海外トピックス

vol.321 メキシコ料理の秘密:手作りトルティーヤ

トルティーヤの上に様々な具をのせてモレソースをかけた辛い料理(メキシコ、ワカハ州)

 メキシコでは時間と手間をかけて丁寧に料理をする。その証拠(?)にトルティーヤ
(tortilla) 作りをあげたい。

 トルティーヤは、日本のごはんのように、メキシコ人が毎日食べる薄焼きパン。クレープや中華料理の春餅、インド料理のチャパティなど同様なものは世界中にあるが、メキシコで何百年も受け継がれてきた伝統的なトルティーヤは、小麦粉でなくメキシコ原産のとうもろこしを使う。

多種多様な料理法

 トルティーヤはおかずと一緒にむしゃむしゃ食べる他に、数え切れない程の料理法がある。

 鶏肉や野菜をトルティーヤにはさむタコス、それにソースとチーズをかけて焼くエンチェラダ、小さく切って茹でたサボテンと炒めたり…。トルティーヤのふちを1センチ位パイ皮のようにつまんで中に具を入れおしゃれな入れ物にも。硬くなったら細切りにしてスープに浮かべたり油であげてトルティーヤチップに。

 モレ(ソース)や唐辛子は何十種類もあってトルティーヤと合わせて使われ、味わいの深いメキシコ伝統料理となっている。

手作りのトルティーヤを焼いて売っている店

トルティーヤのつくり方は…

 トルティーヤは甘く柔らかく品種改良された米国産ではうまくいかない。大きな鍋に砂利を除いたメキシコ原産のとうもろこし粒を入れ、水を注ぎ、水に溶いた石灰を加えて煮る。火を止めて一晩放置した後、とうもろこし粒を洗ってざるにあげ、粒のまわりの膜を手ですべて取り除く。膜をとった粒をよくよく砕いてなめらかな粉状にし、水を加えて餅状にまとめる。

 この塊を団子の大きさにちぎり分け、トルティーヤプレスでひとつひとつ平らなCD状に延ばし、金属か陶器製のフライパンで焼いて温かいうちに食卓へ。ナプキンや綿入れ布団にくるんだり専用のバスケットに入れたり…、冷めない工夫をしていただく。

石灰をまぜとうもろこし粉を水でねった塊。「マサ(masa)」とよばれる。石盤の上でしっかりとこねる。左はトルティーヤを焼くかまど

科学的にも証明されたトルティーヤの高い栄養価

 メキシコ南部ワハカ州の田舎の村では、土鍋やかまどが台所に、石臼や陶器のすり鉢や薪が庭内に置いてあるのが目についた。シカゴでさえトルティーヤはスーパーマーケットで手に入るし、メキシコでも工場で製造しているが、自宅で作るのが断然おいしいと聞く。

 味だけでなく、本家本元の手作りトルティーヤは栄養価が明白に違うそうだ。前述したプロセスをニクスタマリゼィション(NIXTAMALIZATION)というが、これを通じて栄養価(プロテインやカルシウム)が増加し腸の働きを良くし、いくつもの病気を防ぐなど、多くの利点が科学的に解明されている。

 ワハカの地元のマーケットには、乾燥したとうもろこし、石灰、トルティーヤを押し延ばすプレス機、それを焼く陶版など手作りに必要な品を売る店が軒を並べ、しかも地元客で賑わっていた。

伝統的な陶製のフライパン。村のマーケットにて

社会の変化とともに伝統料理にも危機が

 メキシコ料理研究家のダイアン・ケネディは、しかしながら地域の伝統的なメキシコ料理が失われつつあると杞憂、とりわけ「アグロビジネス」とよばれる大規模な農業法や殺虫剤及び化学肥料の大量使用、近代化する社会や家庭の変化に警鐘を鳴らしている。

 ケネディはトラックやバス、ろばに乗って30回以上メキシコ全土の隅々まで訪れ、数え切れないほどの料理や現地の食材を研究し、現在はメキシコの田舎に定住して有機栽培と著述で日々を過ごす94歳の女性である。

とうもろこし粉(マサ masa)を小さく丸めるおばあさん
丸めたマサ(masa)をトルティーヤプレス器で平たく伸ばす
フライパンでトルティーヤを焼く。薪が燃料

市場や屋台、のんびりと会話を楽しみながら

 トルティーヤを初めからすべて手作りしなくても、ニクスタマリゼィションをしたとうもろこし粉や、すでに練って塊にした半製品、手作りのトルティーヤなどが、村や地元の市場で手に入る。だからか、街頭の屋台でもトルティーヤを使ったメキシコ料理は安くて実においしいのである。どっしりとかまえたおばちゃんがその場で料理して売っている。小さな子供達は見よう見まねで母親を手伝う。

 アメリカの都会暮らしは誰もが忙しく、ドライブ中に携帯電話でレストランに注文をして大急ぎで夕食を持ち帰ったり、スーパーマーケットのビュッフェで料理を詰め合わせて自宅に持って帰る等、手作り料理に割く時間は少なくなってきている。だからこそメキシコの市場や屋台で、売り手と買い手の対話がふんだんにあって誰もがのんびりしているのが印象的であった。

 手作りトルティーヤは時代に逆行しているかもしれないが、そこには我々が忘れつつある何かがあるような気がしてならない。

フライパンの上で料理もする。トルティーヤをしいて具はかぼちゃの花とメキシカンチーズ


参考資料
Penland, Paige R. Oaxaca. NewYork, NY.: The Countryman Press, 2009.
Kennedy, Diana. My Mexico. NewYork, NY.: Clarkson N. Potter, Inc, 1998.
Martines. Zarela. The Food and Life of Oaxaca. NewYork, NY.: Macmillan
Company, 1997.
https://video.search.yahoo.com/search/video?fr=yfpt&p=nixtamalization#id=1&vid=bccb8f79d4731710004cf213f90c31e2&action=click https://en.wikipedia.org/wiki/Diana_Kennedy

Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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エコロジカル

自然環境と調和している様子。英語でecological。

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2017/10/20

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19世紀、石油や鉄道、港湾貿易などで栄えたテキサス州には、富裕層が建てた大邸宅が立ち並びました。

今でもその面影を残すエリアがありますが、そうした地域でヴィクトリア様式の古い物件を改装してモダンなスタジオと住まいにしたイタリア生まれの女性がいます。

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