記者の目 / その他

2017/12/18

全長10.9kmのローカル線が変わる

人や商店など、地域資源を生かした沿線活性化策

 人口減少や少子高齢化の影響で、私鉄各社は沿線に人を呼び込むため、沿線の活性化に力を入れている。不動産業に関連する部分も大きいことから、当コーナーでも度々取り上げてきた。 今回は、東京急行電鉄(株)が2017年10月に開始した「東急池上線活性化プロジェクト」について取り上げたい。田園都市線や東横線と比較して同沿線の少子高齢化が進んでいることや認知度が低いことなどを背景に、18年同線開通90周年を迎えることから、大々的に取り組んでいる。

来年開通90周年を迎える東急池上線

都心でありながら懐かしさを感じる沿線

 同線は、東京都の城南地区、五反田駅(品川区)と蒲田駅(大田区)を結ぶ、全長10.9km、全15駅の路線。同沿線は、都心にありながら昔の面影を残し、池上本門寺や洗足池をはじめさまざまな名所、古くからの活気ある商店街など、暮らしやすいまち並みが形成されている。一方で、歴史あるまちであるからこそ、沿線における住民の高齢化や建物の老朽化、空き家率の上昇などの課題も出ている。同線の場合、利用者の大半は沿線の住民ということもあり、このままではまちの衰退によって、利用客減にもつながっていくと同社は危機感を持っている。

池上本門寺
洗足池

 そこで、17年3月には、大手電鉄会社では初となる、「リノベーションスクール@東急池上線」を同線「池上」駅周辺エリアを舞台に開催。全国から参加者を募集し、温浴施設の宴会場、寺院の倉庫・駐車場、公園、空き店舗の再生プランを考えた。

 同イベントの最終日には、物件やその周辺環境を生かし、宴会場をまちの劇場として、倉庫や駐車場をカフェやシェアオフィス、レンタルスペースからなる「コミュニティテラス」として活用する、といった提案が生まれ、池上駅周辺エリアや沿線の持つポテンシャルが再認識されるきっかけとなった。

リノベスクールの舞台になった池上駅周辺
全国から約30人が集まり、遊休不動産の活用方法を検討した

地域資源を「生活名所」としてPR

 「東急池上線活性化プロジェクト」は、リノベスクール同様、新たに何かを建てる、つくるといったものではなく、あくまでも既存のものを活用して進めていくことが特徴だ。

 同社では、沿線の商店街や豊かな自然、歴史・名所史跡を観光地化して集客するという方法を選んだ。具体的には、「長原」駅の「wagashi asobi」、「戸越銀座」駅の「焼鳥エビス」、「荏原中延」駅の「街のお助け隊コンセルジュ」、「石川台」駅の「雪見坂」、「久が原」駅の「山口文象自邸」など15ヵ所を「生活名所」と設定。品川区・大田区などの行政機関、地元商店街や沿線住民、企業と連携し、観光資源としてPRを進め、「訪れてもらえる沿線づくりを取り組む」(同社取締役社長・野本弘文氏)方針だ。

地元出身のご夫婦で営む、新進気鋭の和菓子屋「wagashi asobi」
戸越銀座商店街内にある老舗の焼き鳥屋「焼鳥エビス」

 そのキックオフイベントとして、沿線の10.9kmにちなんだ10月9日、池上線全駅で乗り降り自由な「1日フリー乗車券」を配布。1日無料乗車を実施するのは、首都圏のJR・私鉄において初の試み。フリー乗車券の配布枚数は約21万枚にのぼった。通常1日の利用客数が平均で12万人程度というから、1日で1.75倍の乗客が集まったことになる。同日、沿線の生活名所を巡るモニターツアーも複数テーマで開催。総勢1,000人以上の応募があり、高い反響を得た。これを受け12月上旬には第2弾を計画。「文豪気分で 粋な池上線遊び」「水景、谷景、生活景 歩いて座って学ぶ旅」など、11コースを設定している。こういった活動を通じて、徐々に池上線沿線の魅力が、外部に伝わることが期待できる。

キックオフイベントのオープニングセレモニーでは「生活名所」のオーナー等が一堂に会した<写真提供:東京急行電鉄(株)>
1日フリー乗車券を利用した客が押し寄せた

地域にあるモノを財産と考える発想

 ここ数年、インバウンド需要の高まりもあって、さまざまな観光資源が見直されている。遊休不動産の再生で宿泊施設をつくり、チェックインや飲食は近隣のカフェで、入浴は銭湯で、といった、地域資源を有効活用した観光まちづくりの動きも生まれている。改正不動産特定共同事業法による小規模不動産特定共同事業のスタートなどによって、不動産会社の参入チャンスも増えた。「その地域にあるモノ・ヒトを財産としてとらえてプロデュースする」。そういった提案ができれば、地域の不動産会社が活躍できる機会が増えるのではないだろうか。(umi)

【関連ニュース】
池上線沿線活性化PJを本格始動/東急電鉄(2017/9/7)

記事のキーワード 一覧

この記事の用語

リノベーション

新築を除く住宅の増築、改装・改修、模様替え、設備の取替えや新設などの改造工事を総称してリノベーションという。リフォーム、リモデルなどとも。既存建物の耐震補強工事もリノベーションの一種である。

続きはR.E.wordsへ

新着ムック本のご紹介

防災・復興ハンドブック<改訂版>

不動産管理会社・
賃貸住宅オーナーのための
防災・復興ハンドブック
<改訂版>

自然災害に備えて!手元に常備しておきたい一冊です。 540円(税込・送料無料)

ご購入はこちら
NEW

?~\~H?~H~J?~M?~K~U?~T??~A?~@~Z

月刊不動産流通 月刊誌 2018年7月号 日々の実務に役立つ情報満載です。
地域の歴史やニーズに合わせ、地場業者が遊休不動産を再生!
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムック防災・復興ハンドブック<改訂版>

自然災害に備えて!手元に常備しておきたい一冊

価格: 500円(外税)

平成30年度 宅建「登録講習」アットホームスタディ

宅建本試験で5問免除!

価格: 1万7,000円

平成30年度宅地建物取引士資格試験合格コース「宅建合格総合講座」アットホームスタディ

試験の出題範囲をしっかり押さえられる!

価格: 6万8,040円

お知らせ

2018/6/6

「記者の目」更新しました

ここまできたIoT住宅」を更新しました。

今回はIoT技術を用いた住宅を取材しました。AIが住人の生活パターンを記憶して生活をサポートするなど…まるで魔法のような生活が現実となっているようです!