海外トピックス

vol.323 空き家:浮沈の不思議

シカゴ市南側のサウス・ウッド・ストリート界隈。2009年に起きたフォアクロージャー(抵当流れ物件)で放置された家が何軒も並ぶ(イリノイ州シカゴ市。以下同)

 シカゴ市を中心とするクック郡には現在55,000件もの空き家がある。1~2件程度なら、やがて売れたり、取り壊したり、改築されてゆくが、空き家がある一定の地区に集中すると、商業地、住宅地にかかわらず、犯罪が発生。無断居住者の巣となり、窃盗も多発、麻薬取引が発生することも…。

 そんな危険を避けて引っ越してゆく人が増え、空き家が雪だるま式に増加、その界隈の地価は下がるという経過をたどる。

以前は小売店であったらしいが、現在はひと気もない
しっかりした建物だっただけに、窓が放置されたり無断居住者を防ぐために板が打ち付けられるのは痛々しい

空き家が解消されるケースは

 この逆も起きる。

 第一に、自然発生的に空き家が埋まり、界隈が活発化する場合。第二に、行政(主にシティプランナー)や大きな組織(大学や大企業)によってその地区が大々的に人為的に変わってしまう場合だ。

 いずれも都心部(ダウンタウン)に近く、交通が便利な場所という点が特徴である。

いまでも「マックスウェルストリート」の名は残っているが…、すっかり変貌した界隈。ホームレスも野良犬も全くいなくなった
マックスウェル・ストリートはイリノイ大学がキャンパスを拡張し、空き家を一掃して生まれ変わった

野良犬も一掃、おしゃれな学生タウンに

 マックスウェルストリートは都心のすぐ南側で、一帯はシカゴ市の所有地であった。多くの老朽化した建物や倉庫や古びた教会もあって、草ぼうぼうの空き地では毎週日曜日にボロ市が80年以上も行なわれていた。

 マックスウェルストリート地区にキャンパス拡張を決定したイリノイ大学は1990年代に用地をシカゴ市から購入。数年かけてホームレスも野良犬の群れも徹底的に一掃してスマートなカレッジタウンへと変貌させてしまった。マックスウェルストリートはミシシッピからやってきた黒人によるデルタブルースがイギリスのローリングストーンズなどロックシンガー達に影響を与え、歴史的にも意義深い場所だったので強い反対運動が起きたが、市とイリノイ大学は強硬に押し切ってしまったのである。

 現在は、イリノイ大学の学生達がたむろするお洒落なコーヒーショップやスポーツ用品店やデジタル関連ストアが軒を連ね、以前の崩れた建物やバラックの面影は一切ない。空き家が完璧に消滅した好例であろう。 https://www.youtube.com/watch?v=WSzT5Rt6KYw

友人が以前住んでいたうらぶれた界隈はいまやお洒落な人気スポット。空き家はゼロである

うらぶれた界隈が、モダンな若者向けスポットに

 空き家が集中した地区が、自然な流れで変わる場合としては次の例がある。

 シカゴ市のバックタウン地区に住んでいた写真家の友人ジェイは、30年前に荒物屋だった2階建の店舗をただ同然の価格で購入。1階を改装して貸店舗とし、ジェイは2階に住んだ。入り口には何重もの頑丈な鍵が必要で、うら寂れた界隈には浮浪者がうろつき、ごみが散乱。筆者がジェイを訪問した際にも、車を駐車するのに安全を確認してからでないと怖くて車から出られなかった記憶がある。

 7~8年くらい経った頃、モダンなレストランや音楽スタジオ、ギャラリーが次第に店を出し始めた。結婚したジェイはお洒落な室内小物のブティックを1階に、2階をジェイの写真スタジオと住まいに改築。あたりの様子が変貌し、地価が上がって来たので、店舗を売って二人は郊外へ引っ越した。

 安値で購入した物件が10年後に5,000万円で売れ、改築費を差し引いても大儲け!と思ったが、ジェイの父親は「何故もう少し待てなかったのか!」と激怒したそうだ。父親の予測通り、ジェイが住んだ場所はヒップな若者のスポットとなり、現在5,000万円どころか5億円近い高価な地所になっている。

安さが魅力。多少の危険は承知で住み着くアーティスト

 バックタウン地区の場合もマックスウェル・ストリート同様に、都心部(ダウンタウン)に近く交通が便利という2要素が空き家地域を変貌させる鍵となった。

 空き家が沢山ある区域は物件も家賃も価格が安い。価格が安ければ広いスタジオスペースが欲しいアーティストや若者達が多少の危険は承知で引っ越して来る。芸術的で自由闊達な雰囲気は、アーティストや若者をさらに惹きつけ、空き家は次第に埋まってゆき、注目され始めると連鎖反応で一層賑やかになるという具合だ。ニューヨークのソーホー地区はその良い例であろう。

 ちなみに地価が上がるとアーティストは住めなくなり、新たな場所を探して引っ越す羽目になり…、都市はダイナミックに変化してゆく。

購入後に改築していたのだろうが、事情があって手放し、封印された家
空き家が多い地区は、このように市の勧告で取り壊された空き地も多い

金融危機の名残が今も…

 アメリカでは、2009年に240万件ものフォアクロージャー(差し押さえ)が発生。社会問題となり、8年を経た今に至ってもまだ暗い影を落として深刻な空き家問題を引き起こしている。

 シカゴ市西のサウスウッドストリート区画では、47戸のうち9戸は空き家、十数戸が市により取り壊されて空き地になっているが、大半は差し押さえ物件である。格安な物件価格に惹かれ2年前に一戸建て住宅を購入した家族がいるが、あたりは無断居住者が多く窃盗や暴力犯罪が多いので、早々に引っ越してしまった。

 日本で空き家が発生する原因や地域の現況などはアメリカと異なるため、比較は難しい。対策がそれぞれ違うのは当然だろう。

 アメリカの場合は個人や中小不動産業者の力では集中した空き家全域を活性化してゆくのは容易ではない。行政が空き家対策のリーダーシップを取り、企業が協力し、大規模に取り組む必要があることを強く感じている。

 
参考資料
http://www.chicagobusiness.com/assets/interactive/abProp/vacantResponsive.html
https://www.cityofchicago.org/city/en/depts/bldgs/dataset/vacant_and_abandonedbuildingsservicerequests.html
https://ipiweb.cityofchicago.org/VBR/Default.aspx

Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

この記事の用語

空き家・空き地バンク、空き家バンク

空き家・空き地の物件情報が登録され、検索できる情報システム。地方自治体が運営していることが多い。

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