記者の目 / その他

2022/1/25

ワークスペースでまちに力を

シェアリングエコノミーの浸透、働き方改革の推進、コロナ禍でのテレワークの波及などにより各地で増加しているシェアオフィス。オフィス以外の仕事の場所として、サードプレイスとして、多様に活用されているスペースだが、提供者側は、ワークスペースの提供以外の機能以外に、空き家活用、にぎわい創出、地域サービスなど、さまざまな目的をもって運営している様子が見える。

今回は、まちの活性化を目的にワークスペース運営に取り組む2者を取材。ワークスペース提供が、どのようにまちを元気づけることにつながっているのか。その内容や成果をレポートする。

◆まちづくりの研究・実践の拠点としてのワークスペース

 東京さくらトラム(都電荒川線)「三ノ輪橋」駅から徒歩5分、東京メトロ日比谷線「三ノ輪」駅から徒歩5分。ジョイフル三の輪商店街の中にある「みのわまちづくり工房」(東京都荒川区)。ここに、電源とWi-Fiを備えたコワーキングオフィスがある。

個人商店の店舗が多く連なるジョイフル三の輪商店街
シェアオフィスがある「みのわまちづくり工房」入口

 正確に言えば、コワーキング機能を持たせたシェアスペース。ドロップイン(単発利用)・月極利用の両方のプランを用意しており、学生・社会人料金も設定している。この施設の面積は約49平方メートル。うちコワーキングスペース付きシェアスペースは約14.5平方メートル。数多くのシェアオフィス・コワーキングオフィスを取材してきた記者が目にしたコワーキングスペースの中では最小だ。

コワーキングスペース(写真奥)

 施設を運営しているのは、馬場一輝氏。環境デザインを研究する傍ら、ジョイフル三の輪の活性化にも取り組む大学院生だ。「この商店街は個人店が多く、まちに対する思い入れ・地域愛も強い商店主が多い。地域の人と一緒に考えながらまちづくりに取り組めそうだと感じ、ここに拠点をオープンすることにしました」(馬場氏)。

 直線状のアーケードに商店が連なるこの商店街の中心部に位置する、もとはギャラリーだった店舗に居抜きで入居。約3分の1分ほどのスペースをレンタルギャラリーとし、同氏の活動・研究拠点として活用すると共に、残りのスペースでシェアスペースを運営している。

施設の半分はレンタルギャラリーとして活用していて、展示物を見るためにふらっと入ってくる人も多い

 オープンは2021年9月。以来「試行錯誤をしながら運営している最中」と語る馬場氏。稼働状況はまだまだとのこと。認知度の低さのほか、商店街で活動しようと考えている人に利用してもらった場合に料金の請求がしづらい…といった“特殊”事情もあるようだ。

 商店街活性化に取り組む同氏は、オープンの約半年前から商店会の定期会合にも顔を出し、商店会会員との人脈を築いてきた。現在は、商店会活性化につなげるためにフリーペーパー創刊を決定。東奔西走している。その編集作業には同じく環境デザインを学ぶ大学生も巻き込んで取材、記事執筆なども手掛けており、その際このスペースを活用している。その延長で学生のスペース利用も少しずつだが増えている。つまり、同氏がこの場所を多様に活用することで、若い層をここに呼び込むという成果はすでに生み出せているようだ。

 「観光地化する商店街が各地で出てきているともあり、この商店街にも若い人は少なからず足を運んでいますが、スマホで写真を撮って帰ってしまう。私はこの商店街で活動する関係人口を増やしたい。そのため、まずはこの拠点を気軽に使っていただきながら、地域の方との接点も増やしてもらいたいと考えています」(同氏)。

 今後周知を図ると共に、入りやすさを演出することで、ワークスペースとして、何気なく立ち寄れる場所として、寄り合いのできる場所として…といった具合に多機能化させていく予定だという。

◆地域の“メンター”がサポート

 以前、こちらのコーナーで紹介したシェアオフィス「NAGAYA清澄白河」(東京都江東区、以下「1号店」)。まちに必要なスペースをまちで活動する人たちが協力しあって立ち上げたシェアオフィスであるのは、すでに紹介したとおり。利用者同士の交流を促進したり、地元で活動する運営者が持つ人的ネットワークなどをフル活用して利用者の事業展開を後方支援するなど、利用者にとことん寄り添うサービスを提供してきた。
 2018年10月のオープンから3年が経過。コロナ禍も乗り越え、黒字化も実現させた。2021年9月には、同じく清澄白河エリアに新たなワークスペース「NAGAYA清澄白河駅前」(同、以下「2号店」)をオープンさせた。

駅から徒歩1分、1階にコンビニエンスストアが入居するビルの2階に出店した「NAGAYA清澄白河駅前」

 コロナ禍に突入し、テレワーク需要が急増。「1号店の需要が増えたほか、1号店に入居されていた方から『手狭になったのでもう少し広いスペースのところに移りたい』『個室が欲しい』といった声が聞かれたことから、2号店をオープンさせることにしました」と語るのは、同施設を運営する合同会社カツギテのメンバーである、(株)トラストリーの代表取締役・柴田光治氏だ。

 カツギテとは、「深川応援団」を標ぼう。地元のつながりを生かし、深川でことづくり、場づくりを行ないながら、深川で頑張る人たちをサポートする取り組みを行なう合同会社だ。深川のまちを愛し、元気にしようと考える人たちが、それぞれ出資をして集まり、さまざまな取り組みを行なっている。地域イベントの主催を中心に取り組んでいるが、まちの魅力を高めるための手段として取り組んでいるのが、シェアオフィスの運営である。

 そんなカツギテが提供するシェアオフィスだから、働く場を提供することに加え、カツギテのメンバーはメンターのように利用者との関係を築き、またメンバー同士のつながり、地域とのつながりを構築するために、さまざまなサポートを行なう。

 1号店では、サラリーマン、建築士、デザイナーなど、多様な業種の人がメンバーとなり、交流を深めながら、それぞれの目的に沿う形で活用されてきた。それは運用者側にとってもメリットとなり、例えばまちおこしイベントなどでも、求める力を仲間やその人縁を生かし、より魅力的なプランを実現することができるという形の成果を生んでいる。

 2号店は、都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線「清澄白河」駅より徒歩1分、1階にコンビニエンスストアがあるビルに出店することに決定した。「カツギテの代表の知り合いの人のビルの2階のフロアを借りることにしました。われわれの思いに共感していただき、良い条件で貸していただくことができました」(柴田氏)。

「NAGAYA清澄白河駅前」エントランス
設計やデザインは、カツギテメンバーでもあるデザイナーによるもの
個室のほか、コワーキングも用意。眼下には、味のある商店が軒を連ねる旧東京市営​店舗向住宅が見える

 個室需要の高まりを受けて広さや仕様の異なる個室を14室用意。「設計に着手したのがコロナ禍に入ってからでしたが、人と人とのつながりを重視したわれわれの取り組みを体現するため」に、コワーキングスペースも用意した。窓から清澄白河の風景を楽しめる絶好の場所にフリーテーブルを設置。仕事をすることはもちろん、利用者間の交流を図ることもできるようにしている。

 1号店では、事業展開の相談にカツギテのメンバーが積極的に関与するほか、地域の人との交流もカツギテのメンバーが支援。交流イベントも多数開催してきた。コロナ禍でも「NAGAYA online café」と題したオンラインセミナーを開催し、交流を継続させてきた。

 2号店のオープン時期はまだコロナ禍の影響が色濃く残る時期だったことから、リアルでの交流の取り組みはなかなか開催できずにいたが、12月の感染状況が落ち着いたタイミングを見て、オープニングイベントを決行。

コロナの感染状況が落ち着いた12月に、オープニングイベントを開催(写真提供:(合)カツギテ)
地域の方も含めて多数の参加者で盛り上がった(写真提供:(合)カツギテ)

 1号店で好評だった、NAGAYAイドバタを復活し、入居者の人がトークゲストとなり事業紹介を行なったほか、地域の方を招いての内覧会、交流会も行なわれた。

 今後は、1号店・2号店の入居者の交流も支援していきたいという。「すでに1号店から2号店へ拡大移転された会員もいらっしゃいます。その方の縁を生かして交流を活発化させたい。さらに、立地の良さを武器に、地方から東京へ進出する際の足掛かりとしていただくようなニーズも取り込んでいきたい」(同氏)。

◆ ◆ ◆

 ユーザーを獲得するためにどのようなサービスやメリットを利用者に提供しているか…。運営事業者が工夫をこらすその視点とは異なる、ワークスペース運営に至る背景を探ったところ、この事業の柔軟性、多面性が見えたように思う。当初都心を中心に供給が進められたが、今では郊外、地方、観光地など、さまざまな場所で展開されている。それぞれの場所でどのような副次的効果が生まれているのだろうか。関心がますます高まった。(NO)

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