海外トピックス

2017/12/20

vol.336 織物を、目の不自由な人々に教える

フリードマン・プレィスの織り教室の教師。左からアニィ、ジュディス、カロラィン。いずれも視覚障害者のための資格を持つセラピスト達(イリノイ州シカゴ市。以下同)

 ジュディス(Judith Quercigrossa, Certified Vision Rehabilitation Therapist=認定リハビリテーションセラピスト)
は、視覚障害の人々に織物を教えている。
 …と聞いた時には正直なところ驚いた。
 目が不自由な人がどうやって布を織るのだろう? 目が見えていても織るのって決して簡単ではないのに…。

視覚障害者施設で人気のプログラム

盲人用のための織り機。引き手(織り機の上部)にはそれぞれ点字が打ってある
足踏みでなく前方に見える引き手で綜絖を上げ下げする90歳のジーン。かなり大きなディッシュタオルに挑戦している

 ここフリードマン・プレィス (Friedman Place ) は視覚障害者専用の住居施設であり、5階建ての建物に約90人が住んでいる。入居者のために数多くのプログラムが用意されているが、「織り」は特に人気がある。
 初心者でも年齢や男女の別なく建物に接した工房で教師の指導のもとにスカーフやランチオンマット、ナプキン、ディッシュタオルなどを織る。目の不自由な人たちにとって、実際に使えるものが自分の手で仕上がる喜び。クリスマスや夏にはセールに出品が出来、売れれば多少のおこずかいが手に入るのも嬉しい。
 年に何度か館内に作品を展示する機会もあり、作品を見た人々から「きれい!」と褒められるのはとりわけは嬉しいものだ。自分で色彩が認識出来なくても賞賛されれば自信が大きく湧き上がってくる。
 「織りはエクササイズ!」と90歳の女性が言っていたが、そういった成果もあろう。

週3時間、教師が常に付き添って指導

視覚障害者がつまずかずに歩ける広いスペースがとられた工房である

 同施設で織り教室に参加するにはまず時間の予約をする。1人につき週に合計3時間までという規則があるが、1時間ずつ週に3回織りにくる生徒が多い。2人前後の教師が常に生徒に付き添い、工房には3人くらいの生徒が予約した時間にやってくる。
 広い工房で3人では不合理なようだが、教師が生徒の安全と指導に目が届く人数だ。
 織り機には出っ張った部分が四方八方にあり、そこへ糸が絡まったりヨコ糸が切れたりシャトルを落としたり…、そんなトラブルが起きた時に教師の助けがすぐ必要となる。

まず、作品のイメージ作りから

 教師ははじめに生徒がどんなものを仕上げたいか、織り模様や色などを各生徒と話し合う。視覚障害の度合いや織りの経験によって織り機や糸を選ぶ。記憶をたぐって好みの色を教師に伝えたり、強い対比の色の組み合わせがしたい、とか青空のような青と海の青の縞に、など自分でイメージを描く人もいる。

織り機の左側に糸が絡まってしまい、それをほどく説明をするジュディス

準備と始末は教師がサポート

 織り機にかける前の準備と織り終わったあとの始末は教師がすべて行なう。仕上げる作品の長さに合わせてタテ糸の長さを計算し、巻き取ってから織り機の綜絖(ヘドル)に通す。(平織りなら2枚の綜絖)ヨコ糸を用意してシャトル(杼=ひ)に装着する。そこで初めて生徒の出番となる。

 生徒は足でペダルを踏み替えて綜絖を上下させてタテ糸の開口部に杼(ひ)をシャーっと通してトン、と筬(おさ=リード)で手前に打ち込み、またペダルを踏み替えて綜絖の上下を変え、シャトルを通しリードで打ち込み、その単純動作を何度も何度も繰り返して織ってゆく。
 何本かのペダルを足で踏み替える織り機が通常使われるが、この工房では目の前にあるレバーを手で引っ張って組み合わせを変える織り機も使われる。手で引くレバー部分に点字で番号が打ってあるので、それによって引っ張る組み合わせの順序がわかるのである。
 織り終えたあと、織り機からはずして糸を切ったり端の始末をする。時にはミシンでトリミングしたり、リボンやラベルをつける等の作業をジュディス達が仕上げる。

点字用の織り機など設備も充実

マット・ボーデンにシャトルを手渡すアニィ

 フリードマン・プレィスは、広くて色彩鮮やかで光がたっぷりと差し込む素晴らしい工房である。工房を2度訪ねて、実際に目の不自由な人に手取り足とりで織り方を教えているジュディスを観察、そして生徒との話し合いや準備のプロセス等を説明してもらって初めて納得。
 鮮やかな糸巻きが立ち並ぶ棚や、織りあがった作品が並ぶ工房、さまざまな種類の織り機に加えて、点字用の織り機も何台かあり、すべてが周到に考慮されている。

 ジュディスは工房を「生徒達がリラックスしながらも集中して織れるような創造的な環境に作り上げたい」と望んでいるが、生徒達が織り機に向き合い真剣に取り組む姿は強く印象に残った。

織りあがってワインなどを包む贈り物用のバッグ。レーベルには「マット・ボーデン」と織り手の名前が記入されている

Akemi Cohn
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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