カンボジアには大きく分けて、雨季と乾季という二つの季節がある。雨季は6月~10月頃で、夕刻のスコールがほぼ毎日降るなど、雨量が増える時期。乾季は11月~5月頃で、雨が降らない&若干涼しくなる時期であり、「結婚式」シーズンに当たる。式は通常2日間ほど掛けて行い、1日目に主だった儀式と親族間でのお祝いパーティーを、2日目に写真撮影や披露宴を行うのが一般的だ。
大変におめでたい話なので、街中で結婚式が開かれ、結婚式のハシゴ参列もやむを得ないという事情は致し方ない。だがこの結婚式が、街中の交通渋滞を引き起こしてしまうのも事実。そんなカンボジアの結婚式事情を紹介したい。
どこの国にも起こる交通渋滞
カンボジアでは、まだ鉄道などの移動手段が確立されていない為、バイク・車が主な移動手段となっており、道路は常に混雑しやすい状況だ。中でも首都プノンペンに於ける朝6時~8時頃の出勤、夕方4時~7時頃の退勤時間前後の渋滞はひどい。
この時間帯は、通常の1.5倍以上の時間を見ておかなければ、目的地に辿り着けないのが常だ。また、プノンペン郊外の外資系工場が立ち並ぶ近辺では、出退勤時間だけでなく、昼食時間前後の11時からも、休憩やランチに出かけるワーカー達で、近隣道路はごった返す。確かに混雑はするが、凡その時間が読めるこれらの渋滞は、避けようと思えば避けることは出来る。
シーズン物の交通渋滞の原因は結婚式!?
問題なのは、冠婚葬祭の会場なのだ。
「結婚式や葬式で渋滞が起きるの?」の質問には「はい、起こります。」と返答するしかない。それは結婚式シーズンの乾季、ある日突然、いつもの道路に、結婚式であればピンクと白、葬式であれば白と黒のテントが設営されはじめる。
この段階ではテントの下をバイクも車も通常通り駆け抜けていけるのだが、数時間後にはテーブル・椅子のセッティングをはじめ、時には調理場まで道路上に迫り出してくる。こうなると良くて片側通行、ひどい時には道路封鎖状態になる。事前のお知らせなど親切なものは一切ないので、朝や昼の段階で「予兆」を感じたら、夕刻以降はその道を迂回するしか術はない。
カンボジアに於ける結婚式
結婚式の1日目は、早朝の行列と儀式から始まる。
一般的に花婿が花嫁宅に入る形をとるため、花婿が参列者を引き連れて、花嫁宅へ向かう早朝の行列から始まるのだが、これを一般道路で行う。早朝とはいえ、富裕層ともなると百名ほどの人が参列するので、警察が交通規制を行ったりと、なかなか仰々しい。またその後の儀式も、路上に張られたテント内で行うことが多く、こちらでも規制や渋滞を引き起こす。結婚式の1日目、それは早朝から夜遅くまで、儀式やらパーティーやらで道路の渋滞、並びに大音量の結婚式音楽が鳴り響く一日なのだ。
2日目は、写真撮影と披露宴の日だ。シェムリアップでは、世界遺産アンコール・ワットや、5つ星ホテルのガーデンなどで写真撮影を行うことも多い。カメラマンの指示に従って、女優張りの様々なポーズを決める。夕刻は結婚式の〆となる披露宴だ。こちらは、披露宴会場を借りて行うことが多く、みな煌びやかな衣装で参列する。昨今では、これまで見られなかったブーケトスがあり、若者に人気だ。
道路封鎖状態で執り行われる、行列を始めとした一連の儀式は、カンボジアの文化習慣として深く根付いているので、このシーズンの突然の交通渋滞には、出会ってしまったら運が悪かったな、と思うほかない。
道路使用の規制がもたらす変化
とはいえ、さすがにカンボジア政府も見かねたのか、はたまたクレームが入りだしたのか、交通渋滞を引き起こす原因の一つでもあった「建築現場の資材」に関して、「一般道路に置いてはいけない」というルールを2019年1月に発表。7月からは、いよいよ「冠婚葬祭の道路上での開催禁止」が施行される。施行されても実施されるまでに時間のかかるカンボジアだが、今年が最後の道路封鎖結婚式の年となるのだろうか。反面、こうした習慣が無くなってしまうと思うと、やや寂しい気もする。
青山直子
「海外書き人クラブ」所属。東京都出身。2000年よりカンボジア・シェムリアップに在住。カンボジア人の主人と息子二人と暮らす。14年間観光業に携わったのち、39歳で若いころから夢見ていた整体師として独立。並行してズンバインストラクターとしても活動中。2017年よりフリーライターとしてカンボジアの不動産事情や生活・食べ物コラムなどを手掛ける。