海外トピックス

2014/3/20

vol.247 グラスを足で踏みつぶし!割って!粉々にする結婚式?

「家」をあらわすフッパだが、これは白樺の4本の枝と上にかけた布の手作りの天蓋(イリノイ州シカゴ市。以下同)
「家」をあらわすフッパだが、これは白樺の4本の枝と上にかけた布の手作りの天蓋(イリノイ州シカゴ市。以下同)
フッパの下で家族や友達に囲まれて律法師(花婿の後ろで見えないが)により祝福を受けるカップル
フッパの下で家族や友達に囲まれて律法師(花婿の後ろで見えないが)により祝福を受けるカップル
戸外に立てられた伝統的なフッパ。天蓋にはヘブル語で神を讃える言葉が刺繍してある
戸外に立てられた伝統的なフッパ。天蓋にはヘブル語で神を讃える言葉が刺繍してある
皆にかつがれて踊る花婿
皆にかつがれて踊る花婿
何故かめんどりが…。意味は不明。マルクシャガールの絵のようだ
何故かめんどりが…。意味は不明。マルクシャガールの絵のようだ
結婚式にダンスはつきもの。父親と踊る花嫁の姿が中央に見られる
結婚式にダンスはつきもの。父親と踊る花嫁の姿が中央に見られる

結婚式で皿やグラスにヒビが入るとか、壊れる、割れる、は縁起が悪い。増してや壊す、割る、などということは慶事の折、不吉以外の何ものでもない、とこれまでは思っていた。ところが、結婚式の最中、ガラスのコップを花婿が踏みつぶして粉々にする儀式があるなんて?!?!
教会でも神社でも式の最中はおごそかでしーんとしている。ところが、ユダヤの伝統的な結婚式では、花婿が花嫁とワインを飲んだあと、グラスをバシャッ!パシャン!と足元に落として音高く踏み割ってしまうのだ。
これには理由がちゃんとある。結婚式という楽しいときではあるが、喜びと苦しみは縄をなうように表裏一体、喜びと共にユダヤ人の長い苦難と放浪の歴史を心に留めるのである。ユダヤの結婚式は、5000年の歴史を背景に伝統に沿って執り行なわれてゆく。

花婿の周りを花嫁と母親が7周

とりわけ象徴的なのは、結婚式に使われる「フッパ(Chuppah)」。 4本の柱を立て、布で天井を覆っただけの簡素な天蓋で、花婿と花嫁が最初に分かち合う「新しい家」。二人で力を合わせてこれから築いてゆくであろう家としてのシンボルである。新しい家庭が友人達や家族により支えられている、として、実際に4本の柱を友人や家族が式の間持ち支えている場合もある。戸外に立てるのが理想だが、式場内に設置することも。 この天蓋は4本の柱だけで壁がないが、これにも理由がある。旧約聖書のアブラハムとセラ夫婦が開放的でいつでも喜んで客を招き入れた、という故事に基づいている。 さて、花嫁が花婿の母、花嫁の母と共にフッパ(天蓋)に到着すると、すでにフッパの中には花婿が座って祈りを唱えている。静かな式場にお経のようなメロディが高く低く美しく流れる。花嫁は座っている花婿の回りを花婿の母、花嫁の母と共にぐるぐると7周回る。女性は家族を守り家に光を注ぎ、愛情と理解で家を包み込む、つまり家を守るのは「女性の役割」ということなのだろう。「ジューイッシュマザー」とはよく耳にするが、家と子供達を命がけで守る超パワフルな母親の姿。ユダヤの伝統から来る女性の決意の表れに違いない。 ではなぜ「7回」まわるのだろうか?それは神様が世界を7日間で作られた創世記になぞらえたもの。花婿と花嫁はふたり一緒に彼等の「新しい世界」を創造してゆく、という理由によるのだそうだ。

グラスを踏みつけた途端、静寂が大歓声へ

フッパの下、律法師がワインを注ぎながら神に感謝を捧げる。花婿花嫁がワインを飲み干すが、ワインは「いのち、人生」のシンボル。酸っぱいぶどうがジュースからワインへと醸造されてゆく過程で、時が経つにつれ甘く味わい深いワインになる。それが人々に喜びをもたらすためか、儀式には必ずワインが使われる。 神の祝福があふれるほどにありますように、と律法師が祈りと共にワインをグラスに注ぐ。あふれ、だらだらと流れ落ちるほどに…。 二人の立会人のもと、花婿は結婚指輪を花嫁へ。律法師が再び神に世界創造の感謝と祈りを唱え、花婿花嫁が一つのグラスからあふれるワインを共に飲み、それから花婿は足元へグラスを落とし、右足で踏みつぶす。バシャッ! そのとたんに「マズルトフ!!」(Mazel Tov)。参列者から「おめでとう!」の大歓声があがる。 バンドは賑やかに演奏を始め、祝福の言葉があっちこっち大声で飛び交いダンスが始まる。これまでの厳粛さとは打って変わり、誰もかれもがユダヤ音楽に合わせてわいわいがやがや踊り出す。花婿が担ぎ出されて祝福のキスや抱擁を受けながら練り歩き、陽気な光景が繰り広げられる。

多くの戒律や約束事をまじめに受けとめるユダヤの人々

ユダヤの結婚式はグラスを割る儀式やフッパ(天蓋)はほんの一部分で、たくさんの細かい約束事や戒律があり、順序を追ってプロセスを述べてゆくと何十ページになるだろうか…。一つ一つが歴史に基づき象徴的な意味合いを持っている。これらは「トーラ」とよばれる巻物、羊皮紙にヘブライ語で書かれた教典によるが、国や地域、また信仰の度合いによって、歴史の中でおこった出来事についての解釈の仕方はさまざま。 さきに述べたグラスを割る理由についても、実は他にも違う解釈があるし、どれが正しい、というわけでもなさそうだ。花婿の母親と花嫁の母親が共に陶器の皿を割る、という風習もある。 「割れる」という事実は深刻で、それだけ結婚を真剣に受け留めよ、という由縁か?なにしろ5000年もの長い歴史があるのだから解釈がいろいろ出てくるのは当然で、ユダヤ系の友人達はああでもない、こうでもない、とトーラをひもとき裏付けを探し、楽しげに、時には殴り合いが始まるのではないかと思うほど熱心に議論を戦わす。 どうでもいいじゃないの、と思うような事柄でも納得するまで引き下がらない。誰しもが「なぜ?」と問いかけるし、子供が問いかけても大人は真面目に考えて答えを探す。ユダヤ系アメリカ人達のそういった活発な議論の場に居合わせると、相手を説得させる熱意に脱帽。弁護士やアインシュタインなどの科学者が多いのも当然か、と妙な所でうなずいてしまう。 ところで、日本の三献の儀(三三九度)の由来をご存知だろうか?水引きをかける際のきまりは?あるいは結納の際、白木の盆に鰹節やするめ、こんぶなどのせるが、これらの由来を調べてみるのも興味深いのではなかろうか。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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