不動産ニュース / 政策・制度

2016/10/4

「IT重説」社会実験、1年で564件実施。「解禁」巡り議論白熱/国交省

 国土交通省は4日、「ITを活用した重要事項説明に係る社会実験に関する検証検討会」の2回目となる会合を開いた。

 会合では、2015年8月末から開始されたITを活用した重要事項説明(IT重説)の社会実験につき、この1年間の実施状況や重説を受けたユーザー、重説を行なった事業者に対するアンケート結果が発表された。

 社会実験には、303社(当初246社、追加登録57社)が登録。15年8月~16年8月までの1年間で、49社により、564件のIT重説が行なわれた。うち553件が個人の賃貸仲介・代理で、法人賃貸は9件、法人売買が2件。実施件数上位3社が425件を占めた。

 ユーザーアンケートでは、「取引士証の確認」「説明者の表情の確認」「重説の聞き取りやすさ」などについて、いずれも8~9割が「十分だった」と回答。重説の理解状況についても、9割弱が「(事業者に)十分伝えることができた」と答え、「今後もIT重説を利用したい」との意向も、58.2%となった。また、回答者の25%が事前内覧を行なわずIT重説を受けた。機器トラブルの発生率も、半年前より8.6ポイント減の19.7%にとどまった。

 一方、事業者のアンケートでは、「身分証の確認」「表情の確認」「声の聞き取り状況」「説明の相手方の理解状況の確認」「図表資料の理解状況の確認」「説明のしやすさ」などの項目で、いずれも8割強~9割強の回答者が「十分だった」とした。また、IT重説に対する評価では、「対面での重説と同程度」との回答が初回時には35.1%にとどまったが、2回以上実施した後でのアンケートでは59.4%まで高まった。

 また、今回の会合では、件数が伸び悩んでいる法人間取引に係る調査結果と、IT重説実施6ヵ月後の調査結果も発表された。法人間取引のIT重説に係るヒアリングでは、「同意書を採るための決済」「事前の書類等の準備手続き」「商慣習上、対面が原則」などがIT重説を阻害している要因として挙げられた。IT重説6ヵ月後のアンケートでは、「IT重説で受けた説明との齟齬」があるとする回答がゼロで、取引に関して発生したトラブル(全回答の6.5%)のうち「IT重説を原因としたもの」はなかった。

 これらの実験結果を受け、委員からは「個人の賃貸ユーザーについてはニーズがそこそこあり、満足度も高い。機器トラブルなどについては、導入する事業者が必要なコストをかけ整備すればいい。次の段階(解禁)を止める理由はない」「トラブルを懸念する実験結果はなかった。個人の売買仲介についても(解禁を)前向きに検討してほしい」「内覧せずIT重説を受けている消費者が意外に多かったということは、IT重説は消費者に寄り添ったサービスなのでは。強制ではなく、あくまで選択肢を増やすと考えるべき」といった肯定的意見があがった。

 その一方で「参加事業者数も、実施件数も微々たるもの。一般的な不動産取引にはなじまないことがわかった」「実施件数のほとんどが上位3社のもので、その結果をもって(解禁へ)すべてがクリアになるとは言えない。もう少しサンプルが欲しい」「身分証明が録画されることにつき、宅建士や消費者の個人情報トラブルが心配」「重説の事前送付は、IT重説の前提にすべき」「内見なしにIT重説で契約してしまうと、騒音や日照などのトラブルが懸念される」「参加事業者数と実施件数がなぜ少ないか真剣に受け止め、その理由を掘り下げ、トラブルを防ぎながらルールを簡略化するなどしていかないと、解禁する意味がない」など、解禁に慎重・反対を唱える意見も多かった。

 座長を務めた中川雅之氏(日本大学経済学部教授)は「IT重説はやりたい事業者が行ない、それに納得した消費者が受けるという構造を踏まえれば、今回の調査結果はポジティブに受け止めていい。IT重説をたくさん実施している事業者の取り組みが一般的な事業者でも行なえるものなのか、またIT重説と一般的な対面重説との6ヵ月後の結果がどう違うかなど、もう少し議論が必要」と総括した。

 同省は、現在の社会実験を17年1月末で終了。同年2月の第3回会合での議論を踏まえ、IT重説のあり方についての最終報告をとりまとめる予定。ただし、社会実験の終了時期については「繁忙期を前に終わらせるのはどうか」という意見を受け、中川座長一任で再調整される見込み。

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重説IT化

不動産取引における重要事項説明を、インターネット等を活用して対面以外の方法で行なうこと、またはその方法を導入すること。 重要事項説明は、宅地建物取引士が対面で行ない、書面を交付しなければならないとされていた(宅地建物取引業法)。

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