海外トピックス

2022/2/1

vol.389 〇〇で動く!? 120年の歴史あるケーブルカー【スイス】

古都フリブールの片隅から漂う、ナゾの臭い

冬のフリブールのまち並み

 スイス西部にフリブールというまちがあります。古都の趣を色濃く残すこのまちには、大きな高低差のある地区があり、上には商業施設や大学などの教育機関が、下には中世時代で時が止まったような旧市街のまち並みが広がっています。

 上のまちには、目立たない一角に小さな公園があるのですが、その周辺を歩いた途端、ツンと鼻をつく強い臭いに襲われます。季節や風向きによって臭いの強さは若干異なれど、その臭いは子どもの頃よく遊びに行った祖父母宅の“汲み取り式トイレ”を思い出させます。

 近くに公衆トイレはありません。唯一目に入るものといえば、公園の隅に建つ「FUNICULAIRE」と表示がある、小さな建物のみです。

「ニオイ」の原因はケーブルカー!

下の町にあるケーブルカー駅
公園の隅にある、上の町のケーブルカー駅

 「FUNICULAIRE(フニキュレール)」とは、フランス語で「ケーブルカー」の意味。この小さな建物は、1899年から上下のまちを毎日行き来するケーブルカーの駅で、そのレトロな深緑色の車体は愛らしく、まるで遊園地の乗り物のようにも見えます。

往復126mの距離を片道2分ほどかけて運行する

 さらに、このケーブルカーには他では見られない秘密があります。それは電力ではなく「水力」で動いていること。しかも普通の水力ではなく、一般家庭やオフィス等から出される排泄物や、その他の生活排水を利用しているのです。ケーブルカーの駅周辺に漂う強烈なトイレ臭は、ここから来ていたのでした。

 それにしても、エコロジーなんて概念がまだなかったであろう120年も昔から、このようなエコなケーブルカーが存在していたことに驚きます。

 どのように稼働しているかというと、仕組みはいたってシンプル。上の駅に設置したケーブルカーのタンクに3,000リットルの排水を給水し、その重みで車両を下の駅へとさげ、同時に下の駅にある車両を引き上げるという、おもりの原理で運転しています。

ビール会社従業員の移動手段だった

 いまはフリブール市民の足となっているケーブルカーですが、元々は上のまちにあったビール工場の所有物でした。当時、ビール会社に勤める従業員の多くが下のまちに居住していたため、職場まで通勤しやすいように設置したのが始まりらしいです。

 その後何十年も経て、工場がケーブルカーを手放し、1970年からはフリブール市交通局が単独で運営するようになりました。現在、ケーブルカーは市バスと同等の扱いなので、市内を走るバスと同じ運賃で乗車できます。

ケーブルカーに乗ってみた

 長年、市民の足として活躍していることに加え、その特徴ある稼働法から、スイスの文化財にも指定されているフリブールのケーブルカー。でも本当にこの強烈な臭いを敬遠する人はいないのか? ケーブルカーの運転手も、自分の服に臭いが染み付くことに抵抗はないのか? そんなことを考えながら、両駅をケーブルカーで往復してみました。

市バスの運転手が交代でケーブルカーを運転
ケーブルカーの内部。木製の席がレトロだ。1台20人まで乗車できる

 乗車時、気さくな運転手さんがケーブルカーのウンチクを色々と話してくれました。彼の口調からケーブルカーへの深い愛情を感じ、同乗していた他の乗客も「下水の臭いは、正真正銘、生活排水をリサイクルしている動かぬ証拠!」と誇らしく思っているよう。

最高高さ56.4m、最高勾配550パーミル(55%)。車内から下のまちを一望できる
下の駅に到着! 到着後、ザァーザァーと滝のような音をたて、タンク内にあった3,000リットルもの排水が流れていった

 では、ケーブルカーに使用された排水は、その後どうなるのでしょうか?

 タンクに入れられた排水は、下の駅に到着後、ふたたび排水網へと戻ってろ過され、最後は町の花壇や街路樹の水やりに再利用される、とのことでした。

年間20万人が利用し、夏休みなどの繁忙期にはケーブルカー2台が1日70往復するらしい

小島瑞生
1998年から2009年までアイルランドを生活拠点としたのち、スイス西部フリブール州に引っ越し、今も当地に暮らす。現在はスイスのフランス語圏とドイツ語圏を行き来しながら、雑誌やウェブサイト、ラジオなどのメディアで様々な情報を発信中。

記事のキーワード 一覧

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/4/5

「月刊不動産流通2024年5月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年5月号」の発売を開始しました。

さまざまな事情を抱える人々が、安定的な生活を送るために、不動産事業者ができることとはなんでしょうか?今回の特集「『賃貸仲介・管理業の未来』Part 7 住宅弱者を支える 」では、部屋探しのみならず、日々の暮らしの支援まで取り組む事業者を紹介します。