記者の目

加速する私鉄沿線の魅力づくり

事業化から50年、小田急線・複々線化工事が間もなく完成

 都市部において不動産と鉄道は切っても切れない関係だ。鉄道の有無やその利便性によって沿線の不動産価値が大きく左右されることはいうまでもない。  小田急電鉄(株)(東京都新宿区、取締役社長:山木利満氏)が東京から神奈川間で120km超の区間を運行する小田急線で進めている「複々線化工事」が2017年度に完成を迎える。上下線の線路数をそれぞれ倍にすることにより混雑の緩和や乗車時間の短縮化が図られることから、路線の利用者拡大はもちろん、沿線への転居者増による不動産取引市場の拡大やエリア活性化も見込んでいる。同社が別途進める、沿線における空き家対策や住宅地活性化策との相乗効果によって、今後、小田急沿線への注目度が上がるのは間違いないだろう。その内容を紹介する。

小田急電鉄では、選ばれる路線・沿線づくりを進めている(写真提供:小田急電鉄(株))
小田急電鉄では、選ばれる路線・沿線づくりを進めている(写真提供:小田急電鉄(株))
混雑解消が長年の課題だった(「代々木上原」駅にて。写真提供:小田急電鉄(株))
混雑解消が長年の課題だった(「代々木上原」駅にて。写真提供:小田急電鉄(株))
複々線化工事によって新たに掘削したトンネルと新設した線路(「下北沢」駅地下部分)
複々線化工事によって新たに掘削したトンネルと新設した線路(「下北沢」駅地下部分)
「下北沢」駅では、元々あった地上の線路は撤去し、すべて地中化した。奥に見える高架に走っている電車は京王井の頭線
「下北沢」駅では、元々あった地上の線路は撤去し、すべて地中化した。奥に見える高架に走っている電車は京王井の頭線
リノベーション会社・UDS(株)を子会社化し、沿線のストック再生を進める(写真はUDSとの共同事業第1弾、「代々木上原」駅前のビルを店舗、SOHO、シェアオフィスからなる複合施設に改修)
リノベーション会社・UDS(株)を子会社化し、沿線のストック再生を進める(写真はUDSとの共同事業第1弾、「代々木上原」駅前のビルを店舗、SOHO、シェアオフィスからなる複合施設に改修)
郊外部に位置する社宅をリノベーションした「ホシノタニ団地」(神奈川県座間市)
郊外部に位置する社宅をリノベーションした「ホシノタニ団地」(神奈川県座間市)
団地前の空地には菜園、1階部分にはコミュニティカフェをつくるなど、地域の憩いの場として再生
団地前の空地には菜園、1階部分にはコミュニティカフェをつくるなど、地域の憩いの場として再生

◆大幅な混雑緩和、所要時間短縮を実現

 新宿駅を始発とし、終点は小田原や片瀬江ノ島、乗入区間を含めると箱根湯本や御殿場までを結ぶ小田急線は、海老名、大和、相模大野、町田といった郊外エリアにおける乗降客が多いのが特徴で、朝のラッシュ時間の混雑度が高く、それが遅延にもつながっていた。そこで小田急電鉄では、線路の複々線化を決定。1964年の都市計画決定から50年、東京都の連続立体交差事業(踏み切りの廃止や駅前広場の整備)とともに開発。高架工事が難しいエリアでは、新たに地下トンネルを掘削し線路を設置するなど、約3,100億円を投じて大掛かりな工事を進めてきた。
 10km超におよぶ同工事は下北沢地区の一部区間を残すところまできており、2017年度に複々線の全体が完成(ダイヤ改正)、18年度に事業完了を迎える予定。すでに完成している地区では複々線で運行しているが、下北沢地区が未完成だったことから、その効果はかなり限定されている状態だった。

 全面開通すると、ラッシュ時間帯を中心に電車を増発し、混雑率を191%(15年時点、やや圧迫感がある)から140%まで低下させ、利便性向上による転居者を含んでも160%(新聞・雑誌が楽に読める)程度に抑える予定。また、所要時間も、例えば「町田」から「新宿」駅であれば、これまで48分かかっていたところ、38分にまで短縮する。同社調べによると、一般ユーザーの通勤時間の許容範囲は「1時間」とされていることから、「家→駅、駅→職場」の移動時間をトータルで20分とみると、乗車時間は概ね40分以内と想定。今回の複々線化によって、「町田」や「多摩センター」駅がその範囲に含まれることから、こういった郊外部の住宅需要が高まることを期待している。

◆郊外住宅地活性化の起爆剤となるか

 複々線工事とは別途、同社では近年、沿線の活性化に向けた取り組みを加速している。

 小田急線沿線には、27市区町村があり、その面積は1,226キロ平方メートル、509万人、239万世帯が居住している。いわゆるベッドタウンと呼ばれるエリアも多く有しており、一部では老朽化や高齢化、人口減などが問題視されている。これら住宅地を含め、沿線の魅力アップは大きな課題なのだ。

 15年2月には、さまざまな不動産再生の実績を持つUDS(株)を子会社化し、沿線の低・未利用不動産の再生を推進。中古ビルの商業施設へのリノベーションや学生向けレジデンスの開発を行なっている。同年4月からは小田急不動産(株)と共同で、沿線の空き家・空き地対策を強化。各地で同社グループ社員約400人を投入し、戸別訪問による空き家等に関する調査やコンサルティングを実施した。高齢者向け住み替え支援やリフォーム提案などを進めている。
 また、同年6月に完成した「座間」駅前の団地再生プロジェクト「ホシノタニ団地」は、住戸改修だけでなく、空地を生かした貸し農園やドッグランの整備、子育て支援施設やコミュニティカフェの設置など、人が集まる仕掛けを施したプランが話題となり、注目を集めた。現在では、住民だけでなく地域の人が集う拠点として機能している。同駅は「新宿」駅から50分程度と郊外部にもかかわらず、入居者の6割が市外からの流入で、中には都心からの転居者もいるなど、プロジェクト実施後は順調に入居者が決まっていったという。相場より2割程高い賃料で満室稼働中だ。

 今回の複々線工事によって、都心へのアクセスが向上されるのに加え、取り組みが加速すれば、郊外における不動産市場活性化にもつなげていくことができる。人口減少や高齢化等が進む中、鉄道各社は不動産会社やリノベーション事業者とタッグを組み、郊外住宅地の活性化を中心とした沿線のまちづくりを強化している。「乗車時間の短縮」「混雑緩和」という鉄道会社として最大のメリットを打ち出すことで、魅力ある路線・沿線として、いかに他社と差別化が図っていくのか…。小田急沿線のまちづくりも含め、今後の動向に注目だ。(umi)

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2017/6/21

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