記者の目

2023/8/8

ホテル、とりづらいのに稼働率は上がっていない…とは?

データに見る輸送・宿泊事業の実情 後編

 月刊不動産流通で「不動産事業者と地域金融機関のWin-Winな関係に向けて」を連載中の佐々木城夛氏に、訪日外国人観光客の増加に伴い発生している“オーバーツーリズム”について、データから実態を推察するインタビュー。後編では、旅行客が増え予約が困難になっていると言われているホテルですが、その稼働率は期待したほどは回復していないという実態について、解説してもらいます。

前編「解消が難しいオーバーツーリズム。なぜ?」はコチラ。

◆部屋は空いているのに予約できない、深刻な人不足

 ‐‐京都をはじめとする著名な観光地は、今年の夏は観光客でにぎわっていて、ホテルの予約がなかなかとれないという話を聞きますね。

 「確かにテレビのワイドショーなどでも、そのような話が取り上げられたりしています。
 ちなみに、コロナ禍であった2019年以降の月別宿泊者数のピークは、19年8月の約5,374万人でした。しかし今年の3月には約4,313万人と、単純計算では約8割まで回復しています。一方で、客室の稼働率は、コロナ前の同程度の宿泊者数に比べて低い水準にとどまっており、実は“宿泊者数の割に部屋が埋まっていない”状態にあることが分かります」

図表3 月別宿泊者数・稼働率推移

 ‐‐客室の稼働率が高くない?

 「そうなんです。客室の稼働率は、一室に複数人で宿泊する顧客比率が高くなれば下がり、単独で宿泊者の比率が高くなれば上がります。19年8月の宿泊人数が多い割に稼働率がそれほど上昇していないのは、全体に占める家族連れなどの比率が高かったからです。つまり、出張者層がコロナ前の水準まで戻っていないため稼働率が下がっているのです。在宅勤務やリモート面談・会議などが定着する中で、『(わざわざ)行かなくても良い/出張回数を減らせば良い』ということに多くのワーカーが気付いたことが、宿泊業界にとって長期的な需要引き下げ要因になる可能性もあるでしょう」

佐々木城夛氏

 ‐‐客室の稼働率自体が低ければ、部屋は空いているわけですよね。ホテルの予約が取りにくいということにはならないような…。

 「これについては、バスの運転手同様に人手不足が影を落としているようです。23年の4月時点の調査では、宿泊業の就業者は51万人と、4年前の4月時点より19万人、比率では27.14%と3割近く減少しています。中でも、清掃や客室準備などを担う非正規職員・社員が10万人減少している影響が大きいでしょう」

図表4 宿泊業関係就業者動向

 ‐‐大きく減っていますね

 「その一方で、旅館やホテルの施設数数は、19年度の5万1,004施設から21年度の5万523施設までわずか0.94%と微減にとどまっています。そのため、各施設が人手不足に喘いでいるであろうことがうかがえます。結果として、清掃などが間に合わない施設が、『8フロアあるうちの2フロア分は使用しない』といった感じで、客室を絞って運営しているようです。
 先に触れた客室稼働率は“利用客室数÷総客室数”で算出され、分母の総客室数は“客室数×各月日数”で算出されることになっています。一方で、このデータ自体が国によるサンプル調査に基づくものですので、宿泊フロアを絞っているような場合にも、客室数を正確に申告していない施設もあると思われます。従って、実際の宿泊対応可能客室に対する稼働率は、もっと高いのではないかと推測しています」

ホテルでは、人手不足により清掃等が間に合わずに稼働できない客室を抱えていることも

 ‐‐そんなに従業員が減っているとは…。運営にも影響するのは間違いないですね。

 「新型コロナの感染拡大期には、宿泊需要が蒸発に近い形で減少したため、やむなく人員整理に踏み切ったケースが多かったはずです。その後、需要が回復したものの、人員確保に苦労している…ということでしょう。
 連合が6月5日に公表した春闘の回答集計には業種別の7分類が含まれていましたが、対前年比伸び率では、宿泊業を含む『サービス・ホテル』が最も高かった模様です。その一方で、賃上げの回答額自体は、その分類の中で下から3業種目の8,800円にとどまっています。
 サービス提供に支障を来している事態が反映されたものと考えられるため、今後、従業員の採用・確保を意図した予防的な賃上げを含め、宿泊業者の労働コストは上昇が避けられないでしょう。それに伴って、宿泊料金相場も比較的早い段階で上昇していくのではないか、と見込んでいます。

図表5 連合業種別賃上げ額(平均賃金方式/加重平均数値)

◇ ◇ ◇

 アフターコロナに突入し景気浮揚への期待が高まる中、人手不足があらゆる業界で深刻な影響を及ぼしていることが、データを確認することで、より鮮明に認識することができた。
 人手不足はあらゆる業界で叫ばれているといっても過言ではない。この社会課題の解決にAIやロボット活用などが着々と進められている。そちらについても引き続き取材を続けていく予定だ。(NO)

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