海外トピックス

2023/3/1

vol.402 塩でできたエコな宮殿「パラシオ・デ・サル」【ボリビア】

 標高約3,700m、富士山とほぼ同じ高さに広がる世界最大の塩の砂漠、ウユニ塩湖。そのほとりに、まるで白銀の世界と一体化したような塩で造られたホテルがある。それが「パラシオ・デ・サル」だ。

 2004年に建造された敷地面積4500㎡のこのホテルは、42の客室のほか、レストラン、バーラウンジ、ツアーデスク、スーベニールショップ、スパを併設したジャグジー付き温水プールを備えている。

ウユニ塩湖のほとりにあるラグジュアリーホテル「パラシオ・デ・サル」
「パラシオ・デ・サル」内のジャグジー付き温水プール。塩湖に沈む夕陽を堪能できる

 同施設を建設したのは、ボリビア南部における観光事業のパイオニア、フアン・ケサダ・バルダ氏。GPSが一般化されていない時代に自転車で塩湖横断を試みたり、塩湖周辺の村人らと交流したりするうちに、ウユニ塩湖に魅了され、当時まだその存在がほとんど知られていなかった広大な塩湖のど真ん中に、宿泊施設を造りたいと思うようになった。それも、塩のブロックを利用するという当時誰も考え付かなかった奇想天外なアイディアだった。

建物の構造物、家具、彫刻すべてが“塩製”

現在は「塩の博物館兼休憩所」として使用されている旧・塩のホテル

 フアン氏が1990年代に建設した世界初の「塩のホテル」は客室数も少なく、共同トイレでシャワーなしというとても簡素なものだったが、その唯一無二の立地が話題となり、世界中の観光客が訪れるようになった。しかし、施設から出るゴミや排水が塩湖の環境汚染につながるという理由から、やがてホテルは無期限の閉鎖を余儀なくされた。

 「ウユニの自然を守りつつ、この雄大な塩湖を一望できるラグジュアリーなホテルを造れないものか…」

 こうして誕生したのが、「パラシオ・デ・サル」(“塩の宮殿”の意)だ。周辺の自然環境との調和に配慮すると共に、地域文化への敬意を表し、建物は“アンデスクロス”と呼ばれる十字架の形に設計されている。

グーグルマップによる「パラシオ・デ・サル」の衛星写真
南十字星を表すという塩でできたアンデスクロスのオブジェ

 「パラシオ・デ・サル」の主な建材は、塩湖で採掘された塩のブロックだ。100万個ものブロックは、東に4.3km離れた製塩業の村・コルチャニの協同組合が切り出したもの。壁や柱、天井、床材のみならず、客室のベッド台やテーブル、ロビーの椅子や壁の彫刻などもすべて塩製だ。また塩分を嫌う金属やコンクリートの使用は極力避け、配線類をプラスチックで覆うなどさまざまな工夫を施している。

コルチャニ村の製塩業者の倉庫に積まれた塩のブロック
塩のブロックは、塩と水をこねてペースト状にした接着剤で固定する。地層状の堆積物がまるでアートのよう

 ウユニ塩湖は太古の昔、地殻変動によって地表に現れた大量の海水が蒸発してできた塩原で、11層からなるその深さはおよそ120m。それぞれのブロックに刻まれた模様は、かつての降水量や堆積の変遷を示す年代記のようだ。

木材を多用し、建物の強度を向上

 「パラシオ・デ・サル」のもう一つの特徴は、建物に木材を多用していること。ブロック内の余分な水分を吸収することで湿気による崩れを防ぐだけでなく、木材そのものも強度も増す。加えてその塩分が木を食べる害虫除けになるという相乗効果もあるようだ。

 しかし、森林限界に近い標高のウユニで、これだけの木材を集めるのは決して容易くはなかっただろう。その証拠に、同じく“塩のホテル”を謳う他の宿泊施設で、「パラシオ・デ・サル」ほど木材を多用しているところはない。こうしたこだわりの積み重ねが、多くのセレブレティに支持され続ける土台を築き上げているのだ。

ケチュア語で“天空”を意味する「ハナン・スイート」
コンパクトにまとめられたスタンダードルーム

塩のブロックはメンテが欠かせない

 ウユニ塩湖には雨季と乾季があり、雨季にはあの有名な“水鏡”で塩湖全体が覆われる。しかしその雨は、塩のホテルにとっては厄介な存在だ。「パラシオ・デ・サル」では、客室の屋根など塩がむき出しになった部分が多いため、雨季の終わりには外廻りの約10%が溶けて失われるという。

 毎年繰り返されるメンテナンスを支えるのが、前述したコルチャニ村の協同組合だ。主な建材となる塩は無尽蔵にあるため、スキームの持続性も高い。観光客の誘致だけでなく、周辺地域における循環型経済の構築も高評価の根拠となっている。

 天然資源を生かし、地域と共に歩むラグジュアリーな塩の宮殿「パラシオ・デ・サル」。塩の新しい魅力と可能性を証明してくれたフアン氏の先見の明に、心からの拍手を送りたい。

塩のブロックの自然な美しさを最大限生かした客室の天井は「塩のイグルー(※)」と呼ばれている
※イグルー:イヌイット族の住居で氷のブロックを重ねて作ったドームのこと
ホテルの展望台から望むホテルの屋根の様子。円錐形をした塩のイグルーと、軽さと採光を考慮したプラスチック製の四角錐の屋根が連なる

■「パラシオ・デ・サル」ウェブサイト:palaciodesal.com.bo

原田慶子
大阪府生まれ。2006年からペルー・リマ在住。08年よりフリーライターとして活動、リマでの不動産購入・リフォーム経験を基にしたコラムも手掛ける。各誌取材・執筆協力、ラジオ出演多数。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com)会員 

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