記者の目 / リフォーム

2008/2/15

「バリューアップ」事業に活路

扶桑レクセル、中古マンション再生事業を強化

 大手マンションディベロッパー・(株)大京グループの一角をなす扶桑レクセル(株)が、中古マンションの買い取り、再販事業(バリューアップ事業)を強化する。マンション用地の仕入れ競合と高騰が激しくなるなか、新築マンションの供給だけで安定した収益を生むのは難しい。そこで、注目したのがこの再販事業。ストック循環の実現という国の施策にも合致するほか、「自社マンション購入者の持ち家」が安定した供給ルートとなる一石二鳥の事業として力を入れる。同社の再生マンションの集大成となる「成城ハイム」を見学した。

「成城ハイム」外観。築20年超とは思えない手入れの行き届いた外観を、周囲の豊かな緑が引き立てる
「成城ハイム」外観。築20年超とは思えない手入れの行き届いた外観を、周囲の豊かな緑が引き立てる
住戸リビングから眺めた中庭。20年を経た樹木の醸し出す雰囲気は抜群だ
住戸リビングから眺めた中庭。20年を経た樹木の醸し出す雰囲気は抜群だ
改修前の間取り。部屋数は多いがそれぞれが狭く、専有面積の割には玄関や水回りにもゆとりがない
改修前の間取り。部屋数は多いがそれぞれが狭く、専有面積の割には玄関や水回りにもゆとりがない
改修後の間取り。控えの間をつぶして水回りを移設することでゆとりを持たせた。主寝室は2部屋を合わせて14畳大を確保。シューズクローゼットを独立させたことで、玄関も広くなった
改修後の間取り。控えの間をつぶして水回りを移設することでゆとりを持たせた。主寝室は2部屋を合わせて14畳大を確保。シューズクローゼットを独立させたことで、玄関も広くなった
ブラッシュアップされたリビングダイニング。アクセントにタイルを張り込んだ
ブラッシュアップされたリビングダイニング。アクセントにタイルを張り込んだ
余計な収納を廃して広げられた玄関ホール。床は天然石張り。玄関脇には、手すりを設置
余計な収納を廃して広げられた玄関ホール。床は天然石張り。玄関脇には、手すりを設置
同社のバリューアップ事業最大のウリはユニバーサルデザイン。居室扉はすべて引き戸。LD扉は、幅1200mmの大型で、人が余裕ですれ違える
同社のバリューアップ事業最大のウリはユニバーサルデザイン。居室扉はすべて引き戸。LD扉は、幅1200mmの大型で、人が余裕ですれ違える
トイレも大型化。もちろん引き戸を採用
トイレも大型化。もちろん引き戸を採用
洗面化粧室も、移設して大型化。車いすでの利用も考慮した
洗面化粧室も、移設して大型化。車いすでの利用も考慮した
浴室は、3畳の控えの間をつぶして新設。ユニットバスだが、タイル貼りで雰囲気を出している
浴室は、3畳の控えの間をつぶして新設。ユニットバスだが、タイル貼りで雰囲気を出している
2室を1室にして14畳大に拡大したベッドルーム
2室を1室にして14畳大に拡大したベッドルーム
キッチンは、国内最高峰のトーヨーキッチン製
キッチンは、国内最高峰のトーヨーキッチン製

「ストック重視」の政策へ対応

 同社がバリューアップ事業を開始したのは、2006年11月のこと。マンション市場は、このころから用地の取得競争が激化。用地価格も、徐々に高騰しはじめる。同社は、年間2,500戸前後を供給する専業ディベロッパーだが、用地仕入れの行き詰まりは、収益の悪化にダイレクトにつながってしまう。よしんば高値で用地を取得できたとしても「都心部での、坪単価500万~600万円という価格についていけるユーザーは限られている」(同社執行役員住宅事業本部長・木村俊久氏)というジレンマもあった。そこで、目をつけたのが、中古マンションの再生事業だ。

 中古マンションであれば、新築マンションでは入手困難なブランド物件や好立地の物件でも入手のチャンスがあるし、バリューアップにより新築並みの設備仕様にしても、販売価格は抑えられる。また、同社のマンション購入者の約40%が持ち家からの住み替えであるため、これらが安定した仕入れルートとして機能するほか、新築物件の販促にもつながってくる。

 住生活基本法の施行や「200年住宅ビジョン」の具現化など、国の政策も「ストック重視」の施策にシフトしつつある。こうしたなかで、ディベロッパーも新築分譲にこだわっていては、成長に限界が出てくる。その反面、既存ストックを活用していく同事業は、時流にマッチしており、今後の「伸びしろ」が期待できる。

 事業立ち上げから1年強経ったが、すでに70物件あまりの仕入れを行ない、40物件の売却を完了。徐々に、そのノウハウを構築しつつある。そうしたなか、同事業の現時点での集大成ともいえる「成城ハイム」が完成した。

「ビンテージマンション」を2,000万円かけバリューアップ

 今回、記者が見学した「成城ハイム」(東京都世田谷区)は、小田急線「成城学園前」駅徒歩5分に立地する、住友商事(株)が1982年に分譲した、地上12階建て2棟構成、総戸数199戸のマンション。

 首都圏有数の高級住宅街として知られる「成城」。同マンションは、住所こそ「世田谷区祖師谷」となるものの、いわゆる「成城ブランド」の住宅街(駅の北口に広がる世田谷区成城エリア)に隣接する抜群の立地。敷地と周辺は第1種低層住居専用地域にもかかわらず、「特定街区」として広大な提供公園、公開空地を設けることで容積緩和を受けて建築され、マンション周辺は緑で囲まれている。
 住戸は、2戸1エレベータでプライバシーが確保され、鹿島建設(株)施工のスケルトンも、基本性能は当時としてはハイレベルにある。管理組合による管理・修繕も行き届いている。

 販売当時の価格は、坪あたり260万円。巨大なルーフバルコニーが付いた角住戸は億ションとして分譲されていた。現在の相場は、坪270万円~300万円程度と、経年にも関わらずプレミアムが付いている、まさに「ビンテージマンション」である。流通量も少なく、年1、2物件が売り出される程度(竣工当初からの入居者が、未だに半数を超えている=25年間で100件は流通していない計算)だという。

 07年6月、同社が幸運にも入手できたのは、中庭を南面に見下ろす地上7階の角住戸で、専有面積148平方メートル、別に13平方メートルのバルコニーと64平方メートルのルーフバルコニーが付く。角住戸が売りに出たのは、同マンション竣工以来はじめてのことだという。

 当然、この最高の素材をバリューアップするにあたって、議論が百出したという。「何しろ当社は、創業以来億ションはほとんど分譲したことはなく(バブル期を除いては3戸)、これほどの高級物件を取り扱うことは、新築分譲でも稀なこと。ならば、思い切って冒険してみようということになった」(木村氏)。バリューアップの方向性が決まったのが、07年11月。12月から工事に入り、45日余で完成させた。その総費用は、実に2,000万円に達したという。

ユニバーサルデザインを徹底

 同社のバリューアップ事業は、ターゲットに合わせたインフィル(間取り・設備)の更新に加え、「ユニバーサルデザインの徹底」を主軸に据えているのが特徴。これは、同社新築分譲マンションでも行なわれており、新築・中古を問わず、同社の供給するマンションすべてをユニバーサルデザイン仕様にする考えだ。

 今回は、「成城」という成熟した住宅地であることから、50歳代・60歳代の団塊世代夫婦をターゲットとしてイメージ。従前の間取りが典型的なファミリー向けであり、各室の広さが十分でなかったこと、十分な手入れはされていたもののインフィルの陳腐化が目立ったことから、インフィルすべてを解体。躯体剥き出しの状態までしてから、フルリフォームを行なった。給排水管については、住戸内の横引き部分を交換している。

 間取りは、3畳の和室控え間を、大形ユニットバス(1822サイズ)に思い切って交換。既存の洗面化粧台を取り外し脱衣所とし、浴室部分を洗面化粧室にするなど、広さとゆとりをもたせた。
 従来、独立してキッチン脇に設置していた洗濯機置き場が脱衣所に移ったため、キッチンをオフセットしダイニングスペースを拡大。プライベートスペースでは、3室のうち2室をつなげ、14畳のベットルームとしたほか、クローゼットを移設・拡大した。

 キッチンは、国内メーカー最高峰のトーヨーキッチン製。シンクを3枚の板で仕切り、立体的に使うことができる「3Dシンク」を採用した。吊り戸棚も、開閉が容易で開口部の大きいウイングチップ式としている。
 また、玄関ホールから物入れ・下足入れを取り払い、ホールを拡大。給湯器・分電盤設置スペースに下足入れを設置した。

 もちろん、最大の特色はユニバーサルデザインにある。給排水管の設置によりどうしても嵩上げせざるを得ない場所を除き、居室内の段差をすべて排除。室内の扉は、すべて吊り引き戸としたほか、LDの扉は車いすやストレッチャーでも通行できる幅1,200ミリのサイズとした。コンセントプレートやスイッチプレートは、子供やお年寄りでも操作が容易な高さ1,100ミリとし、玄関・トイレには手すりを設置。洗面化粧台は、座っていても利用可能な引き出し格納機能を付けている。

 内装の仕様も引き上げた。建具・家具は色形とも特注品。和室の壁は、櫛引きの塗壁だ。浴室はユニットバスだが、壁面タイル、床面サーモタイルがおごられ、各室には調光式のダウンライトを新設した。カラーモニターインターフォン、ホームセキュリティも装備。「新築を供給しているため、新築でやっていることは何でもやりたくなり、あれよあれよと豪勢になっていった」(木村氏)。

 ただ、さすがに現在の億ションと比べると、内装のグレード感は落ちる。また、マンションリフォームの宿命ともいえる「玄関ドア、サッシュの更新が不可能」な点も残念である(それでも、サッシュのグレードは相当高い)。分厚いスラブを支えるための大きな梁がリビングを横切り、天井高も2,400ミリと低い。廊下も、躯体の構造上メーターモジュールが取れなかった。
 とはいえ、内装はまったく新築同様であることは間違いない。二度と得難いロケーションであることを考えれば、数多の新築マンションと比べられない、まさしく「二度と出ない物件」である。

2011年度には、年間200戸供給をめざす

 これだけの手間をかけたうえ、マンションの歴史始まって以来の角住戸の売り出しである。工事中から問い合わせが殺到。工事完成の翌日、近所の住民が即購入したという。価格は売主の要望で伏せられたが、同物件の相場を坪300万円とすれば、改修費用(坪40万円)、同社の利益を考えても、坪400万円近いことが予想できる。これは、周辺の新築マンションの販売価格に匹敵する、相当なプレミアである。

 現在、国が進めている「200年住宅ビジョン」では、十分な耐久性を持った躯体に、適切な維持・管理がなされた場合、そのコストが中古価格に反映されるような市場にすることをめざしている。エリア屈指のビンテージマンションというプレミアはあるが、バリューアップ(リノベーション)が中古マンションの価値を引き上げる証左と言えないだろうか?

 木村氏は「どのような時代になっても、価値のあるモノは景気に左右されず評価されていることが、今回のケースで明らかになった。こうしたマンションを積極的に仕入れ、3年後には年間200戸程度供給できる体制にしたい」と話す。(J)

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2024/5/1

「海外トピックス」を更新しました。

サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

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