海外トピックス

2017/11/6

vol.333 スポンジハウス

水浸しになったミーナの家(写真提供:Myrma Khan  テキサス州ヒューストン市。以下同)

 8月末にテキサス州ヒューストン市を襲ったハリケーン・ハーべィで、同市の大半が水浸しになった。住まいを失ったり家の被害がひどくて自宅に戻れない人々が現在でも大勢いる。水害にあった家の修復は想像もできない程長引くからだ。
水が引き、どこもすっかり乾いているようでも、目に見えないあらゆる部分に水は忍び込んでいる。スポンジがたっぷりと水を含むように…。

娘婿がボートで救助に

 ハリケーン・ハーべィの2ヵ月後、ヒューストン市に滞在する機会があった。友人ミーナの家は3日間強い雨が降り続いたハリケーン・ハーべィで浸水。ドアから部屋に轟々と流れ込む水は20センチメートルをゆうに越したとか。
 同市内に住み水害を免れた娘のナディアは「ボートを持っていませんか?」と近隣の家々のドアをたたいて訪ね廻った。たまたまバケーション用のボートが借りられたので、ナディアのご主人がミーナの救出にボートで(!)駆けつけたという。

 家の周りも道路も歩道も湖のようになってしまい、深いところでは1メートルもあったそう。水が引くのに2日間はかかったそうで、その間すべての交通機関はマヒ。ミーナの2台の車は工場に牽引して検査してもらったが、いずれも電気系統が濡れていて使用不可で買い換えねばならなかった。娘のナディア宅にしばらく同居して今は別の区域に家を借りて住み、水害にあった自宅の始末をしている。

ボートを借りてミーナの救出に来た娘婿のスティーブ

修復には1年…。でも、もう住めない

 「自宅の修復に1年はかかりそうだけど、再びこの家に戻る事はないでしょうね…」とミーナ。保険で修復費は出るが(100万円程度と予想)、修復だけ、という制限がある。
 しかし土台を上げずに修復しただけではハリケーンの多いヒューストンのこと、また同様の水害に遭うことだろう。だから家を壊してそこに新たに建てるか、土台を作り直して床を上げて改築するかの選択肢。いずれもかなりの費用(5,000万円位と予想)がかかろう。
 もしも新築や土台を建てるとなると、その費用に対しては保険がきかず自分持ちとなるので、ミーナは自分の家を壊して更地にして売り、別の場所に家を購入することになるのではないか。

水害の際の安全の確保は…

ハリケーン・ハーべィで歩道も道路もすっかり水浸しになり、当分の間、車も自転車も使えず、交通機関を失った

 水による被害はハリケーン、突然の豪雨、屋根の水漏れ、下水管の破損、冷蔵庫、流し、食洗機、洗濯機の故障など、誰にでもどこででも起きる可能性がある。
 そうなった時にまず第一にしなければならないのは、安全の確保。急な水害の場合は子供やペットを避難させる。そして水の被害を最小限に抑えるなど。
 ミーナの場合はハリケーン情報が刻々と届いていたので、大切な書類は高い場所に移したそうだが、カーペットやソファや大半の家具は捨てる羽目に。
 

 浸水が始まったら電気や電線の位置を確認。ちなみにハリケーンが多いヒューストンではコンセントの位置はどの家や建物でも床からかなり高い位置に設定してある。下水管やトイレ関係の水漏れを防止するため、水の元栓を閉めることも忘れてはならない。溜まった水は除水機を使って水を排除。それから除湿機や扇風機で湿気を取る。

専門業者によるインスペクションも必要

ミーナの家の室内では、カーペットはおろか、壁材をすっかり剥がして除水機と除湿機を使ってはいるが…

 第二に、水が引いてきたら浸水の状態を調査する必要がある。これを怠ると、至る所にしみ込んだ水によってあとでカビの被害が広がり、健康を害する原因に。
 インスペクションと修復の資格を必要とされる損傷緩和サービス会社 (damage mitigation service) がいくつかあるので、家の状態を調査してもらう。目に見えない部分まで水分の有無を調べられる探知機を持ち、最新の技術を備えた専門家集団である。なにしろコンクリートから木材、建材、壁紙、エアコンの配管に至るまで、あるゆる部分に水はダメージを与えているのだから。彼ら専門家によって湿気を完全に追い出すのが家の安全性を保つ重要な鍵となる。

修復を焦ると、カビ繁殖の原因に

 第三に、ようやく被害にあった家を修復する時期がやってくるが、焦って時期を待たずに住んだり、改築を始めると、まだ染み込んでいる湿気でカビが生じる危険がある。カビはあらゆる場所に分散、移動、乾いた新しい木材がのちにカビ臭くなったりねじれたりする原因にもなろう。

近隣では沢山の家具や建材がゴミの山と積み上げられている

 ミーナの家はカーペットと壁建材をすべて剥がさねばならなかった。市全体が被害に遭い、多くの家がミーナのように沢山の家具や敷物、建材を廃棄しなければならなかったので、市の回収作業は数週間大混乱。
 「住む家を無くした沢山の人々がこのスタジアムに一時避難していたのよ」と、ヒューストン市中心街にある巨大なオレンジスタジアムを友人に見せてもらったが、自宅が「スポンジハウス」となってしまい、頼る家族も戻る家もない人々はその後どうなったのだろうか。

ミーナ(左)と娘さんのナディア(右)。中央は筆者

参考資料
https://www.usatoday.com/story/money/2017/09/28/harvey-recovery-could-mean-labor-lumber-shortages-texas/711723001/
Chciago Tribune newspaper 9/24/2017

Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

  

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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「住宅インスペクション」を参照。

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