人や商店など、地域資源を生かした沿線活性化策
人口減少や少子高齢化の影響で、私鉄各社は沿線に人を呼び込むため、沿線の活性化に力を入れている。不動産業に関連する部分も大きいことから、当コーナーでも度々取り上げてきた。 今回は、東京急行電鉄(株)が2017年10月に開始した「東急池上線活性化プロジェクト」について取り上げたい。田園都市線や東横線と比較して同沿線の少子高齢化が進んでいることや認知度が低いことなどを背景に、18年同線開通90周年を迎えることから、大々的に取り組んでいる。
都心でありながら懐かしさを感じる沿線
同線は、東京都の城南地区、五反田駅(品川区)と蒲田駅(大田区)を結ぶ、全長10.9km、全15駅の路線。同沿線は、都心にありながら昔の面影を残し、池上本門寺や洗足池をはじめさまざまな名所、古くからの活気ある商店街など、暮らしやすいまち並みが形成されている。一方で、歴史あるまちであるからこそ、沿線における住民の高齢化や建物の老朽化、空き家率の上昇などの課題も出ている。同線の場合、利用者の大半は沿線の住民ということもあり、このままではまちの衰退によって、利用客減にもつながっていくと同社は危機感を持っている。
そこで、17年3月には、大手電鉄会社では初となる、「リノベーションスクール@東急池上線」を同線「池上」駅周辺エリアを舞台に開催。全国から参加者を募集し、温浴施設の宴会場、寺院の倉庫・駐車場、公園、空き店舗の再生プランを考えた。
同イベントの最終日には、物件やその周辺環境を生かし、宴会場をまちの劇場として、倉庫や駐車場をカフェやシェアオフィス、レンタルスペースからなる「コミュニティテラス」として活用する、といった提案が生まれ、池上駅周辺エリアや沿線の持つポテンシャルが再認識されるきっかけとなった。
地域資源を「生活名所」としてPR
「東急池上線活性化プロジェクト」は、リノベスクール同様、新たに何かを建てる、つくるといったものではなく、あくまでも既存のものを活用して進めていくことが特徴だ。
同社では、沿線の商店街や豊かな自然、歴史・名所史跡を観光地化して集客するという方法を選んだ。具体的には、「長原」駅の「wagashi asobi」、「戸越銀座」駅の「焼鳥エビス」、「荏原中延」駅の「街のお助け隊コンセルジュ」、「石川台」駅の「雪見坂」、「久が原」駅の「山口文象自邸」など15ヵ所を「生活名所」と設定。品川区・大田区などの行政機関、地元商店街や沿線住民、企業と連携し、観光資源としてPRを進め、「訪れてもらえる沿線づくりを取り組む」(同社取締役社長・野本弘文氏)方針だ。
そのキックオフイベントとして、沿線の10.9kmにちなんだ10月9日、池上線全駅で乗り降り自由な「1日フリー乗車券」を配布。1日無料乗車を実施するのは、首都圏のJR・私鉄において初の試み。フリー乗車券の配布枚数は約21万枚にのぼった。通常1日の利用客数が平均で12万人程度というから、1日で1.75倍の乗客が集まったことになる。同日、沿線の生活名所を巡るモニターツアーも複数テーマで開催。総勢1,000人以上の応募があり、高い反響を得た。これを受け12月上旬には第2弾を計画。「文豪気分で 粋な池上線遊び」「水景、谷景、生活景 歩いて座って学ぶ旅」など、11コースを設定している。こういった活動を通じて、徐々に池上線沿線の魅力が、外部に伝わることが期待できる。
地域にあるモノを財産と考える発想
ここ数年、インバウンド需要の高まりもあって、さまざまな観光資源が見直されている。遊休不動産の再生で宿泊施設をつくり、チェックインや飲食は近隣のカフェで、入浴は銭湯で、といった、地域資源を有効活用した観光まちづくりの動きも生まれている。改正不動産特定共同事業法による小規模不動産特定共同事業のスタートなどによって、不動産会社の参入チャンスも増えた。「その地域にあるモノ・ヒトを財産としてとらえてプロデュースする」。そういった提案ができれば、地域の不動産会社が活躍できる機会が増えるのではないだろうか。(umi)
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