだった。

色鮮やかな壁にメキシコの先住民を表現した彫像が力強い(ワハカ)
強い日差しが壁に濃い影を落としている。植物も花々も色鮮やかで生命力に満ちている(ワハカ)

芯から明るいメキシコ人たち

 それにしても、メキシコ人達の温かい微笑みや明るさは一体全体どこからくるのだろう? 
 町でも田舎でも、年齢・職業・性別にかかわらず、こちらの心に染み渡るような笑顔が驚くほど印象的であった。媚を売るとか、あいまいな笑いでは決してなく、芯から明るさがこちらに直接伝わってくる。

 ラテン民族特有の楽天的な性格、と片付けてしまうには余りにも厳しい歴史を経てきたメキシコ人達…。16世紀のスペイン侵略を始めとして、数え切れない内乱続きの世を生きてきた彼らには、悲しんでいる余裕などなかったのかもしれない。

 深い影があれば明るい日なたがあって初めて一対となるワハカの町のようだと受け止めたが、旅人の勝手な思い込みかもしれない。

冬の季節でさえも光と影の対比が強い

欧米諸国に蹂躙された歴史を経て独立、高度成長へ

 メキシコの歴史ははるか紀元前にさかのぼる。マヤ文明、アステカ帝国が残したピラミッドや神殿跡が現在でも見られる。

 16世紀まで群小都市国家が割拠したが、1519年にスペイン人コルテスら軍隊がメキシコに上陸してのちスペインの植民地となり、過酷な支配と搾取・収奪に苦しむ時期が300年も続いた。2,500万人いた先住民のインディオ人口はスペインがもたらした伝染病や飢餓で100万人ほどに減少したと言われる。

 1821年、スペインからの独立を果たすが、経済混乱やクーデターが頻発。弱体化したメキシコはアメリカ合衆国やフランスに蹂躙され、国土の3分の1を失い、1910年にはメキシコ国内鉱山の4分の3が外国人の所有となった。

 諸国からの搾取や度重なる内乱にもかかわらず、その後高度成長を果たし、1968年にはメキシコシティでオリンピックを開催までになり現在に至るが、いまだに国内の経済は安定しているとは言い難い。

紫貝から染料をとり藍と共に織物に仕上げる伝統的な方法が継承されている(ワハカ)

標高1500メートル。昔ながらの生活や伝統が残る土地

 ワハカ市は盆地で、標高1500メートルの高地にある。近辺の村々では未だに16余りの先住民の言語が使われているそうで、スペイン語が通じない地区が少なくないそうだ。

 素朴で伝統的な日常着をまとったお年寄りをみかけるし、綿の栽培から糸紡ぎ、織り、刺繍、陶器や木彫などの伝統工芸も健在で、工房見学もできる。

 温かい笑顔と豊かな色彩を求めてか、カナダやヨーロッパ、アメリカ北部から訪れる避寒客が多い。

ワハカの町には安くて美味しいメキシコ料理のレストランが多い


参考資料:Mindling, Eric Sebastian. 「Oaxaca Stories」 in Cloth. Colorado, USA., Thrums Books. 2016.


注:「Oaxaca」は 日本ではオアハカというようだが、アメリカではワハカと発音しているため、以下勝手ながらワハカと表記させていただきました。

Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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2017/10/20

「海外トピックス」更新しました

Vol.332 フェリーニ的由緒ある屋敷 の記事を更新しました。

19世紀、石油や鉄道、港湾貿易などで栄えたテキサス州には、富裕層が建てた大邸宅が立ち並びました。

今でもその面影を残すエリアがありますが、そうした地域でヴィクトリア様式の古い物件を改装してモダンなスタジオと住まいにしたイタリア生まれの女性がいます。

まるでフェデリコ・フェリーニの映画に出てくるような住まいをレポートします。