カリフォルニアに住む友人(インテリアデザイナー)はタウンハウスに住んでいる。多くのタウンハウス同様に庭は広くないが、サボテンやハイビスカスを植えたパティオは朝のコーヒーを戸外で楽しむ最高のスポット。夕闇に包まれたパティオでワインを傾け、仕事の疲れを癒す友人の姿も楽しく想像できる。
日々忙しいので、一戸建ての家だと芝を刈ったり水を撒いたりの時間がなく、コンドミニアムにしても100%管理してもらえるかわりに、上下四方壁に囲まれた密室で息苦しい。タウンハウスは、仕事を持つ彼女のライフスタイルにとって、両方の短所を補えるという点でぴったりなのだろう。
英国貴族のセカンドハウスとして発展(?)
タウンハウスは元来、英国の貴族や富裕層が社交シーズンになるとロンドンにやってくる時の住居として定着したと聞いたことがある。普段は田舎の城やカントリーハウスに住んでいるのだが、ロンドンでは家族に加えて召使いや料理人など使用人を連れて来るので、幾所帯か繋がっている長屋式の家が実用的であった。
「長屋」というと筆者には志ん生の落語が反射的に思い浮かぶが、ロンドンの場合は石造りの建築様式なので、重厚さも様式もまるで違う。
アメリカにもロンドンのタウンハウスのアイディアが移入されたのか、ニューヨークやボストン、フィラデルフィアなど由緒ある都市に歴史的なタウンハウスが残っている。
アメニティが充実。リゾートスタイルのタウンハウス
友人が住んでいるシーブリッジ・タウンハウス (SeaBridge Huntington Harbour は、ロスアンゼルスから海岸沿いに南に下った郊外にあり、1979年に建てられた合計132戸のタウンハウスで、ゲイティッド・コミュニティ内にある。設計はロスアンゼルスを中心にモダンな商業建築設計を手がけ、数多くの賞を受賞しているランドゥ・パートナーシップ建築設計事務所 (Landau Partnership Architectural Firm)。
敷地内にはプール、テニスコート、スパ、クラブハウスなどアメニティ(共有施設)が充実。ボートデッキ付きタウンハウスも揃え、まさにリゾートスタイルのコミュニティタウンハウスと言えるだろう。
開放的、プライバシー重視の設計
シーブリッジ・タウンハウスは各戸をずらした設計がユニーク。玄関やガレージが隣同士平行に並んでいないので、出入りに隣人と顔を合わせないですむわけだ。
さらに、隣とは壁でつながってはいるのだが、防音には充分考慮している。例えばこちらの寝室の壁の向こうは隣の納戸であったり、こちらは居間で隣は廊下になっているなど。
また、通常タウンハウスは開口部が少なく室内が暗くなりがちだが、シーブリッジは自然光が入るよう工夫してある。友人のオフィスは窓から天井へといっぱいに日光が入り、しかも開口部をずらしているため隣戸が見えない。戸外で憩えるように2階の寝室からベランダへ出られるし、1階の居間からパティオへも。
西海岸の日光と潮風が通りぬけ、集合住宅ではあっても閉鎖感が全く無いのが印象的だ。
バルコニーでつながる6戸だけのタウンハウス
ユニークな建築設計のタウンハウスがコロラド州にもある。全敷地内に6戸ある住戸が、室内の壁ではなくバルコニーの壁で接している。それに各戸が角度を変えて建てられ、バルコニーの壁を上手に配していて隣を見通せない。
6戸のHOA(ホーム・オーナーズ・アソシエーション)なので委員会も小規模で、冬の雪かきと春夏秋の芝刈り業者への支払いやいくつかの会計報告など、1年に1度集会があるだけ。
6戸が集まって年に1度パーティを催したり、誰かが旅行する際はペットの世話をし合ったり…、コミュニティの一員として友人は楽しんでいるそうだ。
隣人との距離感が利点。今後の進化が楽しみ
昔建てられたタウンハウスは、各戸の玄関は別であっても折々顔を合わせたり、庭で寛いでいる様子が隣から丸見えなど、やはり集合住宅ならではの不都合が出てくる。アメリカ人は家と家、人と人との空間を十分にとる気質があるので、一戸建てとコンドミニアムの利点を活かし、両者の欠点を排除した新しいタウンハウス様式は、将来発展する可能性がうかがえる。
個人の暮らしはきっちりと線を引いてプライバシーを守り、タウンハウスならではのアメニティを利用したり距離をおいての近所付き合いを楽しんだり…、今後の進化が楽しみなタウンハウスである。
Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com
コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。