記者の目 / その他

2020/4/14

デジタルホテル(Ver.1.0)

 小学2年生から自分用の携帯電話を持ち、中学2年生で「iPhone3G 」デビューしてから今に至るまで、スマートフォン歴は早十数年。テレビよりも“YouTube”、筆記よりもタイピングが早い記者のもとに、「デジタルツールを駆使してゲスト体験を演出する“デジタルホテル”」の内覧会の知らせが飛び込んできた。2020年2月、まさに私のためのホテル?と、ワクワクしながら内覧会に参加した。

「slash(スラッシュ)川崎」外観

 ホテルの名は「slash(スラッシュ)川崎」。JR「川崎」駅東口から繫華街を進むこと5分。外観はモノクロでなんともシック。デジタル感はあまり感じられないが…一歩中に入ると、「/(スラッシュ)」の形をしたデジタルディスプレイに迎えられた。青やピンクのラインやランダムな英字が流れるディスプレイは、なんとなくプログラミングの画面にも見えて、ここから始まるデジタル体験に期待感が沸き上がる。

プログラミングの画面を彷彿とさせるデジタルディスプレイ(エントランス)
カラー、文字列がランダムに表示される
イメージ画像

 そのまま進むと、1階はレセプション兼レストランとなっている。円形のバーカウンターと、大きめのテーブル、ソファが供えられており、「/(スラッシュ)型」や、天井から垂れる形の照明が独特だ。

サイバー感溢れる円形のバーカウンター
近未来的な空間だが、一部の壁面にはグリーンが。デジタルネイティブ世代にとっての常識「ブルーライトを放つディスプレイの傍には、目を癒す効果がある観葉植物を置くのが吉」を取り入れているのかもしれない(記者の考えすぎかもしれない)

 確かに、エントランスからレセプションまで、「デジタル」をテーマにしたデザイン・インテリアが導入されていた。しかし、いまだ「デザインツールを駆使した体験」はしていない。次は客室を見ていく。

 2台のベッドがあるスーペリアツイン、面積は約26.4平方メートルの部屋だ。この状態では、客室も一般的なホテル客室と何ら変わりはない。

 しかし、スタッフが客室に備え付けのiPhoneを操作すると、ようやくデジタルツールが出現。ベッドの前に、80インチのスクリーンが現れた。このスクリーンは全室に完備されているもの。自身のスマートフォンをミラーリングして、YouTubeや映画を大画面に映し出すことができる。

最も面積が小さいスモールダブル(13平方メートル)。スクリーンは、未使用時は天井に格納されているため、小さい部屋でも邪魔にならない
スクリーンを起動すると部屋の幅いっぱいになる。広い部屋より、さらに臨場感が味わえそうだ

 寝そべりながらスクリーンが見やすいよう、ベッドには電動リクライニング機能も付いている。リクライニングの角度も、スクリーンと同じく、客室備え付けのiPhoneで調節可能だ。

ベット、スクリーンの操作は備え付けのiPhoneで
簡単な操作で背もたれのUP、DOWNができる

 また、通常のホテルであれば客室に必ずある「テレビ」は設置していない。「テレビよりもYouTube」なデジタルネイティブ世代のライフスタイルにとことん合わせた客室づくりだが、実際顧客の反応はどんなものだろうか?

 開業した19年11月からこれまでは、立地で宿泊を決めたビジネスユースがほとんどだったという。テレビがないことを知らずに泊まった宿泊客からはクレームも来たというが、同ホテルの開発・運営を手掛ける(株)グローバルエージェンツの代表取締役社長・山﨑 剛氏は「特徴的な施設づくりをしているので、合わないと感じるユーザーがいるのは当然」だと受け止める。

 一方で、内覧会を機に、今後はホテルのコンセプトに共感するユーザーをキャッチするためのマーケティングに注力する考えだ。「尖ったコンセプトやサービスは、一般的なホテル予約サイトの検索項目には引っかからずターゲットに見つけてもらいにくいため、独自の広報活動に力を入れます」(同氏)。メディアへのPRだけではなく、SNSやホテルのホームページでの情報発信に注力するという。

同ホテルのInstagram。以前までは英語の投稿が多く、「スラッシュ川崎」で検索してもこのアカウントがHITしない状況で勿体なさを感じていたが、内覧会以降は#スラッシュ川崎 といったタグを用いるようになったことでユーザーがアカウントにたどり着きやすくなったと感じる。今後も、より工夫がなされていくことが楽しみだ

 また、口コミサイトでの情報拡散にも期待を寄せる。「初めからコンセプトに沿うお客さまばかりが集まるわけではありませんが、そうしたお客さまには“合わない”と感じた点を口コミサイトに書いてほしい。同じようにマイナス点だと感じる方は泊まりに来なくなるし、逆にSlashに興味を持つ人もいるはず。口コミが溜まれば、それを指標に、コンセプトに合うユーザーだけが集まってくるようになると思います」(同氏)。一見受動的な姿勢にとれなくもないが、ある調査によればデジタルネイティブ世代の8割が口コミでホテルを決めるというから、理に適うマーケティングかもしれない。

 現状、同ホテルではテーマに掲げる「デジタル体験」として、スクリーンのサービスのほかに、レセプションのiPadひとつで完結するチェックインや、客室に貼られたQRコードを読み取って行なえる朝食のWebオーダーシステムも提供。今後もさらにサービスを拡大していく。近々、事前に自身のスマートフォンからチェックインを行ない、レセプションでは鍵を受け取るだけで済む「オンラインチェックイン」サービスの提供を始める予定で、山﨑氏は「開業した時点で完成ではなく、ホテルで提供するサービスや機能はソフトウェアと捉え、アップデートを重ねていく」と話した。

客室の扉に貼られたQRコードを読み取ると、客室にいながら朝食を頼むことができる。ルームサービスは無く、料理を食べるのは1階のレストランだが、身支度をする前に注文だけ済ませておけば時短になる

◆◆◆

 デジタルネイティブ世代のライフスタイルに寄り添うと謳う、初めてのホテル。スクリーンのサービスを中心としたデジタル体験は新鮮だったが、朝食のWebオーダーの際に同時にWeb決済もできれば…、スマートロックの技術を使って自身のスマートフォンをそのまま客室キーにできれば…など、「デジタルホテル」と謳われているからこそ更なる期待感や現状に対する物足りなさも得た。しかし、ソフトウェア(ホテルで提供するサービスや機能)をアップデートしていくとのことで、今後に期待が募る。同ホテルが新たなバージョンに生まれ変わるのが楽しみだ。

 なお、同内覧会後、日本でも新型コロナウイルスの感染者が増加。全国的に、不要不急の外出や、国内外含む旅行の自粛が求められており、観光業界・ホテル業界は大きな打撃を受けている。特に、最も感染者の多い東京都内にある宿泊施設は大きな影響を受けていることから、同社広報・森野 絵里花氏に問い合わせていたところ、同ホテルは新システムの導入も計画通りに進め、感染症対策を行ないながら営業を継続(※)。「コロナウイルスが収まった後、多くの人が宿泊してくれるよう、今はその準備に力を入れる」と話す。
 多くの企業がテレワークに踏み切り、インターネット通販の利用者も増加するなど、コロナウイルスの蔓延は、皮肉にもあらゆる生活の局面においてデジタル化を進めるきっかけになっている。週末家にいることが増え、今まで以上にインターネット動画を楽しむ人も増えるかもしれない。今日のさまざまな被害状況を見ると、それが好契機とはけして言えないが、あえてこんな時だからこそ、ライフスタイルが変化することで、同ホテルに興味を持つユーザーが増えるかもしれないと、ポジティブに捉えたい。早く人々の生活が元に戻り、同ホテルに限らず、観光業界・ホテル業界に活気が戻る日が来ることを心から願う。(清)

【関連ニュース】
  「全室に大型スクリーン用意したホテル」(2019/2/28)

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