海外トピックス

2021/2/1

vol.377 オープン・ハウスで学ぶ、知られざるウィーン建築【オーストリア】

 コロナの影響で旅行の楽しみがなくなった人も多いでしょう。ただ、悪いことばかりではないかもしれません。これを機に、住み慣れた地元の魅力を見つめ直してみてはどうでしょうか? そんな趣旨にぴったり合ったイベントとして、「オープン・ハウス」があります。

広がるオープン・ハウスの輪

 オープン・ハウスとは、毎年一度開催される建築の一般公開日のこと。1992年にロンドンで始まった活動で、現在40都市以上が参加する世界規模のイベントに成長しました。日本からは19年に大阪市が加わっています。公開される建造物の多くは通常非公開で、市民が建築を楽しみながら学ぶことができます。ボランティアが運営し、入場無料なので、子供から大人まで誰でも参加することができます。

 今回の舞台はオーストリアの首都ウィーン。20年はコロナの第二波が襲ったため見学はできず、オンラインのイベントになってしまいましたが、世界中の都市を結んでビデオ・ツアー、講演会・討論会などが行われました。そこで、一昨年訪れた建造物を一緒に見ていきましょう。

目を見張る公共団地

 まずは、これを見てください。

アム・シェップフベルク・カトリック教会の内部

 かなり斬新なデザインです。これはなにかというと、教会です。お洒落だと思いませんか? よく見ると祭壇もあります。19世紀後半から20世紀の初めにかけてヨーロッパで流行した芸術様式「ユーゲント・シュティール」を踏襲し、モダンな感じに仕上がっているのは、オットー・ワーグナー(※)の街・ウィーンならでは。また、オセロのような天井デザインは、オプアートとして知られるヴィクトル・ヴァザルリが建設したエクサンプロヴァンスの美術館さえ想起させます。

 興味深いのは、この教会が1970年代に始まった公共団地プロジェクトの一部だったということです。実は、ウィーンは公共住宅の宝庫なのです。2つの大戦間で取られた社会民主主義政策は、「赤いウィーン」とも呼ばれ、6万戸もの公共マンションが建設されました。現在でも人口の62%が公共住宅に居住しているそうで、世界でも稀有な都市となっています。

 公開日には最寄りの地下鉄駅から団地を一巡するガイド・ツアーが組まれました。驚くべきことに、この公共集合団地は一つの街を形成しています。内部には、幼稚園、学校、青少年センター、職業センター、ケアセンターまであります。さらに、公園や遊び場の他、教会、図書館、郵便局、警察、医院や薬局まで完備し、飲食店からスーパー、様々な商店も軒を連ねています。コロナによるロックダウンの救世主? それどころか、団地から一歩も外に出ずに人生が成り立ちそうです。

※19世紀から20世紀初めにかけてウィーンで活躍した建築家。機能性・合理性を重視する近代建築の理念を追求した。「ウィーン郵便貯金局」、「シュタインホーフ教会堂」など多数の建築を手掛けた。

ウィーンにある巨大な公共集合団地
さまざまな機能を集約し、「一つの街」を形成する

オットー・ワーグナーの至宝

 次に紹介したいのが、1883年建造の「旧レンダーバンク」(オーストリア銀行の前身)。かのオットー・ワーグナーが手掛けた建築です。ウィーンのモダン・オフィス建築第一号とも言われており、歴史的建造物にモダンなデザインを取り入れた新旧融合という感じでしょうか。

旧レンダーバンクの内部
統一感のあるデザインが印象的

 外部は銀行らしく重厚な印象ですが、対照的に内部の中心部は高い天井から光が差すオープンな空間が広がります。天井窓から柱、壁、床模様を見るとシンメトリーで統一感があります。らせん階段は白黒のシンプルな色彩で、軽快なデザインの手すり細工が“上昇感”のある空間を生み出しています。

らせん階段

 見学会では地下にも潜入。古い銀行の金庫を見られる機会もあまりないでしょう。

旧レンダーバンク地下の金庫室
古めかしい金庫が並んでいる

フェルステルの隠れ建築

 やや古い宮殿の見学もできます。17世紀のエスタハージー宮殿も面白いですが、イタリア風建築が楽しい19世紀の「フェルステル宮殿」に注目してみましょう。

フェルステル宮殿内部
フェルステル宮殿大ホール

 観光地として有名な宮殿内のカフェ「ツェントラル」に隣接しています。普段はイベント専用なので入れません。周りの建物に埋もれて気づかないような外観でもあります。しかし、赤絨毯で化粧された内部に一歩足を踏み入れると、「ゴージャス」の一言が出てくるはず。
 階段、支柱、窓、壁、天井…ありとあらゆる場所に装飾が施され、目が回るほどです。特に大ホールは圧巻。背の高い天井からシャンデリアが降り、やや奇抜ながインテリアが目を引きます。天井は中世の船体の雰囲気さえします。ここは、もともと銀行・証券取引所として使われていました。

 フレデリック・フォン・フェルステルという名前は聞き覚えがないと思いますが、近代ウィーンを形作った建築家の一人です。ヴォティーフ教会、ウィーン大学本館などウィーン中心部の重要建築を手掛けています。オットー・ワーグナーに飽きたら、フェルステルの建築作品を堪能するのも良いでしょう。

都市デザインを考える

 最後は、ソンベンド地区の最新都市プロジェクトです。

 中央駅そばの旧国鉄敷地内に5,500戸もの住居を開発する予定で、現在も建設中です。見学会は、個々の建造物だけでなく、都市の整備・空間利用という観点から建築を考える面白い機会になりました。特に顕著なのは、「赤いウィーン」に通じる、21世紀の社会的環境作りです。

再開発が進むソンベンド地区の集合住宅
子供の遊び場、幼稚園、緑地スペースなど多様な機能を集約させている

 ここでは、人生の段階や多種多様な目的に応じて、新鮮なデザインかつ機能性のあるスペースが確保されています。子供の遊び場、幼稚園、屋上の共有緑地スペース、家族や大人が憩えるカフェはもちろん、共有舞台スペース、会社などもあります。居住地区は車を排除し、7万平方メートルを誇る公園を整備しています。近くにトラムや鉄道駅があるので生活利便性にも優れています。

オープン・ハウス開催時の模様

 道を歩くと様々な人種に出会います。実はウィーンには移民が多く、異なる文化や宗教をもつ人々が隣り合わせに暮らしていることを改めて実感できました。さらに、環境施策、地域活性化、新型公共交通、スマート・シティ等々…、現代社会の課題を解決する手法に目を向けてみるのも良いでしょう。近現代建築は、市民目線のその社会性が面白いのです。

 今回紹介できませんでしたが、他にも大学校舎、醸造所、文化会館、 会社、役所など見学できる場所は千差万別。週末の2日間、街を東奔西走しましたが、見学できたのはごく一部でした。

過去・現在・未来を知る旅

 さて、ウィーン市内を歩いていると歴史を感じさせる建造物が目につきます。観光の街だけあって、有名な建築もたくさんあります。シュテファン大聖堂、シェーンブルン宮殿、フンデルトヴァッサーの建築…。ところが、今回紹介したのは通常の観光ツアー等では訪れない場所ばかり。少し遠出をしたり、裏道を歩かないと見つからないのです。いわば地元の人しか知らない、いや地元の人さえ見過ごしているような建築や空間を見つける。これぞオープン・ハウスの醍醐味でしょう。
 見学できるものは近代建築が多いですが、もっと古いものや、新築の建造物も含まれているため、街の過去・現在・未来を通時的に知ることもできます。

 現在はコロナ禍で直接の見学は難しいかもしれませんが、オープン・ハウスは大阪市でも開催しているので、ぜひご参加ください。また、オープン・ハウスには参加できなくても、現地にふらりと足を運んでみてはいかがでしょうか? 外からでも十分楽しめるはずです。ガイドブックで見た名所を「確認」しに行くよりも面白いかも。

千夏摩耶
オーストリアに在住5年目のライター。コロナ禍で多くのスポーツが禁止され、代わりに散歩が急増。ウィーンの全ての通りを歩いて制覇するのが目標になりました。まだ道半ばですが、毎日新しい発見があるのがこの街の魅力です。海外書き人クラブ所属。

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