海外トピックス

2020/6/1

vol.369 中世から続く、女性のコミュニティ長屋「Hofje」【オランダ】

 現代社会は、高齢の単身者が孤独を感じやすい傾向にあるのではないでしょうか。けれど欧州オランダには、高齢のおひとりさまでも「仲間たちと付かず離れずの距離でゆるやかに繋がれるコミュニティ住宅」が存在するのです。そんな素敵な住まいのお話をさせてください。

中庭がつなぐ、女性のコミュニティ

 その素敵なコミュニティ住宅は、オランダ語で「Hofje」(ホッフェまたはホッフィエ)と呼ばれています。Hofjeは、中世から続くオランダ独特の住居スタイル。当時の富豪などが(当時は生活力のなかった)高齢の未亡人や独身女性に住む場所を提供したのが元々のはじまりです。本来「Hofje」は「中庭」を意味する単語なのですが、そういう住居が中庭を囲んで長屋のように建てられていることが多いので、意味が転じてそのように呼ばれるようになりました。

 中世では無料で住めたようですが、現代では社会保障が充実してきたこともあり、居住者は年金などの収入に応じて家賃を支払っています。そして中には一般の集合住宅と同様、男性やファミリーと共に住める物件もでてきました。けれども、今でも多くのHofjeが「単身女性のみ」というスタイルを維持し続けています。

 今でも主にオランダの北部にHofjeが残されていて、特にハーレムという街には大小合わせて22か所もHofjeが現存しているのです。その中でも、平日の日中は観光客に開放されているHofjeを3か所ご紹介します(ただし、グループでの見学は要予約)。

オランダ最古の「Hofje De Bakenesserkamer」

通りから見た「Hofje De Bakenesserkamer」の扉

 まず最初にご紹介するのは、1395年に建てられたオランダ最古の「Hofje De Bakenesserkamer」。こちらは、伝統通りに女性だけが入居できるHofjeです。ハーレムの街のにぎやかな界隈に存在するのですが、重厚な門に守られ、中は驚くほどの静寂が保たれています。

「Hofje De Bakenesserkamer」の中庭
「Hofje De Bakenesserkamer」中庭にある募金箱

 美しい中庭は11人の住人が共同で管理していますが、管理費のための募金は大歓迎だそうで募金箱も設置されていました。そして庭仕事の合間に住人同士でお茶でもできそうなテーブルセットまであり、どんなカフェで飲むよりも美味しくお茶が飲めそうな空間に仕上がっています。

「Hofje De Bakenesserkamer」の中庭にあるテーブル

裕福な商人の遺産「Hofje van Staats」

通りから見た「Hofje van Staats」の扉
「Hofje van Staats」の中庭

 こちらのHofjeは、元々裕福な地元の商人が1730年に設立した建物。当初はその商人自身の邸宅でしたが、その死後に「自分の遺産はすべて50歳以上の貧しい女性たちのために譲る」という遺志のもと、Hofjeとして生まれ変わりました。こちらもその当時と同じく、女性だけの住まいとして引き継がれています。
 そして当初は30部屋造られましたが、20世紀になって当時の生活様式に合うよう、20部屋の物件として改築されたのだそう。豪商の邸宅だっただけあり、中庭も広くて見事です。

「Hofje van Staats」の可愛らしいドアと窓
「Hofje van Staats」の住人の居間

 このHofjeに立ち寄った際、住人の方がご好意で部屋を見学させてくれました。部屋のすべてが可愛いのですが、特にクローゼットをアレンジしたようなベッドにはときめきました!

「Hofje van Staats」の住人のベッド

 ちなみにこの方は当時まだ入居して数か月でしたが、彼女の隣人は20年間もこのHofjeに住み続けているのだそう。素敵な環境なので、長く住みたくなる気持ちも分かります。

醸造所OGのための「Brouwershofje」

通りから見た「Brouwershofje」の外観

 最後にご紹介するHofjeは、1472年に設立された「Brouwershofje」。オランダ語で「Brouwer」とは「醸造家」を意味するのですが、その名の通りビール醸造所で働いていた高齢女性たちが引退後に住むための家として始まったのだそう。元々は22人が住める住まいでしたが、火事による焼失と改築による部屋の統合が行われ、現在は4世帯のみが住める小ぶりなHofjeです。

「Brouwershofje」の中庭
「Brouwershofje」の長屋

 たまたま家の前でお友達とお話を楽しんでいる住人の女性がいたので話を伺ってみると、寝室が2つある暮らし心地の良いアパートになっているのだとか。ちなみに、ここは男性も一緒に住める珍しい物件。この方はパートナーと一緒に住んでいるそう。「居心地が良すぎて、もう18年もここに住んでますよ!」と笑っていました。Hofjeは単身者ではない人にも住みやすいようです。

◇◇◇

 どのHofjeも個性的で、そこに居るだけでとても気持ちの良い空間です。主に一定年齢以上の女性が住むことが多いですが、決して介護ホームという訳ではありません。自立した(主に)女性同士が、中庭を通してゆるやかにつながりながら暮らしているコミュニティなのです。日本もこれからの高齢化社会に向けて、こうやって住民同士がゆるやかに支え合い、孤独を感じないでいられる住居が求められるのではないでしょうか。


倉田直子
オランダ在住ライター/タイニーハウス・ウォッチャー。リビア(革命から脱出)、英国スコットランドでの生活を経て、2015年よりオランダ在住。主な執筆ジャンルは、オランダの教育・子育て事情、タイニーハウスを中心とした建築関係など。著書「日本人家族が体験した、オランダの小学校での2年間」は、2019年度の東京大学教育学部附属中等教育校の入学試験に採用された。「海外書き人クラブ」所属。

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