記者の目 / 開発・分譲

2020/1/7

あえて“2割”が欲しがるマンション

 1980年代~2000年代序盤に生まれたミレニアル世代。今後の消費の中心となることから、不動産業界でも同世代向け住宅やホテル開発が盛んだ。デジタルネイティブの彼らは、それ以前の世代と比べ大きく価値観が変化しており、商品開発には「固定概念を捨てること」が求められている。そこで今回、あえて少数意見に着目して開発したマンションプランについて紹介しよう。

◆世の中の2割に響く“いびつ”なプラン

 日鉄興和不動産(株)は10月、ミレニアル世代の単身女性をターゲットとした新しい居住空間コンセプト「iBe2」(イビー・スクエア)を発表した。固定概念に捉われずこれまでにないものをつくることを目標に、“世の中の2割がハマる極端な商品”として開発。コンセプト名称の「iBe2」は“偏った”という意味合いを込め「いびつ」にもかけているという。
 コンセプトは全3モデル。小規模事業者や個人のクラフト作家に向けた「worcube(ワーキューブ)」、生活の中心にスポーツがある人に向けた「sportio(スポルティオ)」、都会生活のストレスから解放され“自分に帰る場”としての「ambientum(アンビエンタム)」を提案している。

 「ワーキューブ」は、自宅に仕事スペースを設けるのではなく、仕事場に自宅があるという発想からつくったプラン。「スポルティオ」は、“部室”のイメージで、玄関先に汚れ物の洗濯や片付けができるスポーツユーティリティスペースを設け、そのままシャワーが浴びられるようバスルームも隣接させたプランだ。それぞれに興味深いが、ワークスペースやミニ書斎、機能性の高い土間といった、すでにあるこれらコンセプトに“近い提案”を拡張させた印象を受けることもあり、ある程度は想像の範囲ともいえる。

仕事場に自宅があるという発想からつくった「ワーキューブ」
“部室”のイメージで、玄関先に汚れ物の洗濯や片付けができるスポーツユーティリティスペースを設けた「スポルティオ」

 一方、「アンビエンタム」は独自路線といえよう。ハード面から自宅を“癒される場所”に変え、ポジティブな引きこもり=巣ごもり感覚を演出したというプランだ。例えば、心理的圧迫を軽減するため、室内の「角」に着目し、極力角を感じさせない仕様を採用。マンションではある程度避けようのない梁や柱の直線部分を、容積を犠牲にしてでも内装資材で覆って丸みを持たせた。
 また、都市部で外の景色が見えない住居の中でも五感で自然のリズムが感じられるよう、さまざまな仕様を取り入れている。青空の下で太陽の光を浴びている感覚になれるよう人口天窓を天井に設置。緑を身近に感じられるよう観葉植物を天井からぶら下げ、一部壁面も緑化。壁面の塗装や床材には息苦しさを感じさせない天然素材を用いている。

青空の下で太陽の光を浴びている感覚になれるよう人口天窓を天井に設置するなど、五感で自然を感じられる仕様を導入した「アンビエンタム」
画像では分かりにくいが、照明から天井につながる部分に丸みをもたせている

◆アンバランスな人のニーズに対応

 これらプランのベースとなったアイディアを開発したのは、同社が17年12月にミレニアル世代に特化した価値観やライフスタイルを研究することを目的に立ち上げた「素敵なうさぎライフ研究所」だ。
 「うさぎライフ」とは、昭和世代にはなじみのある“狭くて小さい”住宅を表す「うさぎ小屋」にちなんだ名称だが、(モノを)持たない・小さい暮らしも推奨される今、広い部屋、大きい家が幸せという価値観は必ずしも通用しない。今の技術、今の感覚でならむしろ素敵なうさぎ小屋がつくれるのではないか、そういう発想からスタートしているという。

 では、どういううさぎ小屋をつくればいいのか。

 ミレニアル世代の金銭感覚は、「お金をかけるべきものにはかける、そうでないものにはお金をかけない」という傾向が強く、「お金を使うこと=消費ではなく投資」という位置づけ。お金をかけるべきものの答えの一つが「自分にとって心地いいこと」「自分の自己実現に役に立つこと」であることから、当然、家が“お金をかけるべきもの”になるためには、心地よく自分らしさを表現できるツールであることが求められる。

 調査で見えてきたこうした同世代像からは、不特定多数に向けて設計された平均値の家にはあまり反応しないことが予測でき、少数をターゲットにした極端な商品の開発を目指すこととなった。
 同研究所主任研究員・吉田 透氏によれば、購入者イメージは、“自分はちょっと人とは違うと思っている、どこかアンバランスな女性”。「今は世界的な流れからみても多様化の時代で、そうしたアンバランスな人のアンバランスなニーズに対応する商品開発が求められていることを強く実感しました。メディアの発達により、そうしたアンバランスなものを見つけられる手段もある。一方で、産業界はまだ十分この状況を受け止めきれていない。そこに十分新たな商品開発の可能性があると考えました」(同氏)。

◆特長的なライフスタイルからアイディア出し

 極端な商品を開発する手法として、特長的なライフスタイルを持つ人の自宅に訪問して分析する「エスノグラフィー」(行動観察から価値観を分析する)調査を取り入れた。「エスノグラフィー」は実際の暮らしを見ながら分析するため、居住者本人が意識していないニーズが洗い出せる可能性が高い。そこから導いた調査結果をもとに、ミレニアル世代も参加するワークショップで同世代の住に関するニーズをできるだけあぶり出し、3プランが実現した。

 これらプランは、2020年から販売開始予定のコンパクト分譲マンションのオプションメニューとして導入する。現在、コンセプトを体感できるモデルルームを月島で公開中だ。

 なお、コンセプト自体は当初10案つくっており、今後は残りの「音楽」、「マンガ」「ペット」「料理(キッチン)」などをテーマにした提案も考えていく。
 同時に、例えば「スポルティオ」で、日常的にスポーツする人向けにタオルのサプライサービスを導入するといった、既存3プランでのグレードアップも検討していくという。

◆◆◆◆
 モデルルーム内覧会で実現できなかったアイディアを聞いたところ、次から次へと面白そうなアイディアが出てきた。例えば「ワーキューブ」では、からくり屋敷のように、パーテーションの仕切りを回転させて仕事と住居の空間を切り替えるといったアイディアが、「アンビエンタム」でも風が感じられるよう、人工的にそよかぜが吹く窓を設置するといったアイディアが出たそうだ。
 10案からもれたものでは、安心して寝るために、殺虫剤メーカーとタイアップした絶対ゴキブリが出ない部屋「Gバスター」(ボタン一発でゴキブリを退治する人がかけつけるサービス付き)や、お祓い済みの「絶対幽霊の出ない部屋」などが出たそうだ。少数をターゲットにするなら、案外これらの案もいけそうな気がしないでもない。
 どこまで実現できるのか、技術的な問題や採算性などさまざまな制限があるとは思うが、この路線を突きつめて、より斬新な提案が出てくることを期待すると共に、ミレニアル世代の反響は実際にどうなのか注目したい。(meo)

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お知らせ

2020/2/25

「記者の目」更新しました!

分譲マンションにも『働き方改革』の波」配信しました。
近年、「ワークスペース」をウリにした新築マンションが増えてきているのをご存じだろうか。その背景には、共働き世帯の増加や、テレワーク、副業など多様な働き方の定着がある。今回、郊外型・都市型マンションそれぞれで、ワークスペースを設けたマンションを紹介。その工夫と特徴をレポートする。