記者の目 / リフォーム

2021/1/12

「団地リノベ」も新たな生活様式に対応

 (独)都市再生機構(UR都市機構)や東京都住宅供給公社の分譲・賃貸住宅などで構成される「光が丘パークタウン」(東京都練馬区・板橋区)。戦前は「成増陸軍飛行場」、戦後は米軍家族住宅「グラントハイツ」に姿を変え、それが全面返還された1973年に同パークタウンが造成された。分譲4,000戸超、賃貸9,000戸超と、光が丘エリアの多くの部分を占める集合住宅街に発展。近年は、築年数の古い団地の住戸をリフォーム・リノベーションで再生するなどして、居住性の維持・向上を図っている。

光が丘パークタウン内の「光が丘パークタウンいちょう通り八番街」外観

◆女性中心のプロジェクトチームが主導となり…

 UR都市機構は近年、空室・築古となった住戸の再生に注力。現代のライフスタイルに合わせた「和室→洋室」へのリノベーションや、企業とコラボレーションしたリノベプランなどを打ち出している。そうした中、新たにチャレンジしているのが「家事ラク&在宅ワーク」をコンセプトとしたリノベーションだ。

 共働き世帯の増加、新型コロナウイルスの影響による働き方の多様化により、家事の分担や住まい方が変化し、住まいに対する新たなニーズが生まれている。こうした状況を鑑み、「いかに家事の負担を減らせるか」「働き方の多様化にいかに対応するか」に焦点を当てたリノベーションを行ないたいと考えたのが始まりだ。

 その実現に向け、2019年夏頃、女性を中心とした8名のプロジェクトチームを発足。メンバーは、DINKSやファミリー層などさまざまで、部署・業務内容を超えて、幅広い年代層から人材を集めた。
 「誰しも一つや二つ、住まいに対する不満や悩みを抱えているものです。メンバーのそうした実体験や意見を持ち寄り、リノベプランに反映させることとしました」と、同機構東日本賃貸住宅本部東京北エリア経営部企画課主幹の石田 さなえ氏は話す。

リノベーション後のGタイプ(専有面積61.52平方メートル)

◆ポイントは「今どきの収納」「ワークスペース」

 リノベーション後の住戸を見学した。団地群の中にある「光が丘パークタウンいちょう通り八番街」(1986年3月築、鉄骨鉄筋コンクリート造地上5~14階建て、総戸数409戸)内の空室となったスケルトン賃貸の2戸(Gタイプ・Zタイプ)を2LDKの住戸にリノベーションしたものだ。いずれも、「今どきの収納」と「ワークスペース」が目に留まった。

リノベーション後のZタイプ(同71.66平方メートル)

 両住戸とも基本的に、トイレ・バス・キッチン等の水回り設備を刷新。キッチンは、通路を広く取ることによって家族皆で料理を楽しめるようにしたほか、冷蔵庫や家電置き場もあえて仕切らず自由にレイアウトができる空間に。分岐水栓を採用し、食洗機の置き場も広々と確保している。

収納と一体化したランドリーコーナー。乾燥機使用時は洗濯動線はほぼゼロに
ハンガーパイプ+フックを使った「干せて吊るせる収納」

 洗濯スペースは、ハンガーパイプ+フックを使った「干せて吊るせる収納」を提案。収納棚も設け、家事と収納とを一体化したランドリーコーナーに。壁面には調湿機能のある壁材を使用し、湿気を軽減する対策もとっている。
 「家事の中でも“洗濯”は、“洗う→干す→取り込む→たたむ→収納”と作業工程が多く、家事負担が大きい。洗濯動線ゼロの実現を目指し、乾燥機使用時は1ヵ所で家事を行なえる“収納一体型”のランドリーコーナーとしました」(同氏)という。

◆吊戸棚をなくして明るいキッチンに

 Gタイプは、玄関、洗面所、ランドリーコーナー、個室、リビングをつなぎ、ぐるりと回遊することができる間取りに。「“朝の忙しい時間や疲れて帰宅した夜でも効率的に動けるようにしたい”との意見を取り入れました」(同氏)。キッチンは吊戸棚の代わりにパントリーを設置、明るさを確保しながらも十分な収納量を確保している。

吊戸棚の代わりにパントリーを設置することでキッチン全体の明るさを確保。備え付けのデスクと棚を設置したスペースはほどよく囲まれた空間に
ロボット掃除機などを充電しながら収納できる工夫も

 備え付けのデスクと棚を設置したスペースは、ほどよく囲まれ、在宅ワーク時に利用するのはもちろん、「家事をしながらでも子供の動向を見守っていたい」との意見を生かし、キッチンの近くに設置した。子供の宿題用スペースとしての使い道もありそうだ。扉付きの可動棚はコンセントを設け、今どきの家電・ロボット掃除機などを充電しながら収納できるよう工夫されている。

◆2人同時に身支度できる幅広の洗面台

 Zタイプについては、2人同時に立てる幅広の洗面台があり、朝の忙しい時間帯でも同時に使用できそうだ。壁面収納にもひと工夫。収納スペースの壁にマグネットボードを貼り付け、子供の作品や学校からのプリントを貼ったり、家族の伝言板としても使える。

朝の忙しい時間帯でも並んで使用できるよう、2人同時に立てる幅広の洗面台を設置
収納スペースの壁にマグネットボードを貼り付け、家族とのコミュニケーションを図る場に

 ワークスペースは、ダウンライトとコンセントを設置し「フリースペース」として提案。テーブルを置いてダイニングとしたり、デスクを置いて在宅ワークスペースとしたり、多様な使い方ができそうだ。

◆時代のニーズに合ったリノベにチャレンジ!

 今回供給するリノベーション住戸の賃料(共益費込み)は、Gタイプが16万4,100円、Zタイプが19万2,900円。光が丘は、駅前に20年12月にリニューアルオープンしたばかりの大型ショッピングセンターがあるほか、郵便局や警察署、区民センターといった公共施設が集まっており、生活利便性が高い。団地内には「都立光が丘公園」のほか保育施設、学校などもあり子育てにも便利とあって“光が丘に住みたい”という人も少なくないという。「新築同様となったリノベ住戸を、ターゲットとする30~40歳代のDINKSやファミリー層にうまくアピールできれば、支持を得られるのではないかと考えています」(同氏)。

 リノベ住戸は、1月14日~2月2日までWeb内覧会を実施。1月29~31日には予約制の現地内覧会を行なう予定。「今回の取り組みで手応えを感じられたら、同様のリノベ住戸を増やすことはもちろん、時代のニーズに合わせさまざまなリノベプランを展開していくことも考えています」(同氏)。

◆◆◆

 光が丘で不動産仲介会社を設立して33年目の(株)すまいる情報光が丘(東京都練馬区)の代表取締役・武藤正子氏にも話を聞いてみた。長きにわたり「光が丘パークタウン」の売買・賃貸を手掛けてきた同氏は、「新型コロナウイルスにより、家での時間を過ごす人が増え、住宅への関心の高まりや住環境を重視する傾向が強まるなど、ユーザーニーズの変化を感じます。そうした中で、今の時代のニーズに合ったリノベーションにより快適な住まいを手に入れたいと考えるユーザーが増えていくかもしれませんね。団地内での住み替えが活発化する可能性もあります」と話していた。

 築年数を経た団地の住戸は、間仕切り戸や壁で部屋を区切っている間取りが一般的で、敬遠されがちな和室であることも多い。しかし、リノベーションで広々とした間取りやフローリングに変更することができるし、新築同様の住戸に生まれ変わることも可能だ。新しい価値を生み出すことのできる“リノベーション”のさまざまな手法に、今後も注目していきたい。(I)

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2024/3/7

「海外トピックス」を更新しました。

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