2022年、アメリカ・カリフォルニア州最大の都市ロサンゼルスでは、全米のみならず国際的にも大きな注目を集めるスポーツイベントが目白押しで行なわれました。2月13日にアメリカンフットボール最高の大会であるNFLスーパーボウルが、7月19日にはメジャーリーグの夢の球宴MLBオールスターが、華々しく開催されたのです。
それだけではありません。カナダ、メキシコ、アメリカの3ヵ国共同開催の26年FIFAワールドカップでは、ロサンゼルスが開催地の一つに決定していますし、なんといっても28年にはロサンゼルスオリンピックが44年振りにこの地にやってくるのです。
ワールドカップでもオリンピックでも、メインとなる会場はロサンゼルス国際空港ほど近くに建設された「SoFiスタジアム」です。20年に開場したばかり、最大収容人数約10万人のこの巨大スタジアムは、半透明な屋根に覆われた“近未来”を思わせる斬新なデザインで知られています。今年のスーパーボウルで超大型イベントの開催もすでに実証済みです。
まさに準備万端と思われるロサンゼルスですが、実は足元に大きな不安を抱えています。世界中から大挙してやって来るであろう人々を迎え入れる表玄関・ロサンゼルス国際空港が、信じられないほど“前”近代的だと悪名高いのです。
慢性的な渋滞を引き起こす、交通アクセスの不備
同空港には鉄道もモノレールも乗り入れていません。従って、ディズニーランドやハリウッドなど、近辺にある有名な観光スポットを訪ねようにも、個人の観光客は公共交通機関に頼ることができません。タクシーやライドシェアを利用するか、あるいはレンタカーを借りて自分で運転するしかないのです。そして、レンタカーの事務所も空港の外にあり、そこまで送迎シャトルバスに揺られることになります。
現地在住者にとっても、同空港から飛行機に乗るためには、非常に面倒で腹立たしいプロセスが待ち構えています。全米でも最悪の交通渋滞で知られるロサンゼルスの高速道路をなんとか通り抜けて空港へ近付くと、今度はターミナル間をつなぐロータリーに車が数珠つなぎになっている、なんてこともざらです。私自身、空港敷地内に入ってからターミナル前で車を降りるまでに30分以上かかったことは1度や2度ではありません。
成田も羽田も関西も、日本の大きな空港はどこでも鉄道が乗り入れていることを考えると、ロサンゼルス国際空港の不便さは際立っているように思います。
無人運転の交通システム導入へ
もちろん、このままで良いとは誰も考えてはいません。現在、予算約2兆円ともいわれる“近代化”プロジェクトが進められています。同空港で最後に大規模な改修が行なわれたのは1984年の前ロサンゼルス・オリンピックに先だった頃ですので、およそ半世紀ぶりの改修ということになります。
同プロジェクトの目玉の一つが「Automated People Mover (APM)」と名付けられた無人運転による交通システムです。ターミナル間や、空港と空港外のレンタカー施設、駐車場を結び、さらには地下鉄の駅とも接続するようです。これが実現すれば、車に頼り切った現在の交通アクセスは格段に改善されるはずです。
2009年に始まった近代化プロジェクトは23年末に全体竣工する予定です。現在、急ピッチで最後の工事が進められている、と書きたいところなのですが、私の目にはとてもそうは見えません。
22年8月時点の現在、ロサンゼルス国際空港を訪れる人は、解体中のまま放置されたような建物、部分的に完成した建物、まだ骨組みだけのような線路などが交じり合った光景を目の当たりにするでしょう。カオスのようなターミナル前の渋滞もそのままです。
オリンピックまでまだ6年ありますが、それまでに本当にこのプロジェクトは完成するのか。そう不安に感じる地元住民は私一人では決してないはずです。
角谷 剛(かくたに・ごう)
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。海外書き人クラブ会員。