海外トピックス

2017/9/21

vol.330 大人のアートキャンプ:ペンランド工芸学校(その2)

セッションごとの小規模なライブオークション。資金集め(奨学金)のために行なわれ、せりの専門家により進行される。せり人はスコットランド風のスカートをはいていたが理由は不明(ノースカロライナ州 Penland School of Crafts。以下同)

 基金集めにはさまざまなアイディアがある。とりわけペンランド工芸学校における「アート・オークション」は実際的で優れたアイディアであろう。今年8月に行なわれたアート・オークションでは7,040万円の総売り上げがあったとのことで、それらはキャンパス内建物の修繕費用等に使われる予定だ。

 同校は非営利団体なので、政府や州からの助成金に加え、グループや個人による寄付金が運営資金の大きな割合を占める。年に1度開かれるアート・オークションは、200人以上のボランティアが関わる重要なイベントである。

関わりのあるアーティストらが作品を寄付しオークション

 オークションの仕組みはどうなっているのかと言うと、これまでに同校で教えたアーティストや工芸家達に作品を寄付してもらい、集まった品々を2日間に渡って同校のイベントとして競売を行うというもの。
 このオークションを目的に人里離れた過疎地の同校まではるばるやってくるのは、美術館のディレクターやキュレーター、美術品蒐集家、ギャラリー関係者などそうそうたるメンバーだ。もちろん、アートや工芸に興味のある人なら誰もがオークションに参加できる。

競売に寄付されたガラスクラスの生徒の作品だが、白熱化して値がつりあがり筆者は落札をあきらめた。8万円を超したのではなかろうか

 作品はせりの専門家によって1点ずつ競売にかけられる。競売人により値段がつけられ、買いたい人は手をあげて興味を示す。せり人はさらに高い値段をアナウンス、欲しい人が手をあげ次々と値がつり上がっていく。
 買うか買わないか、その値段が妥当かなど、瞬時に判断しなければならず、興奮と緊張感がみなぎる熱気の中で競売が繰り広げられてゆく。

誰もが自信の最新作を出展

「サイレント・オークション」。出ている作品に自分で値をつけて一番高い値段をつけた人が落札する。中央に置かれた金槌は鉄を打つところからの手作り

 アーティストとしては、寄付した自分の作品が美しいカタログとして記録に残るし、美術館に収蔵されるかもしれないから、誰もが最新で力強く代表的な作品を寄付するようだ。今回は500点位の作品が集まったのではなかろうか。
 「サイレントオークション」も同時に開催される。品々が一堂に展示され、人々は鋭い視線でぞろぞろと展示された作品を見て回る。気に入った作品があると、これぐらいなら妥当かな?と思う金額を作品に付されたカードに書き入れる。すでに誰かが値段を書き入れてあれば、それより高い値段をつけておく。
 最終的にもっとも高額な値をつけた人がその品を入手するというシステムである。目利きの蒐集家にとっては掘り出し物を手にする絶好の機会でもあろう。

2週間後に仕上がった陶芸クラス生徒達の作品の数々。作風は自由でのびのびとしている

受講費用は2週間でおよそ30万円

 ところで、ペンランド工芸学校の講習を受ける費用であるが、2週間の講習を受けるのに最低で30万円は用意する必要がある。内訳は12万円の月謝プラス教材費(1万円前後)と、食事代および部屋代の11万円(最低料金)。それに交通費だ。鉄道がまるで発達していないアメリカでは、飛行機を使ったり車をチャーターするか自分で運転して人里離れた過疎地までたどりつかねばならない。
 参加者の大半はキャンパス内に泊まるが、部屋のタイプによって料金に差が出てくる。一番安いのは「バス・トイレ共同4人部屋」で11万円の部屋代(食事込み)。一番高いのは「バス・トイレ付き一人部屋個室」で35万円だ。
 食事は3食ダイニングホールで好きなものを好きなだけ皿に盛るので、沢山食べるか何を選ぶかはその人の選択次第。食事内容になんら差はない。だから参加費用に差が出るのは部屋の選択だけである。

朝昼晩の食事はダイニングホールで。戸外のピクニックテーブルの横、枝束が絡まった彫刻は、有名なアーティスト、パトリック・ダゥーティ氏の作品。http://www.stickwork.net

学生の奨学金捻出にも工夫

 ペンランド工芸学校では、目標としてすべての参加者に工芸を学ぶ機会を設けている。しかし、30万円からの参加費用が必要となれば、学生にとって捻出はたやすくない。従って参加者は経済力がある中年層とゆとりのあるシニア世代に集中する傾向がある。
 経済的には苦しいが、アート及び工芸をぜひとも学びたいという熱意あふれる若い世代や、将来の作品展開に可能性が見受けられる学生達にもおおいに学んで欲しいと望む同校では、彼らを迎え入れるために奨学金の調達にも工夫を凝らしている。

笑いの絶えないオークション会場

それぞれのセッション最終日に講師と生徒が作品を寄付してオークションが行なわれる。中央のメガネをかけた女性は同校エクゼクティブディレクターのジーン・マクラーリンさん

 前述した年1度のオークションに加えて、セッションごとの小規模なオークションも行なわれる。セッションに参加した講師と生徒達が作品を寄付(決して強制ではない)。各セッション最終日に、せり専門家による「アート・オークション」と「サイレントオークション」が同時に行なわれるのだ。
 展示も進行も生徒達がボランティアで参加。オークション中、典型的なおじさんが美しいイアリング作品を耳に飾って見せて回ったり、陶芸作品で食べるまねのパントマイムをする演劇志望の学生等々…。爆笑が絶えない。
奨学金の捻出という基金集めの目的がはっきりしているので、多くの人々がためらわず作品を寄付したり競り落としたり…、共に楽しむ。
 筆者が過ごしたセッションのオークションでは、合計11万円の売り上げがあった。夏は全部で7セッションあるので、加算すれば結構な基金が奨学金として集まることだろう。

 各クラスをのぞくと、若い人々が思った以上に多く参加していて、「いまどきの若い世代は経済力があるんだなあ!」と驚いていたのだが、あとで思い違いが判明。彼らはペンランドからの奨学金を受けて来ているのであった。

Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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