記者の目 / リフォーム

2012/10/9

中古住宅にも「スマート化」の波

三井不動産リフォーム、リノベーションを積極提案

 いまや、住宅・不動産業界の一大トレンドとなった感のある「スマートハウス」。マンションディベロッパーやハウスメーカーから続々と新商品が発表され、ユーザーの注目を集めている。これまでスマートハウスといえば、ほぼ100%「新築」の話。中古住宅を志向するユーザーには「無縁」ともいえるものだった。だが、ここにきて中古住宅もスマートハウスにできる、とアピールする企業も出てきている。三井不動産リフォーム(株)の提案する「スマートリノベーション」も、そうした提案の1つ。マンションのスケルトンリフォームに、スマートハウスの要素を盛り込み、新築同様の住み心地と設備機器を持った「スマートハウス」として提案。他社と差別化していくという。

フルスケルトンリフォームとスマートハウス化により生まれ変わったモデルルーム
フルスケルトンリフォームとスマートハウス化により生まれ変わったモデルルーム
新たな間取りは、通風と採光を最大限考慮。風が抜けるように寝室の間仕切り戸は格子に。壁も穴あき煉瓦を使っている
新たな間取りは、通風と採光を最大限考慮。風が抜けるように寝室の間仕切り戸は格子に。壁も穴あき煉瓦を使っている
水回りは、三井不動産レジデンシャルの最新マンションと同等のものを採用。水回りを移動させるため、床レベルを上げ天井高が下がったため、圧迫感を減らす目的で梁に鏡を貼っている
水回りは、三井不動産レジデンシャルの最新マンションと同等のものを採用。水回りを移動させるため、床レベルを上げ天井高が下がったため、圧迫感を減らす目的で梁に鏡を貼っている
モデルルームに設置されたサンルーム。中古マンションのリフォームは専用使用部分であるサッシュや玄関ドアなどがリフォームできない場合も多い。そのため、サッシュをそのままに断熱性を高める工夫として提案。樹脂サッシュで囲った内部に蓄熱タイルを敷くことで、冬場のサンルーム、あるいは物干しスペースとして提案する
モデルルームに設置されたサンルーム。中古マンションのリフォームは専用使用部分であるサッシュや玄関ドアなどがリフォームできない場合も多い。そのため、サッシュをそのままに断熱性を高める工夫として提案。樹脂サッシュで囲った内部に蓄熱タイルを敷くことで、冬場のサンルーム、あるいは物干しスペースとして提案する
モデルルームでは、壁や床の一部を切り取り、断熱材の違いやさや管の工夫などをユーザーに紹介している
モデルルームでは、壁や床の一部を切り取り、断熱材の違いやさや管の工夫などをユーザーに紹介している
スマートハウスの絶対条件であるHEMSも、もちろん設置
スマートハウスの絶対条件であるHEMSも、もちろん設置
床レベルを上げたことで、ユニットバスの段差もほぼ気にならないレベルにまで解消した
床レベルを上げたことで、ユニットバスの段差もほぼ気にならないレベルにまで解消した
玄関ドアは基本的に変えることができないため、遮熱対策が最も難しい。そこで、玄関と廊下との間にセカンドドアを設置し、冬場のヒートショックを防ぐ
玄関ドアは基本的に変えることができないため、遮熱対策が最も難しい。そこで、玄関と廊下との間にセカンドドアを設置し、冬場のヒートショックを防ぐ

リフォームでだってスマート化できる!

 そもそも、「スマートハウス(賢い家)」の定義とはなんだろう?実のところ、さまざまな解釈があるのだが、一般的には「HEMS (home energy management system)で家庭のエネルギー消費を最適にコントロールする家」というイメージではないか?また、最近では、そこから一歩踏み込んで、「自然の力(太陽や風)と、さまざまなハードソフトを使いながら、省エネ・省CO2を図り、快適に住まうことができる家」という広義の意味でも捉えられている。

 こうした定義を実現する、つまりよりハイレベルな省エネ・省CO2を実現するためには、当然住まいそのものの躯体が十分な省エネ・省CO2性能を持っていなければならないし、太陽光発電や蓄電池、HEMSや各種設備機器など、最新鋭のハードが必要となる。という条件から、スマートハウスは躯体やその他の構成要素が時代のトップレベルにある「新築」が、もっともその性能を発揮できるのは論を待たない。

 では、「中古住宅は、スマートハウスとなりえないか?」といえば、答えは「NO」だ。確かに躯体性能は最新新築物件と比較すれば劣るが、それはリフォームで断熱や斜光などの性能を強化すればある程度補えるし、設備機器の入れ替えだって問題なくできる。間取りなどの工夫を施せば、いま流行のパッシブデザイン(自然の力を活かした暮らし)も取り入れられよう。三井不動産リフォームの「スマートリフォーム」は、まさにこうした考えがベースになっている。
 「“スマート”というキーワードは、新築というイメージがある。しかし、リフォームによっても既存の性能を上げることは可能であるということをアピールしていきたい」――同社同社営業推進部長の宮崎晃一氏も、こう意気込む。

住まいの基本性能を上げ、自然の力で快適性高める

 同社の提案するスマートリフォームは、従来からの商品である定額制リフォームパッケージに、スマートハウスを構成する商品群を追加。通風・採光・断熱の見直しで住まいの快適さを高める「パッシブデザイン」、省エネ・創エネ・築エネ設備の導入「アクティブデザイン」、エネルギーの見える化「スマートマネジメント」の3つを基本としたリフォームを提案する。

 同社は、この考え方の基本となる「パッシブデザインによるサステナブルリフォーム計画」で、国土交通省の「平成24年度(第1回)住宅・建築物省CO2先導事業」の採択を受けており、同計画を採用した個人のマンション専有部・木造戸建住宅のリフォーム工事は、最大300万円の補助金交付対象となる。これを追い風に、「既存住宅のスマートハウス化」の提案を加速すべく、スマートリフォームのコンセプトをよりわかりやすくユーザーに説明するためのモデルルームを、都内のマンションの1室を使って作り上げた。

 モデルルームは、JR山手線「代々木」駅にほど近い、築29年のマンションの1室で、専有面積は74平方メートル。もとの間取りは2LDKだったが、一度フルスケルトン化したうえで、水回りと収納類を拡充。DINKSやシニア層を意識した1LDKへと改装している。水勾配を取ることで、水回りの位置も移動しているのが特徴だ。内部で使用している設備機器は、三井不動産レジデンシャルの新築マンションと同等のもので、グレード感は申し分ない。

 一方、「スマートハウス」を構成する要素については、モデルルームとして「これでもか」というほど盛り込まれている。
 まず、特徴的なのが「間取り」。住戸の中央部に再配置されたベッドルームをはじめ、キッチンとパウダールームを仕切る扉は引き戸になっており、これらを開け放ち、バルコニー側と玄関側や側面の窓を開け放つことで、住戸内を風が通り抜けるようにしている。それ以外にも、至る所に風を抜くための小窓類や、光を採るためのスリットガラスなどが設けられている。間取りの工夫は、それ自体コストがかからず、効率もいい。

 断熱性能を高めるため、6面断熱を可能な限り強化。モデルルームの一部の壁はくり抜かれ、さまざまな断熱方法がユーザーの目に見えるようにしている。もっとも熱を逃がすサッシュについては、原則LOW-E複層ガラスに交換している。「マンションのサッシュは管理組合の許可がないと交換できませんが、ここは許可がいただけたため、交換しています。ただ、交換が難しい場合は、カバーサッシュなどで対応することになります」(同氏)。サッシュについては、あえて元のものを残したり、LOW-Eではないペアガラスを設置するなどして、その効果を比較検討できるようにしている。

 画期的なのは、バルコニーに面した「サンルーム」だ。サッシュが交換できない場合を想定したもので、サッシュの内側約1.8畳をインナーサッシュで囲み、そこに蓄熱タイルを敷き詰めたもの。遮熱は、内側のサッシュで行ない、植栽や部屋干しスペースとして提案した。また、玄関と廊下の間にも、「セカンドドア」を設置し、気密性の低い玄関からの冷気をシャットアウトしている。
 もちろん、住戸内のエネルギー使用をモニターするためのHEMSを設置しているが「省エネ率がどれだけ向上したかも重要ですが、それ以上に通風や採光、生活動線が変わったことで、どれだけ快適になったかを感じてほしい」(同氏)としている。

スマート化のコストは300万円。補助金の対象にも

 では、このリフォームがいったいどのくらいでできるのか?

 ベースになっている定額制リフォームの施工価格は、1平方メートルあたり10万5,000円。これに三井不動産レジデンシャル新築マンションと同等の設備機器の採用コスト、そしてスマートハウス化のための設備機器類のコスト約300万円が上乗せされ、約1,200万円とのことだった。

 既存住宅にここまでのコストをかけて「スマート化」することの是非は問わない。だが、「モデルルームほどのコストをかけなくても、補助金対象となるスマートハウスリフォームはできる」(同氏)とのことだから、同社の提案は、十分実用的であろう。

 少なくとも、「立地はいいが、建物と快適性が」と中古住宅をあきらめていたユーザーにとって、新築マンション並みの設備機器と快適性が手に入るスケルトンリフォームは朗報だ。同社は、このモデルルームでユーザーニーズを得ながら、より効率的なスマートリフォームの提案を探っていく方針で、それによりさらなるコストダウンも望める。

 「中古住宅のリフォームも、断熱、ペアガラス、省エネ診断は当たり前にしたい」(同氏)。単なる化粧直しから一歩進んだスケルトンリフォームから、さらに進んだ「スマートリフォーム」の時代が、到来したようだ。(J)


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