海外トピックス

2021/5/1

vol.380 100年以上昔の情緒が溢れる家々【グアム】

◆壮大な歴史と古き良き建物群

ホセ・タヤマ・ポリーノ・ストア:別名フラワーハウス外観(2016年)。画像提供:The picture permitted to publish by Dr. Judy Selk Flores(ジュディ・フローレス博士)

 太平洋に浮かぶ南国のリゾート地・グアムの南東部にイナラハンという人口約3,000人の小さな地区がある。ここはポルトガルの航海者フェルディナンド・マゼランが今から500年前の1521年グアムに上陸したとされ、それ以前から栄えるグアム最古の海辺の村落だ。

 1565年から300年以上も続いた、長いスペイン統治時代の面影を残す石灰岩を漆喰(しっくい)で覆ったマンポステリア様式の建物には、傾斜した屋根、大きな外階段、階段下のボデガ(高さ約2mのワイン熟成庫で台風による洪水の被害を防ぐためのもの)などの特徴が見られる。

レオンゲレロ邸のボデガ 画像提供:The picture permitted to publish by Doug Herman, Pacific Worlds(ダグ・ハーマン/パシフィック・ワールズ)

 また1898年米西戦争を締結させたパリ条約以降、米国の統治下に置かれた1910年代に建てられたコロニアル様式の2階建ての古い家々(建物正面にポーチとバルコニー、大きな窓には木製シャッターがつき、パステルカラーの屋根が乗っているのが特徴)が今も多く点在しており、まるで「時計の針が止まっているのではないか」と錯覚を起こしそうになるところだ。

ナラハンの旧スペイン通りの街並みはスペイン統治時代と米国統治初期の影響が交錯している。画像提供:The picture permitted to publish by Doug Herman, Pacific Worlds(ダグ・ハーマン氏/パシフィック・ワールズ)
 1939年に再建された「聖ヨゼフカトリック教会」は、第二次世界大戦の爆撃で被害を受け、1993年の地震で教会の尖塔が地面に倒れた。そのため90年代後半、教区評議会、牧師、教区民によって修復が行なわれている
酋長ガダオの洞窟には約3,000年前に描かれたと推測される50前後の古代チャモロ民族のピクトグラムが残っており、洞窟を入った左側にある2人の人物の絵はイナラハンの酋長ガダオとタモンの酋長マラグアニャだという説が有力である。画像提供:The picture permitted to publish by Dr. Judy Selk Flores(ジュディ・フローレス博士)
レオンゲレロ邸の外観 画像提供:The picture permitted to publish by Doug Herman, Pacific Worlds(ダグ・ハーマン/パシフィック・ワールズ)

 代表的な建物として、1680年後半スペイン軍によって設立された「聖ヨゼフカトリック教会」のほか古代チャモロ民族のピクトグラムがのこる「酋長ガダオの洞窟」(Chief Gådao’s Cave)、1901年に建てられたイナラハン村の当時のコミッショナー、「マリアーノ・レオンゲレロ邸」(Mariano Leon Guerrero House)、1914年大工のホセが建てた3階建の自宅(ホセ・デュエナス・クルス邸(Jose Duenas Cruz House))などがあり、これらの住宅を含む「イナラハン歴史地区」が1977年米国家歴史登録財(NRHP)に正式登録されている。

 イナラハンには史跡以外にもサンゴの障壁が波を防いでできた天然の海水プール・サラグルラ(Salaglula)、通称イナラハン天然プールや、グアムの原地語・チャモロ語で「ラッソ・ギアイ(Lasso' Gi'ai)」と呼ばれるクマが横を向いているように見える奇岩・ベアーズロックなど大自然が作り出したスポットがある。

イナラハン天然プールはサンゴによって堰き止められて自然にできた人気の水泳スポットだ
ベアーズロックはイナラハンとメリッソ地区の中間にあるアグファジャン(Agfayan)湾の岬にある奇岩で、長い年月、波風によって侵食されてできたものだといわれている

◆島花・ブーゲンビリアが咲く「フラワーハウス」

 さて、今もイナラハンのサンノゼ・アベニュー(San Jose Avenue)、別名・旧スペイン通り (Old Spanish Road) と呼ばれる小径の両側に殘る30ヵ所以上の歴史的建造物の中に、毎年1~5月になると目を見張るほど壮大なマゼンタピンク色のブーゲンビリアが咲き誇る「フラワーハウス」、別名ブーゲンビリアハウスがある。

 老朽化が進んだ現在は建物内に入ることができないが、内部にまでブーゲンビリアの根が張っている2階建てのこの建物は、今からおおよそ100年以上前の1910年代に建てられたホセ・タヤマ・ポリーノ・ストア(Jose Tayama “Paulino Store”)という生活必需品などを扱う家族経営の店であった。

 イフィット(鉄木)の大黒柱、マンポステリア様式の壁といったヴァナキュラー建築工法を用いた「フラワーハウス」は、1935〜36年に修復が為され、1980年代までポリーノ氏の子孫でグアム大学の教授が居住していた記録が残っているが、その後グアムを襲った大型台風によって切妻屋根が吹き飛ばされるなどの被害に遭い、以来40年以上にわたり誰も住んでいないため劣化が進んでいる。

フラワーハウス外壁の塗り直し作業に向け、清掃をするグアム大学の学生たち(2016年)。画像提供:The picture permitted to publish by Dr. Judy Selk Flores(ジュディ・フローレス博士)
現在のフラワーハウスの外観(2021年)

 「イナラハン歴史地区」の中には、博物館に改修予定の「ジョージ・フローレス邸」(George S. N. Flores House)や、ゲフ・パゴ文化村が青少年プログラムの一環としてチャモロ民族の伝統技術のワークショップ会場として使用している「ヘスース・フローレス邸」(Jesus A. Flores House)のような史跡もあるが、大半は(島からの)引っ越しや死亡などによって所有者が分からなくなってしまい、荒廃している建物が多い。

 そのため「このままだとイナラハン村の歴史的建造物が消えてしまう恐れがある」と非営利団体「ヒストリック・イナラハン財団(HIF)」の元代表者でありバティック芸術家でもあるジュディ・フローレス博士が危惧している。

◆鳥のようにハワイからやってきた花

グアムの島花・ブーゲンビリア
プルメリアもブーゲンビリア同様、白・ピンク・黄色などの種類がある
南国を代表する真っ赤なハイビスカス

 グアムの島花は、「ぺ―パーフラワー」という呼び名を持つ盛夏をイメージさせるブーゲンビリアである。赤・マゼンタピンク・紫・オレンジ・白・マーブルなど鮮やかな色彩のこの花は、イナラハンに今も数多く残る古い家並みが建築された1900年代の初頭、鳥のようにハワイから飛んできた花だとグアムの原住民であるチャモロ人たちの間で語り伝えられており、チャモロ語で「プティ・タイ・ノビウ (puti tai nobiu)」、“ボーイフレンドがいないことは苦しみだ”、という意味を持つ。

 ちなみに、日本語や英語で「情熱」の花言葉を持つこの花の実際の花冠(かかん)は、中央にある白い部分で、花びらに見える部分は苞 (ほう) という花を包む葉の一部である。

 ブーゲンビリアのほかチャモロ語で「カラチュチャ(kalachuchan) 」というプルメリアやハイビスカス、蘭など南国特有の花々が咲き乱れ、100年以上昔の雰囲気が漂う情緒溢れる場所、それがイナラハンだ。

陣内 真佐子(じんない まさこ)
文筆家。1996年3月より家族とともにグアムに移住。グアム大学で3年半の学び直し生活を送った後、2000年にグリーンカード(米国永住権)を取得しグアム政府観光局などに勤務。2010年に取得したグアム政府公認ガイドの知識を生かし、2015年から国内最大手の旅行情報誌のグアム特派員としてブログ活動や各種雑誌やウェブ記事の執筆や翻訳を手掛けている。海外書き人クラブ会員

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