海外トピックス

2021/11/1

vol.386 古都ウィーンのまち並みを守る環境対策【オーストリア】

 かつて、広大な領土を有したハプスブルク帝国の首都として、栄華を極めた中欧の古都ウィーン。旧市街全体が世界遺産に登録され、その歴史的まち並みは世界中の人々を惹きつける。

 そんなオーストリアは、環境大国という一面もある。現在、国内で生産されている電力の8割以上が再生可能エネルギーで、2030年までには100%の達成を目標としている。
 古い建築物の保全と環境への配慮は、通常は相反するものだ。最新の建材とインフラを導入できる新築建物と、断熱が不十分で石油やガスの暖房器具を使い続ける古い建物とでは、環境への負荷も大きく異なる。古いまち並みを誇る欧州の古都共通のジレンマだ。

 そこで今回は、帝国時代の美しいまち並みをそのままに、ウィーンが行なっている環境対策を紹介していく。

2040年までに
カーボンニュートラル実現へ

ドナウ川の水流を利用した「フロイデナウ水力発電所」

 ウィーンで消費される電力のうち3分の1は、市内を流れるドナウ川の水力発電所で発電される再生可能エネルギーだ。またウィーン郊外には多数の風力発電用の風車が立ち、一軒家の屋根には、ソーラーパネルが目立つ。

奇抜なデザインの「シュピテラウごみ処理場兼火力発電所」

 フンデルトヴァッサーが設計し、奇抜なデザインで知られるごみ処理場では、ごみを燃やした熱で発電を行なうだけでなく、余熱で温めた温水を各家庭に供給する“地域熱供給”を実現している。省庁や国際機関、学校や多くの新築住宅群でこの温水が使われている。家庭レベルでは、自宅に電力を供給する電力会社を選ぶことが可能だ。再生可能エネルギーのみを提供している電力会社と契約する人も多い。

 ウィーン市は40年までに石炭とガスによる発電から脱し、カーボンニュートラルの実現を目指している。その一環として21年中には、ウィーン全域の新築住宅において、再生可能エネルギーもしくは地域熱供給による暖房・温水の提供が実現される予定だ。インフラレベルでのカーボンニュートラルの実現が近付いてきている。

「アルトバウ」建築の
環境対策にも着手

歴史的建造物が並ぶ通り。正面はウィーン大学。右手前は史跡指定された19世紀初頭の建物で、右奥はベートーヴェンの住居

 ウィーンでは、ハプスブルク帝国の時代に作られた「アルトバウ」と呼ばれる建物が、全建物の約2割を占めている。優美なファサードに、高い天井、ユーゲントシュティール様式の階段室など、その重厚さや美しさで人気を集めるが、壁や窓の断熱が不十分であったり、暖房の効率が悪かったりと、部屋の寒さや光熱費の高さゆえに実際に暮らすとなると苦手意識を持つ人も多い。環境保護の観点からも、断熱や暖房の非効率は解消されるべきだが、歴史的建造物に指定されるアルトバウ建築を解体し、新築物件に建て替えることは、きわめて難しい。

ウィーン市内にある1835年建造の建物。窓枠には木材が使用され断熱性は低い

 そこで同市は、アルトバウ建築の外観を保持しつつ、古い窓や暖房設備を付け替えることで、環境負荷を減らし、暖房費・光熱費も節約する取り組みを行なっている。行政機関が、建物の所有者等を対象に専門家による無料相談会を開催し、設備の交換で期待されるエネルギー消費と光熱費の節約効果を試算している。
 木の窓枠からPVC(塩化ビニル樹脂)の窓枠へと変更することで約20%、暖房器具の交換で約30%の節約効果があるそうだ。統計によると、4人家族の場合、1年間で約700ユーロの費用削減が可能だという。

目抜き通りケルントナー通りの歴史的建造物の多くは、窓が付け替えられている

 まちの景観を維持するために、窓枠の素材を変更できない場合は、二重窓の内側だけ最新の建材を使用したり、木枠にシリコンコーキングをしたり、断熱性のある窓ガラスに交換したりと、複数の手法を取ることができる。

 当然、改築や設備交換には費用が掛かるが、ウィーン市は、交換費用の20~35%を負担する補助金制度を設けており、住宅レベルでエネルギー効率を上げていきたい、という同市の意気込みがうかがえる。

「エネルギー博物館」で
市民に啓蒙

ウィーン・エネルギー博物館。裏手には、地域熱供給センターがある
「エネルギー博物館」内の建築構造と断熱に関する展示

 上述のごみ処理場には、「エネルギー博物館」が併設されている。断熱素材や再生可能エネルギーを利用した発電方法、その選択肢、地域熱供給の利用によるメリット等を記したパネルなどを、市民の目に分かりやすく展示することで、一人ひとり環境への意識を高めているのだ。またここでは、市民向けに上述の無料相談会も実施されている。

◇◇◇

 まち並みの維持と環境保護の両立を目指す多様な取り組みで効果を上げるウィーン。市民の意識変革や、補助金などのインセンティブを通して、環境に優しいインフラを住宅レベルで構築することで、観光大国と環境大国両方の地位を確立していると言えよう。

御影実
2004年からオーストリア・ウィーン在住。 国際機関勤務を経て、 2011年より執筆と輸出入事業経営を手掛ける。 世界45カ国を旅し、様々な旅行媒体にオーストリアの歴史、 建築、文化、時事情報を提供、寄稿、監修。ラジオ出演、 取材協力等も多数。掲載媒体は、『るるぶ』『ララチッタ』( JTB出版社)、サライ.jp(小学館)、 阪急交通社などの旅行読みものや、日経BP-DUAL、 プレジデントウーマン、時事通信、『家の光』 などの社会情勢分析。執筆協力は『ドイツ文化事典』(丸善出版) 、『びっくり!!世界の小学生』(角川つばさ文庫)等。 海外書き人クラブ所属。

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2021/11/24

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