海外トピックス

2019/1/1

vol.352 情緒あふれる建物と不思議な存在が共存する国【アイルランド】

アイルランドには、昔からの風流な建物が各地に残っており、現在も使用されているものが少なくありません。そして古く風流な建物は長い歴史を秘めているだけでなく、”昔からのおまけ”つきのものが多いのです。

時を超えた旅人になる

 ダブリン市街の真ん中を流れるリフィー川沿いにアイルランド最古のパブ、ブレーズンヘッド(Brazen Head)があります。旅行者や地元の人に人気のパブです。この場所には1198年以来、酒や食事を出す宿屋がありました。これがブレーズンヘッドの始まりです。 

1198年、アイルランドで最も古いパブであるブレーズンヘッドはここに幕を開けた

 鉄道が敷かれる前、陸路の交通手段は馬でした。この宿屋は旅人が馬を休ませ、自分たちも旅の疲れを美味い酒と食事で癒す場所だったのです。この宿屋は1613年にはすでにブレーズンヘッドという名前で、宿場町の名宿としての評判を得て経営していました。ちなみに連日連夜、多くのお客で賑わう現在の建物は1754年に建てられたものです。

年代を感じさせる石造りの建物は1754年に建てられた。夜になると門には松明が灯される
1198年に旅人の為に開業したブレーズンヘッドは、時代を経ても旅人を温かくもてなす。パブの前でポーズをとるフランス人旅行者たち

あの世からのお客

 パブの名前のブレーズンヘッドは“青銅の生首”という意味です。この名前は、壁に埋め込まれた青銅の頭が、未来を予言してくれたという13世紀の伝説から取られたものです。ブレーズンヘッドはアイルランドの歴史の中で、何世紀にもわたり有名無名の人々を、酒・食事や宿でもてなしてきました。

パブの入り口には鉄門。旅籠時代に、旅人たちの安全を保障していた名残りなのかもしれない
 

 17世紀の名作『ガリバー旅行記』の作者、ジョナサン・スィフトは確かにお客の一人でしたし、近所に住んでいた『吸血鬼ドラキュラ』の作者ブラム・ストーカーや、オスカー・ワイルドも仕事の合間に、ふらりと立ち寄ったことでしょう。またダブリンで育った小泉八雲も家族と食事をしたかもしれません。そして面白いのが、ここには”あちらからのお客様も顔を見せる“事です。

鉄門をくぐると石畳の長い通路へと続く。そこはもう時代をさかのぼる通路である

 彼の名前はロバート・エメット。エメットは19世紀、ダブリンに生きた若き革命家です。彼はイギリスの統治からアイルランド独立を目指し、ブレーズンヘッドで毎日のように仲間たちと独立蜂起の計画を練りました。しかし計画は失敗、愛国者エメットはブレーズンヘッドから少し離れた場所で1803年に、反逆者として公開処刑されたのです。享年25歳でした。そのエメットは常連だったこのパブで、訪れるお客たちを見渡しながら、彼を処刑した執行人を探していると言われています。

ブレーズンヘッドは旅籠として始まったため、建物の中には多くの小部屋があり、どの部屋でも飲めるようになっている。これは18世紀から使われている最も古い部屋
最も古い部屋にはエメットの遺志を継ぎ、1916年にアイルランド独立蜂起を起こした愛国者たちのポスターがある

 皮肉なことに、その処刑人もこのパブの常連客でしたから。エメットが処刑されて200年以上たちますが、いまだここに彼が現れるということは、目的の人物を見つけていないからでしょうか。ちなみにバーテンダーに聞いてみると、彼の幽霊を見たという話は確かに耳にしたよと答えてくれました。

語りかけてくる建物

 アイルランドでは建物にまつわるこのような話がたくさんありますが、アイルランド人は怖がる代わりに、敬意を持って不思議な存在を受け入れるようです。考えてみれば年に一度、あの世とこの世の扉が開き、死者が戻ってくるのを祝うケルトの習慣、ハロウィーンもアイルランドが起源ですし、ここには“あちらのお客”が帰ってきやすい土壌があるのかもしれません。まさにアイルランドは、情緒あふれる建物と不思議な存在が共存できる国と言えましょう。

愛国者エメットの肖像画にかかるクリスマスデコレーション。今、こうして平和にクリスマスを祝える事をエメットに感謝

 ブレーズンヘッドがある一帯は、1000年以上前、人々がダブリンに居住し始めた地域で、当時に建てられた石造りの教会や、中世の建築物が今でも立派に使用されています。古い建物を、近代的なものに変えようとするのが世界の風潮なのかもしれません。ダブリンもその傾向にあるとはいえ、歴史と情緒あふれた建物があちこち残るこの古都ダブリンには、ロマンや人間ドラマを語る建物が多くあり、話を聞いてくれる人々を待っているのです。

織田村恭子(おだむらきょうこ)
1991年よりアイルランド在住。企業勤務の傍ら、旅行マガジン、エアライン機内誌、その他多くの雑誌、ラジオ番組にアイルランドから料理、ダンス、サイコセラピー、時事問題等、多岐のジャンルに渡り記事・エッセイや話題を発信。海外書き人クラブ会員

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