海外トピックス

2021/7/1

vol.382 歴史的建造物をリノベ。ポートランドの「食経済ハブ」【アメリカ】

 アメリカ西海岸オレゴン州最大の都市、ポートランド。歴史的建造物をリノベーションし、古い街並みの魅力を残しながら街を再生させる「ミクストユースのまちづくり」の巧みさには定評があり、海外から視察団が訪れるほどだ。また、ポートランドは、DIYの聖地、地産地消を牽引するグルメタウンとしても知られており、食関連のスタートアップも数多く生まれている。

 そんなポートランドで、「食」をテーマに地域経済を活性化させているリノベーション施設「Redd(以下、レッド)」を訪ねてみた。

工業地区の2区画を占める
食のコミュニティ

 レッドは、ポートランドの環境NPO法人エコトラストの「クリエイティブな食の生産者と地元の農家や畜産家、漁家が連携することで、環境に配慮した地元の食材の需要を高め、美味しくて健康に良い食を分け隔てなく皆に提供したい」という信念から誕生した施設だ。

 ロケーションとして選ばれたのは、ポートランドのダウンタウン対岸に当たるセントラルイーストの工業地区。このエリアは鉄道や川が近いこともあり、昔から工場や貿易倉庫などが多い職工の街だ。近年は、独特のインダストリアルな雰囲気や比較的安価な地価、交通の便の良さなどから、スモールバッチの蒸溜所、クラフトビールの醸造所、コーヒー焙煎所、地元の食品メーカー、レストラン、小売店など…新時代の作り手が拠点を構え、活気を取り戻している。

 レッドは、そんな工業地区の2区画分、合計7万6,000平方フィート(約2,100坪)を占める。敷地内の東西2棟の歴史的ビルを、地元の生産者のみならず、遠方からも人々が集まる旅行目的地として再生した。

大理石倉庫を改造した
食従事者のワーキングハブ

「レッド西棟」外観。複数の食関連企業が入居する(Photo by Shawn Linehan)

 2015年に竣工した「西棟」は、かつて大理石の営業・配送センターとして使用されていた建物をリノベーションしたもの。内部には、2万平方フィート(約562坪)の倉庫に加え、コミュニティキッチンやコワーキングスペース等も備えている。

 インフラが充実しており、複数のサステナブルな食関連スモールビジネスの活動拠点となっている。実例を挙げると、自転車を使った配送業者、学校に栄養学や菜園プログラムを提供する非営利団体、地元のシェフと生産者をつなぐ肉類と水産物の選定卸業者など。筆者はCSAファームシェア(※)に参加し、家族経営の漁家から天然鮭を定期的に受け取っている。

 このように、さまざまな角度から食に関わる地元のビジネスが1箇所に集まることで、彼らの交流、知識の共有を促し、共に成長する場所としても機能しているという。

レッド西棟の倉庫スペース(Photo by Shawn Linehan)

※アメリカの西海岸で広がった考え方で、コミュニティー・サポーテッド・アグリカルチャーの略。消費者は、農家の作付けシーズン前に先払いで費用を負担することで、決められたシーズンになると1週間に1度程度、農産物を決められた場所で受け取れる。農家にとっては、作付けに十分な先行投資ができ計画的に生産を行えるようになるメリットがある。農業だけでなく、漁業版CSAも存在する。

食をきっかけに人々が集まる
コミュニティハブ

「レッド東棟」メインホール入口
「レッド東棟」メインホール内に鎮座する、歴史あるプレス機

 一方、18年12月に竣工した「東棟」は、1918年に建築された製鉄所「Hesse-Ersted Ironworks」ビルをリノベーションしたものだ。施設のシンボルにもなっている緑のプレス機が鎮座する8,000平方フィート(約225坪)のメインホールや、2万2,000平方フィート(約618坪)の屋外プラザに加え、コミュニティキッチンやセミナールーム等も完備している。

 ファーマーズマーケットや食品市、料理教室などの食関連のイベントのほか、結婚式などにも活用されており、より地域に開いた交流の場として運営されている。

「レッド東棟」屋外プラザ。イベントの準備が行なわれている(Photo by Noah Thomas)

 筆者も先日、屋外プラザで開催されるBIPOC(黒人、先住民、有色人種)によるファーマーズマーケット「Come Thru Market」を訪ねたところ、大勢の買い物客でにぎわっていた。そして、このイベントを覗いた後は、歩いて近場のフードカート・パークを訪れたり、蒸溜所やカフェに立ち寄ったりという人の流れがあり、近隣経済の活性化にも寄与しているものと思われる。

さまざまなビジネスや組織をフィーチャーする「Come Thru Market」のインフォメーションブース。写真は「ハンガー・フリー・オレゴン」のVenusさん。感染対策に配慮しながら開催された

 農業・飲食業界および地域コミュニティの活性化を促す「レッド」の取り組みは、他の地域でも活用できる都市再生モデルと言えるのではないだろうか。


東リカ
フリーライター、リサーチャー。2014年末、7年間暮らしたサンパウロからオレゴン州ポートランドへ移住。日本メディアに米国情報を発信している。得意分野は取材、旅行、グルメ、お酒、アート、サブカルチャーなど。「海外書き人クラブ」所属。

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飲食店の食べ残しがSC内の工場で肥料に!【マレーシア】」配信しました。

マレーシアの、持続可能な未来に向けた取り組みを紹介。同国では、新しくビルを建設したり、土地開発をする際には環境に配慮した建築計画が求められます。一方で、既存のショッピングセンターの中でも、太陽光発電やリサイクルセンターを設置し食品ロスの削減や肥料の再生などに注力する取り組みが見られます。今回は、「ワンウタマショッピングセンター」の例を見ていきましょう。