海外トピックス

2020/2/1

vol.365 地価が異常な上昇をし続けるヒマラヤの見える都市で、家を持つために大家になる【ネパール】

住宅が密集する首都カトマンズの中心部

 ヒマラヤ山脈の南側の麓、インドと中国に挟まれた小さな多民族国家ネパール。北海道の約1.8倍の土地に、約3000万人の人々が暮らしている。アジア最貧国のひとつに数えられてはいるが、首都カトマンズや第2の都市ポカラでは、土地の値段は物価上昇率を上回るカーブで上昇し続け、一戸建てを持つことが年々難しくなっている。

急カーブを描き上がり続ける土地の値段

 「こんなに土地の値段が上がるのなら、無理しても借金しても買っておけば良かった…」。土地の値段について地元の方々に話を聞いて回っていると、ため息と共にこんな声が聞かれる。

 首都カトマンズの中心街から東に約10キロの新興住宅エリア、20年前に1坪あたり約8,000ルピーで購入したという土地が、現在では1坪あたり約25万ルピーになったと語った人もいた。20年間で約30倍という計算になる。一方、公務員の初任給は2万ルピーに満たない。その月給で1坪25万ルピーの土地を購入するなど夢のまた夢だ。

 ここ20年を振り返ってみて、ネパールの土地の値段は上がり続け、生活日用品の値段の上昇カーブに比べ物にならないくらいの急カーブを描いている。

崩れそうでなかなか崩れない土地神話

 かつて国民の8割以上が農民であったネパールでは、元々土地に対しての執着心が強い。農家にとって1番の財産、それは土地である。しかし、土地の値段だけが異常に上昇し続けているには他にも理由がありそうだ。

 その理由の一つに、銀行預金よりも土地への信頼度が高い上に、居住するのに適した(インフラが整っているという意味で)土地が極端に少ないことが挙げられる。特に人口密集都市であるカトマンズやポカラは盆地であり、外に広げることができないという地理的条件も大きく影響している。土地争奪戦状態なのだ。

 それ故に、土地の値段が上昇し続ける現象が続き、確実にリターンが得られる投資として土地信仰がさらに深まるという循環となっている。土地を担保に、銀行ローンを組んで新たに土地を購入し、それを売った利益で、また新たな土地を買う。年利10%以上の銀行ローンを組んでも利益があるほど、土地の価格の上昇率は高い。

 また、ネパールでは固定資産税が高くない。土地の評価価値にもよるが、カトマンズ郊外の住宅地(市内中心部まで約10キロ)で3階建家屋の所有者でも年間固定資産税は数千ルピーに過ぎない。土地神話の信者が増えるのも仕方ないのかもしれない。

第2の都市ポカラもここ十年の間に高い建物が増え、屋上からでないとヒマラヤが見えなくなってきた。

土地を切り売りして建築費を捻出

カトマンズ中心部の古い住宅街では、隣の家と壁を共有している

 このような状況では、村から出てきた庶民が都市部に一戸建てを構えることなど、到底無理なように思われる。実際、カトマンズやポカラで一戸建て住宅所有者たちは、代々地元で土地を持っていた地主たちが多い。でなければ、先進国への出稼ぎで得たまとまった金で土地を買った人々かだ。20年前であれば、ここ観光都市ポカラでも100万ルピーもあれば一戸建て家屋には十分すぎるほどの土地が購入できたのだ。

市内中心部から3キロ程度の場所でもこのような田園風景が見られた

 土地を所有する人々は、諸有している土地の一部を売却した資金で家を建てる。かつては田圃が広がっていたカトマンズやポカラの市街地周辺は、田畑が宅地へと姿を変えていった。売るほどの土地を持たないものは、土地を担保に入れ、銀行ローンを組んで家を建てる。

 しかし、中にはローンを返済するために海外で何年も出稼ぎしなければならず、実際にその自宅に住めるのはリタイア後といったケースもある。

家と職を一度に手に入れる

あるいは、自宅スペース以外を賃貸することでローンを返済するパターンもある。

一見普通の家だが、『フロア貸出中』とベランダに案内が見える

 話を聞かせてもらったSさんは、4年間韓国で出稼ぎして貯めたお金を元でに銀行ローンを借りて4階建て住宅を建てた。土地は親のもので、子供2人の4人家族で1階(3LDK)に住んでいる。
 2階、3階はほぼ同じ間取りで3LDK、4階は1LDKで広いテラス付き。各階は外階段でつながっておりフロアごとに個別の玄関を有する。ターゲットは外国人長期滞在者。家賃は家具付きで(ベッド、タンス、カーテン、布団、ガスコンロ、テレビ、冷蔵庫、WIFI付き)、1フロア月4万ルピーほどで、毎年10%ほどアップしていく。3フロアが全部埋まれば、毎月10万ルピー以上の収入となり、それは公務員の初任給の5倍位上である。

 地元産業が低迷するネパールでは出稼ぎから戻っても就職するあてはない。Sさんは、出稼ぎで得たある程度のまとまったお金を元に、家を建て、賃貸を営むことで、家と職を一度に手に入れたのだ。ネットが普及し、Airbnbのような仲介業もあり、今のところ大家業は、順調だという。

 彼の家の周りでは、新築、増築をして同じような形態の賃貸業を営む者が増えてきていた。一見普通の家に見える建物が、実は賃貸ということが多い。都会に土地を持っていれば幸せになれるという土地神話は、まだしばらく続きそうだ。

資金が貯まったら建て増しする予定で2階の柱だけが中途半端な状態で放置されている家もよく見かける
建て増ししたフロアは、賃貸にすることも多い

※2019年11月現在 1円=1.01ネパールルピー


宮本ちか子
1967年広島県生まれ、1997年よりネパール在住。元業界紙編集者。30歳でネパールで起業。ネパールの観光都市ポカラにて15年間宿の経営に携わる。その後、宿を売却、現在はフリーランス編集者&ライターとして活動の傍、ワークショップやスタディツアーのコーディネイト&通訳や日本のNPO法人の現地活動サポートを行う。「海外書き人クラブ」所属。

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