記者の目 / ハウジング

2017/10/2

文化財として認められたプレハブ住宅

 プレハブ住宅初期、1963年に積水ハウス(株)が建てた戸建住宅「セキスイハウスA型」が昨年、国の有形文化財(建造物)に登録された。プレハブ住宅が登録されるのは初めてで、日本の住宅産業史に残る出来事と言っていいだろう。建設当時は建物の性能に着目する人は少なく、当然、気密・断熱性能も現在の標準よりも著しく低かった。なぜ今日まで使われ続け、保存できたのか。今後の住宅長寿命化を目指す中で、参考にできることも多い。

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文化財登録された「臼井家及び山崎家別荘」(長野県北佐久郡軽井沢町)

◆国産初のプレハブ住宅

 わが国における一般向けのプレハブ住宅の原点は、諸説あるが1959年に大和ハウス工業(株)が発売した「ミゼットハウス」だと言われている。しかし、ミゼットハウスは発売当時、水回り等の生活機能は付いておらず、勉強部屋のような付属建築物として販売されていた。また、奈良県の同社総合技術研究所に保管されているものも含め、当時のまま現存しているものは少ない。翌60年に水回りを備えた「スーパーミゼットハウス」を発売したが、こちらも勉強部屋の域は出なかったと言われ、現存するものも確認できていない。

 今回有形文化財に登録された「セキスイハウスA型」は、積水ハウスが60年4月に積水化学工業(株)ハウス事業部(同年8月に分離独立)として発売。水回りも備え、本格的な国産第一号のプレハブ住宅商品と言われている。構造躯体は現在の同社住宅にも使われている軽量鉄骨C形鋼を組み合わせたもので、外壁は「アルミサンドイッチパネル」と呼んでいた長方形のパネルを構造体に固定している。木製サッシが主流だった当時としてはめずらしく、スチールサッシを使っていた。

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玄関側から見た建物。外壁は2回塗り直した
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室内の様子。天井は新築当時から手を入れていない

◆完成当時の姿で残る唯一の遺構

 有形文化財に登録された住宅は、63年に建築した「臼井家及び山崎家別荘」。当時まだ一般的ではなかったプレハブ住宅の拡販のために長野県北佐久郡軽井沢町の別荘地で建売販売したもので、当時10棟販売したものの1棟。積水ハウスの社員だった山﨑茂晴氏と臼井克次氏が共同購入していた。軽量鉄骨造平屋建て、屋根は金属板葺き、床面積は約34平方メートル。長らく別荘として避暑に使われ、今回の登録を機に、維持・保存のために2017年3月に同社が買い取った。ほぼ完成当時の状態で残っている。

 同社によれば、セキスイハウスA型の“完存する唯一の遺構”で、戦後住宅史を語る上で非常に重要なものだという。東京大学教授の松村秀一氏は今回のセキスイハウスA型の有形文化財登録に関して、「日本以外で、プレハブ住宅産業がここまで成功している国はない。世界の産業史上まれなものであり、現物が建てられた場所にそのまま残っていることは非常に驚くべきこと。今後どうやって残していくか。企業の取り組み姿勢が問われるだろう」と話している。

 この時期のプレハブ住宅について松村教授は「まだ建物を性能の側面から見る時代ではなかった」と話す。つまり、性能は今と比較できるレベルにはなく、そのためほとんどが建て替えられ、現存していない。今回のセキスイハウスA型が残っていたのは“奇跡”に近いというわけだ。

◆森の中、独立基礎が湿気対策に

 この住宅の立地は軽井沢の森の中。暑くなりすぎない夏の気温や直射日光を浴びない等の環境はともかく、湿気があり建物にとって良い環境とは言いづらい。現在はなかなかお目にかかれない独立基礎が家屋にも使われており、通気は十分だったことも保存に向けての好材料だったと考えられる。

 余談になるが大阪府東大阪市の工務店で、積水ハウスA型の翌年に松下電工(株)建材事業部(現パナホーム(株))が発売した「松下1号型住宅」をオフィス転用しているが、その基礎も独立基礎だ。こちらも通気がよかったことで劣化が少なかったため、保存がうまくいったと言われている。

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今ではほとんど見られない独立基礎。通気に
よって建物の質の維持にはプラスに働いた可能性も

◆実際のメンテナンスは?

 実際、どのようにメンテナンスがなされてきたか。臼井氏によれば、構造にまで手を入れる大掛かりな改修工事は行なったことがないという。事実、天井やサッシは当時のままだ。手を入れたのは外壁の塗り替え2回(1度はDIYで)、ウッドデッキの交換2回、複数の開口部への雨戸新設、床のフローリング化、浴槽の取り替えなど。つまり、不便・不具合があった箇所にはその都度きちんと手を入れていたことになる。

 積水ハウスでも、「住まい手がしっかりメンテナンスしてくれたのが長寿命化につながった」(同社取締役副社長・伊久哲夫氏)と評価している。

 臼井氏は「現役社員だった時代は夏休みとゴールデンウイークによく利用していた。定年後は毎週のように来ている。現役時代は技術職だったため、自分で床下防水シートを張り替えたりしていた。会社のためと思って大切にケアしてきた甲斐があった」と目を細める。

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このウッドデッキもこまめに修繕し、いまは“3代目”だそうだ

◆◆◆

 性能の低い50年以上前のプレハブ住宅が、適切なメンテナンスを経て有形文化財として登録されたのは、今後のストック活用・建物の長期使用促進に向けても大きな意味がある。オーナーが同社社員であり、愛着のある自社住宅の維持管理をきちんと行なっていたという側面はあるが、きちんと都度に応じたメンテナンスなど、参考にできることは多い。

 これは「古いプレハブだからできること」ではなく、現代の木造住宅でも住宅所有者がきちんと維持管理に適切な手間とコストをかけることが住宅の長期使用と質の維持を図れることの証左でもある。この維持管理ノウハウが広く業界に共有できれば、住宅業界・不動産業界双方にプラスになるだろう。今回の事例を検証して得た知見をどう生かすか。今後に期待したい。(晋)

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施主の山﨑氏(左)と臼井氏(右)

 【関連ニュース】
国産初のプレハブ住宅を公開/積水ハウス(2017/8/29)

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登録有形文化財

建造物である有形文化財のうち、その文化財としての価値に鑑み、保存および活用のための措置が特に必要とされるものとして登録されたものをいう(文化財保護法第57条)。登録は、文部科学大臣により文化財登録原簿に記載することによって行なわれ、官報に告示される(同法第58条)。

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