海外トピックス

2022/12/1

vol.399 日常にとけこむ「温室リノベーション物件」【オランダ】

 日本では、使われなくなった建築物をまったく別の用途で活用する取り組みが増えていると聞きます。ここオランダも例外ではなく、国民の「使わないなんてもったいない」精神を生かした「温室リノベーション物件」があるので紹介させてください。

年に1度の「温室オープンデー」

 オランダの国土面積はわずか337万ha(日本の九州程度)ですが、そのうちの約 182万haが耕地面積だといわれています。特に有名なのは温室栽培で、さまざまな農作物が温室で育てられているのです。

見渡す限りの温室たち

 これは、筆者がデルフトというまちの郊外で撮影した写真。道の両側に延々と温室(グラスハウス)が立ち並んでいます。オランダ全体で約1万haの土地が温室に使われているのだとか。

温室オープンデーの模様。家族連れを中心に多くの人が訪れる

 そして年に1度、春頃の週末には、オランダ全国の200ヵ所以上の温室を一般客に開放する「温室オープンデー」が開催されます。イベントの公式ホームページによると、1977年からスタートした40年もの歴史あるイベントなのだとか。温室で栽培している植物(主に花など)の即売会が行なわれることも多いので、毎年参加している人も数多く存在します。来場者数を合計すると、オランダで8番目に大きいイベントになるのだそう(2002年の来場者は約22万8,000人)。

 それくらい、オランダ人にとって温室は「よくある風景」の一端なのです。

廃墟と化した温室をコミュニティスペースに

 こういった郊外の大規模温室でなくても、オランダ人の生活圏内のところどころに温室は存在しています。

都会の喧騒の谷間に門扉が

 こちらは、首都アムステルダムの喧騒の中に立つ温室の入り口です。

近付いても普通の温室にしか見えない

 外からは分かりにくいですが、ちょっとした平屋のようなサイズの温室がたたずんでいます。

ぶどう棚の下でくつろぐオランダ人親子

 そして外観は普通の温室ですが、中はちょっとしたホールのようになっています。天井のぶどうの葉やつるは、日差しをさえぎり、ガラスの温室に心地よい日陰を作ってくれるという工夫も。

 実はこの「Kas Keerweer」と呼ばれる温室は、アムステルダム市の所有でありながら、長らく使われていない廃墟のような温室だったのだとか。けれど、「こんなに素敵な温室を活用しないのはもったいない!」「近隣住人のための緑あふれる場所にしよう!」とボランティアたちの手によってリノベーションされることになったのです。そして15年4月に、「Kas Keerweer」は近隣の住人のための美しいコミュニティスペースとして生まれ変わりました。

温室内には食器や調理設備が整っている
パーティにも対応できる

 「Kas Keerweer」は、自治体とボランティアとの共同運営。利用のされ方は多種多様で、フリーマーケットが開かれたり、ミニコンサートの会場として使われたりしています。

 水が扱えるシンクと、ガスボンベに接続したコンロがあるので、パーティ会場としても十分機能します。トイレも、敷地内の別棟にあるので大丈夫。こんな美しい場所でウェディング・パーティを開いたら、一生の記念になりますね。

「地産地消」の温室レストラン

 温室を商業的な施設として活用している事例もあります。有名なのは、アムステルダムにある「De Kas」(デ・カス)というレストラン。01年のオープン以来、「究極の地産地消レストラン」として予約の取りにくい人気店になっています。人気の秘密は、温室の中でレストランを営業するばかりでなく、同時に野菜を育てているから。

一見すると普通の温室レストラン

 初代オーナーシェフであるヘルト・ヤン・ハーヘマン氏(Gert-Jan Hageman)はもともと別のお店で人気シェフとして活躍していたのですが、過労で休養していた時期がありました。その際に数十年間も廃屋状態だったこの温室に偶然出合い、温室レストランの構想を思い付いたのだとか。

レストランエリアのすぐ横で野菜が育つ

 温室で採れる野菜やハーブは、新鮮なままその日のレストランのメニューに使われます。レストランの食材の80%はこの温室や自分たちの農場で採れたものだそう。自給できない食材も、なるべく地元の農家や酪農家から仕入れることを心掛けているようです。

カリフラワーのメインディッシュ。見かけよりボリュームがある
太陽光をふんだんに取り入れた明るいレストラン

 新鮮でおいしいメニューだけでなく、温室の中という特異な環境も人気の理由の一つ。高さ8mもあるガラス天井の温室レストランは開放感抜群。昼は太陽の光を、夜は月を見ながらディナーを堪能できます。天気次第ではテラスでの食事も楽しめます。

 そして18 年、同レストランは、WIM DE BEER氏とJOS TIMMER氏という2人のシェフに経営が引き継がれました。オーナー交代やコロナ禍を乗り越え、温室レストラン「De Kas」は今もオランダの食通たちに愛され続けています。

リノベーションカフェが流行

ビル屋上にある温室カフェ

 先に挙げた「De Kas」ほど大がかりではなくても、温室をカフェとして再利用する取り組みが近年流行しています。これは、ハールレムという街にある「De Dakkas」(直訳で「屋根/屋上の温室」)というカフェ。なんとまちなかの駐車場ビルの屋上に設置された温室をカフェとして利用しているのです。

テラスの向こう側に美しいまち並みが

 屋上でかつ全面ガラスなので、屋内にいてもまちの眺望を楽しめます。ビルの屋上という分かりにくい場所にあるにも関わらず、老若男女で常ににぎわっています。

温室内部に設置された、お洒落なバーカウンター

 このカフェ以外にも、公園の中の温室をカフェにリノベーションしている事例を見かけたことがあります。オランダ人は温室スタイルの建物が大好きなようです。

 自由な発想の建築物が多いオランダなので、今後も新しい温室リノベーション物件を生み出してくれることでしょう。筆者もとても楽しみです。

倉田直子(くらた・なおこ)
オランダ在住ライター/タイニーハウス・ウォッチャー。リビア(革命から脱出)、英国スコットランドでの生活を経て、2015年よりオランダ在住。主な執筆ジャンルは、オランダの教育・子育て事情、タイニーハウスを中心とした建築関係など。著書「日本人家族が体験した、オランダの小学校での2年間」は、2019年度の東京大学教育学部附属中等教育校の入学試験に採用された。「海外書き人クラブ」所属。

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