記者の目 / 仲介・管理

2018/3/19

愛着深い築90年の建物を“人が集う”場に

新築された当時のモダンな雰囲気が残るシェアオフィス

 東京急行電鉄「溝の口」駅徒歩3分に、シェアオフィス「nokutica(ノクチカ)」(川崎市高津区)がオープンした。地元不動産管理会社の(株)エヌアセット(川崎市高津区、代表取締役:宮川恒雄氏)と地元の不動産オーナー2名が共同出資し、築約90年の元診療所兼住居をリノベーションして再生したものだ。長年空き家だった同物件を、シェアオフィスとして再活用。資産価値の向上とまちのバリューアップを目指し、新たに“人が集う”場として生まれ変わった。

地元住民から愛されてきた築約90年の元診療所兼住居をシェアオフィスに再生。「nokutica」外観

◆地元不動産会社とオーナーがタッグ

 エヌアセットは2017年10月16日、地元・川崎市の不動産オーナー2名(石井秀和氏、越水隆裕氏)と新会社「のくちのたね株式会社」を設立。三者が協力し、さまざまな事業を企画・実施・運営していくことで、溝の口を中心とした川崎市中部エリアの地域価値向上を目指していくこととした。

 その第1弾プロジェクトが、シェアオフィス「nokutica」だ。溝の口の愛称である「ノクチ」にちなんで命名。「ノクチだから」各々のスキルを発揮できる、「ノクチから」発信する、という意味が込められている。

 同物件は、約90年にわたって地元に根付いてきた建物。診療所兼住居だったが、学習塾として活用されていた時期もあり、常に人が集まる場所だった。ところが、診療所をたたんだ後、住居として住むには広すぎたのか空き家の状態が続いていた。物件を相続したオーナーは、管理会社である同社に相談を持ちかけていたという。

昭和初期のモダンなつくりを生かすため、改修工事は最小限かつ丁寧にデザイン・施工を行なった

 「建物内部の意匠もすばらしく、この建物は地元住民のファンも多く可能性も高いので、取り壊すのはもったいないと判断しました。何とか有効活用できないかと考えたところ、この辺りには働く・表現するためのスペースがないため、“シェアオフィス”に転用したらどうかということになったのです」と、同社ワクワク広報室の松田志暢氏は話す。

 このシェアオフィスを媒体に「nokutica」で働くワーカーが「溝の口」に愛着を持ってくれれば…。ワーカーや地域住民など多くの人から愛される場所になれば、エリアの価値向上につながるのではないかと考えた。

◆シェアオフィスは満室稼働、こだわりコーヒースタンドもオープン

コワーキングスペースは、主婦やフリーランスなど約20名が利用している
展示会や物販、ワークショップ、ママ会などが行なわれているレンタルスペース

 建坪約311平米内には、1階に展示可能な部屋を含むレンタルスペース(貸会議室:2ヵ所)を、2階にレンタルオフィス(5ヵ所)やコワーキングスペースを用意。レンタルオフィスはすでに満室で、デザイナーやカメラマン、ライター、エンジニア、スタイリストなどが利用している。コワーキングスペースの契約者は約20名。主婦やフリーランスなど、日中働ける場所を探していた人からのニーズが高い。「働き方改革」によるサテライトオフィスやテレワークの導入で、利用者が増えることも期待できる。レンタルスペースは月40時間ほど稼働しており、展示会や物販、ワークショップ、ママ会、撮影会などさまざな用途で利用されているという。

 また、1階の入口スペースには、コーヒースタンド「二坪喫茶アベコーヒー」がオープン。「スペシャルティコーヒー」をはじめ、こだわりのドリンク類やコッペパンなどが並ぶ。地域内外から立ち寄る人も多く、幅広い世代に愛されている。

 「ここで働く方や地域の方々に毎日寄ってもらって、『おはよう』『行ってらっしゃい』が気軽に交わせる関係になりたい」とカフェオーナー。実際、地域に住まうご年配の方が店舗の外からオーナーに声をかけ、窓越しにおしゃべりをしている姿をみかけた。地域住民にとってはすでに、ちょっとした憩いの場になっているのかもしれない。

レンタルオフィスに入居しているメンズオーダーメイドの洋装店

 「今後は年に3~4回、1階フロアをすべて開放して、建物の利用者とともに、地域住民向けイベント『nokutica family day』を開催する予定です。音楽コンサートやワークショップ、プチマルシェなど、地域の人がたくさん集まる場所にしたいですね」(同氏)。

◆オープニングイベントには200名超が!

 建物内は、漆喰や木の梁、柱の白と茶色のコントラストがレトロな雰囲気を醸し出していた。そこで、当時のモダンなつくりを生かすため、改修工事は最小限かつ丁寧にデザイン・施工を行なった。

 17年12月3日のオープンの日に行なわれたお披露目会には、大々的な告知を行なわなかったにもかかわらず、200名超が詰めかけた。「50年前、私ここの生徒だったの」「ここの診療所で生まれました」「生まれてからずっと近所にあった憧れの洋館に入ってみたかった」などと口にする地域住民が立ち寄り、大いににぎわったという。

 「この建物には、目には見えない価値や思い出がたくさん詰まっています。住民の皆さんの思い入れの深さに驚きました」と松田氏。
 また、「『この建物を残してくれてありがとう!』と言ってくださる方もいて、地元に古くから住んでいる方たちとの新たな接点ができたことが嬉しいですね。このシェアオフィスを通じて交流が深まり、地域の活性化、ひいてはまちの価値向上につながればと思っています」(同氏)。

地域に住まうご年配の方が店舗の外からカフェオーナーに声をかけている姿を見かけた

 古いものを壊して新しいものをつくればいいというのではなく、当時モダンだった建物をあえて残した「nokutica」。ここに、古くからの住民は懐かしさや喜びを感じ、20~30歳代の若年層は「働きたい・つながりたい・表現したい」という思いを持って集っている。

 建物やまちの価値を高めるための取り組みは、短期間で成果が見えるものではないため相応の意欲と覚悟がなければ難しい。しかし、まちをよく知る不動産会社と地元に住まうオーナーがタッグを組むことで、地域の協力も得られやすくなり、まちのバリューアップも加速化するのではないだろうか。(I)

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シェアリングエコノミー

空き状態にあるモノや技能の個人間の貸し借りを、情報通信システムを活用して仲介するサービス。英語でSharingeconomy。

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