海外トピックス

2021/1/1

vol.376 正しく使えば数百年はもつ、エコな建築素材アドベ【ペルー】

 粘土に少量のわらを加えて水でこね、型どりして天日で乾かす日干しレンガ「アドベ」。アフリカやアラビア半島など乾燥地帯特有のものと思われがちだが、ここ南米ペルーでもアドベは古くから建材として使われてきた。

アドベ独特の風合いを活かしたクスコのプチホテル

 例えば、20平方キロメートルもの広大な都市をアドベだけで造り上げたチムー王国の都市遺構「チャンチャン遺跡」や、1億数千個ものアドベが使用されたというモチェ文化のピラミッド「太陽のワカ」(ワカとは“聖なるもの”の意)など、アドベを使った遺跡は枚挙にいとまがない。

世界遺産「チャンチャン遺跡」。丁寧に磨き上げられたアドベの表面には、網目模様や動物柄のレリーフが施されている

 また、モチェ文化の「月のワカ」と呼ばれる神殿からは、マルやバツ印のほか指を突っ込んだような痕が残るアドベが多数発見されている。これらは神殿建設に必要なアドベを誰(または工房)がいくつ納品したかを示す刻印と言われており、2000年前のアドベ一つから、労働にほんの少し人々の遊び心を加えた当時の様子が伝わってくる。

アドベを何層にも重ねて造られた「月のワカ」
納品者別の刻印が刻まれた2000年前のアドベ。それぞれに個性があって面白い

アンデス地方だからこそ、
アドベが大活躍

 アドベは21世紀の今でも現役の建材で、特にアンデス地方ではアドベ造りの家屋が多い。標高の高いアンデス山間部では、気密性の低い木造家屋は防寒に不向きな上、建築に適した樹木も乏しい。一方、アドベの壁はどっしりとした厚みで日中の強い日差しを貯え、夜になるとその熱をゆっくりと吐き出し寒さから屋内を守ってくれる。アンデスの寒村ではかまど以外の熱源を持たない貧しい家庭も珍しくない。アドベのおかげで冷え込みが和らぐので、このような家でも家族が凍えず夜を過ごせるのだ。

天日に干される大量のアドベ。アンデス地方ではお馴染みの光景だ

 もちろんアドベにも弱点はある。その一つは雨に弱いことだが、雨よけの軒を設け、漆喰で外壁に防水対策を施せば耐久性は格段に向上し、壁の基礎部分に石材やコンクリートを使えばより頼もしい造りとなる。

写真左側の家屋は、長年の雨で土台部分が崩れ始めている
予算の問題だろうか、正面だけ塗装し側面はアドベの壁がむき出しのままという横着な家

 また、レンガなどに比べ地震に弱い面があるものの、首都リマの日本・ペルー地震防災センターによると、柱に鉄筋を入れたり、壁にネットやビニールシートを塗り込むだけで耐震性は飛躍的に向上するそうだ。しかし、余分な費用と手間がかかる上、そもそも耐震設計への知識や関心がない人も多く、地震への対策が一般に浸透していないのが現実といえよう。2014年の調査では、泥や石、木材やむしろなど耐震性の低い建材で造られた家屋にペルー全人口の約47%が住んでいることが判明している。

 自然の材料を用い天日干しで作られるアドベは、廃棄後もそのまま土にかえるため環境を傷つけることがなく、エコで耐久性に富む建築素材として近年注目を集めている。さらにいくつかの弱点を補う解決法も考案されているので、安価で入手しやすい点も合わせ今後はもっと評価されるべきだろう。

世界遺産の街を形づくる、
美しいアドベの家並み

 インカ帝国の都・クスコ。世界遺産にも登録されているこの街には、スペイン植民地時代以降に造られたアドベ製の邸宅が数多く残っている。16世紀にインカを滅ぼしたスペイン人たちは、自らが破壊した神殿や宮殿の一部を利用し街を欧風に造り替えていった。オレンジ色の瓦を葺き、緻密な彫刻が施された木製のバルコニーを擁す美しいアドベの家々は、今も訪れる者の目を楽しませてくれる。

世界遺産の街クスコ
アドベ家屋に佇むクスコの先住民。絵になる風景だ

 クスコの街を歩くと、植民地時代に建てられた修道院や貴族の屋敷など、いわゆる歴史的建造物を改築した高級感あふれるホテルがいくつも目に入る。重厚な家具調度が配された各部屋の天井は一様に高く、これらの壁があのアドベだとは気づかない人もいるだろう。正しくメンテナンスを行えば数百年はもつエコで優れた建築素材のアドベ。ペルーを訪れる機会があるなら、アドベ造りのホテルでぜひその柔らかな佇まいを楽しんでもらいたい。

クスコ市内にある、歴史的建造物を利用したホテル

原田慶子
大阪府生まれ。2006年からペルー・リマ在住。08年よりフリーライターとして活動、ペルーの観光情報を中心に、文化や歴史、グルメ、エコ、ペルーの習慣や日常などを様々な視点から紹介、リマでの不動産購入・リフォーム経験を基にしたコラムも手掛ける。『地球の歩き方』『今こんな旅がしてみたい』『トリコガイドシリーズ』『世界のじゃがいも料理』などペルー編の取材協力、ラジオ出演多数。海外書き人クラブ所属。www.keikoharada.com

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2021/7/27

「記者の目」更新いたしました

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