コロナ禍を経て、働き方や時間の使い方が大きく変化している。数年前までは“出社して働く”というのが一般的であったが、最近は自宅やカフェ、コワーキングスペースといったさまざまな場所が選択肢として広がってきた。そんな中、「不動産」の中で働くのではなく、モビリティをオフィス化した「可動産」を利用し、場所にとらわれず移動しながら自由に働くワークスタイルが見られる。可動産での新たな働き方を提案する(株)GOOD PLACE(旧コスモスモア、東京都渋谷区、代表取締役社長:枝廣寿雄氏)の担当者に話を聞いてみた。
◆“仕事”の自由度がアップ

GOOD PLACEは、約30年にわたりオフィス構築、リノベーション事業を手掛けている会社。新規事業を立ち上げるにあたり、社内新規事業コンテストで約70のアイディアの中から選ばれたのが「mobica」だった。
「mobica」は、好きな場所へ移動しながら車内外で働くことができるワーケーションカーのこと。「新幹線や飛行機、ワーケーション施設などで仕事をする光景を目にするようになりましたが、もっと場所にとらわれず、移動しながら自由に働くワークスタイルがあってもいいんじゃないかとの考えから生まれました」(同社ストラテジックデザイン部ストラテジックデザイン1課課長・堤 博章氏)。
2023年8月からサービスを開始。「mobica sand」(ハイエース:乗車定員5名、利用料金4,000円~(20~24時))、「mobica forest」(N-VAN:同2名、同2,500円から(20~24時))の2種類の車両を選択できる。車内には、コンセントやUSB電源を搭載したポータブル電源を積載。Wi-Fiも完備している。
例えば、バックドアを開けて景色を見ながら仕事をしたり、気分を変えたいときは立ちながら作業したり。車両後方部に搭載しているアーム付きモニターを使い、野外でのオンライン打ち合わせや、イスを並べて複数人でのブレストも可能。1人で集中したいときやオンラインミーティングの際には、車内のデスクで。ゆったり落ち着いて作業したいときは、シートをフルフラットにすれば脚を伸ばして楽な姿勢で作業をすることもできる。
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現在は、主にメディア関係者、行政、ワーケーション企画会社などが利用。一般ユーザーに向けた本格的なPRはこれからだが、すでにリピーターもいるという。
同社内で取り組んでいる「部活動」でも「mobica」を活用していく方針だ。「部署の垣根を越えたコミュニケーションを図ることができ、いつもとは違う環境で話したりすることで面白いアイディアが生まれることを期待しています」(同氏)。
◆地方創生の救世主となるか
同社は23年9月、宮崎県日向市と「動くオフィスプロジェクト実証実験連携協定」を締結した。
日向市は、人口減少という地域課題解決を抱えており、将来的な関係人口の創出に向け、19年からワーケーション事業の導入検討を開始。20年よりワーケーション事業に取り組んできた。3年間で延べ1,100名超のワーケーターが同市を訪れており、国内でのワーケーション先進地域としての知名度も確立されているという。
しかし課題は残る。同市では(自家用)車での移動が前提となっており、旅行者・出張者などのための二次交通(拠点となる空港や鉄道の駅から観光地までの交通手段)の課題が存在する。日本有数のサーフスポットである「お倉ヶ浜」、歌人・若山牧水の生誕地で自然に囲まれた東郷エリアなど、数々の観光スポットがあるにもかかわらず、通過型や日帰り観光が多いため、どうしても観光消費額は低くなる。
そこで白羽の矢を立てたのが「mobica」だった。二次交通が整備されていない地域で「mobica」が活用されるようになれば、観光地までのスムーズな移動が可能となり、他の地域への周遊効果も期待できる。また、ワーケーションは関係人口も交流人口も増やしていく一つの手段になると同市は考えたのだ。
「旅行者には多く来てもらいたいけれど、地域によっては交通や宿泊の面で十分な受け入れができないという問題があります。mobicaを活用することで、そうした課題を少しでも解消できたら。また、ソーラーパネル搭載による発電機能を生かし、災害発生時には情報発信基地として機能できる。観光だけでなく、災害時のツールとして利用していただくことも提案していきたいと考えています」(同氏)。
◇ ◇ ◇
自然の中でオンライン会議をしたり、作業の合間に地域のグルメを楽しんだり…。ワーケーションカーの使用シーンはさまざまだというが、少し前までは想像もできなかった働き方だ。
最近は、他部署の家族と業務時間外や週末に地元のアクティビティに参加するといった「ファミリーワーケーション」を行なう企業が出てきたり、ワーケーションが仕事のパフォーマンスやウェルビーイング指標などに改善効果がある、といった統計もあるという。
コロナ禍でテレワークが一般化したように、今後、ワーケーションも一般的な働き方として定着していくのだろうか。
働く時間や場所、雇用形態や業務内容、そしてワーカーの仕事に対する考えなどは、刻々と変化している。それに合わせ、これまで以上に「働き方」の選択肢は増え、自由度は高まっていくだろう。そうした変化に伴い、求められるスキルや人材も変化していく。
オフィスで仕事をするのが当たり前の会社生活を送ってきた記者も、最近はテレワークで仕事をする機会が増えている。今後は、ワーケーションをはじめとした多様なスタイルの中からベストな働き方を柔軟に選んでいくことが求められるようになるのかもしれない。(I)