記者の目 / 仲介・管理

2020/6/29

フルリモートでオンライン仲介

 今回取材したのはITを活用し、スタッフがフルリモートで働くオンライン接客型の不動産会社だ。IT化が遅れていた不動産業界では、以前はこうしたスタイルとは相容れない雰囲気もあったが、このコロナ禍で一気にオンライン化、リモートワークの導入が進み、ユーザー側の許容も拡大するなど、状況は大きく変わった。働き方改革という後押しもある。今後はこうした仲介店舗が珍しくなくなる時代が来るのかもしれない。

◆都心の忙しい層に”来店不要””オンライン“を前面に

 (株)Kant(カント/東京都板橋区、代表取締役:尾島康仁氏)は現在、正社員を含め約20名の仲介スタッフがフルリモート体制で、オンラインによる賃貸仲介を中心に事業を展開している。同社は、ITを活用した保育園運営事業やホテル運営代行事業などを手掛けるIT企業(有)mode-Duo(モード・デュオ/東京都渋谷区、代表取締役:尾島康仁氏)のグループ会社だ。事業推進に伴い不動産関連の知識を深めていった代表の尾島氏は、IT化が遅れている不動産業に新規事業の可能性を見出し、本格的な参入を検討。自ら宅地建物取引士資格を取得し、2018年12月にKantを立ち上げた。

 設立後、まず1年間で、mode-Duoのホテルや保育園運営事業に関連する不動産事業を軌道に乗せ、19年の秋口から賃貸仲介事業に注力。ITという自社の強みを生かすために、都心で働く時間のない経営者層やITリテラシーの高い層をターゲットに、少数精鋭の不動産のプロが、来店不要でオンラインで接客するスタイルを前面に押し出していく方針とした。

 当初の集客はポータルサイトを利用し、ユーザーから問い合わせがあった際は、ユーザーの希望に合わせてZoomなどのweb会議システムもしくはメール・LINE等でやりとりし、物件内覧については、同行もしくはスタッフが現地から中継するオンラインライブ内見にも対応。契約についてはIT重説や郵送で対応することに。“来店不要”“オンライン”をアピールすることで反響を少しずつ伸ばし、20年1~3月の繁忙期は問い合わせが月に約100件、成約実績も平均約20件得たという。

◆「初回相談はZoomに」、コロナ後オンライン仲介機能を拡充

 ところが4月に入り、多くの仲介会社同様、同社もコロナの影響を大きく受けた。外出自粛の影響で物件探しを控えた人が増えたのか、ポータルサイトからの反響が激減してしまったのだ。
 「もともと “来店不要”で当社を選んでくださるお客さまが多かったようです。業界の動きとしては“オンライン”は追い風になりつつあるのに、オンラインでの物件探しを求めるユーザーに届いていない。このミスマッチを早急に解消する必要がありました」(同社広報・青柳 真紗美氏)。

 その一方で、反響数は減ったものの地方在住で都内への引っ越しを予定している人など、オンラインを積極的に希望するユーザーからの反響が少しずつ目立ち始めた。「当初は都心の忙しい人をターゲットに考えていたのですが、想定していなかったニーズの可能性が見えてきました。このチャンスを生かすために、 “オンライン仲介”を当社の特長としてより積極的に打ち出すことに」(同氏)。
 初回相談は基本的にZoomで行なう前提とし、サイト上のカレンダーから簡単にZoom相談を予約できるようにするなど、自社サイトのオンライン仲介機能を拡充。システムを一新し、5月にリニューアルオープンした。

 「オープンして日が浅いこともあり、数はまだ多くはありませんが、“Zoomで相談できるような不動産会社を探してました”といった確度の高いお客さまが増えつつあります」(同氏)。
 コロナ以前は初回相談でWebカメラを通じてやりとりするのを好まないユーザーも多かったが、今や心理的なハードルがだいぶ下がっていることが実感できるという。内見も、スタッフが現地から中継するライブ内見だけで成約するケースが増えている。
 「今後は、コロナ後につなげていくために、オンラインのメリットをきちんと訴求していくとともに、地方から出てくる学生さんをターゲットに、初めての部屋探しでもオンラインで探しやすい環境を整えるなど、よい幅広い層が使いやすい機能を検討していく予定です」(同氏)。

オンライン打ち合わせ画面。Zoom画面上の路線図を見ながら希望エリアをヒアリング

◆スタッフの6割は女性、経験3年以上のプロが中心

 mode-Duoでは、世間で働き方改革が叫ばれるようになる以前からほとんどの従業員がフルリモートに近いスタイルで働いていた実績があり、Kantでも同様にフルリモート体制を採用。営業時間を10時から24時までと幅を持たせ、その時間内でライフスタイルに合わせて就労できる体制を整備した。
 「就労の自由度を高めることで、仕事後に部屋探しをしたい忙しいお客さまの要望に迅速に応えることができる夜間対応を実現、また、家庭の事情や育児などで退職せざるを得なかったスタッフでも技能を生かして働ける環境を提供することができます」(同社仲介事業部長・細野 亜希子氏)

同社仲介事業部長・細野 亜希子氏

 実際、同社に応募してくる人の7割は、リモートや時短という条件に惹かれた女性が中心だという。現在のスタッフの6割は女性で、平均年齢は30歳代半ば。基本的には本人の希望でシフトを組んでいるが、夜間希望はどうしても男性の方が多くなるため、採用時はそうしたバランスも考慮している。フルリモートという体制から新人を育てていくのが難しく、また“少数精鋭のプロ”を謳う意図もあり、採用は3年以上を目安に経験者限定。そのため、スタッフの約半数が宅地建物取引士資格を保有しており、その中にはIT重説だけを担当する主婦もいる。

 オンラインでの業務については、入社後、最初にツールの使い方や同社規定のセキュリティ・ガイドラインに則った個人情報の扱い方などを学ぶ研修期間を設けており、経験者であればほどなく基本的な不動産業務をこなせるようになっているという。スタッフは日々、業務報告という形で、一日のスケジュールや売上額などを共有。業務の伝達、意見交換などのコミュニケーションは、チャットツールを活用し、週1回のビデオミーティングを通じて、成果や効果のあった手法などの情報を共有したり、業務の相談ができる機会も設けている。
 「お客さまへの対応はさまざまなので、今後は都度、誰かにアドバイスや意見を求められる仕組みや環境も整えていければと考えています」(同氏)。

 将来的には、「いろいろなスタイルで就労でき、都内の高級賃貸、ファミリー向け、特定のエリアなど個人の得意分野を伸ばして業務展開できる会社を目指している」(代表・尾島氏)という。実際、2月に売買の実績のあるスタッフが入社したことから、売買仲介の展開も開始した。「正社員に限らず雇用形態もバリエーションを用意し、アメリカのエージェント制のように、さまざまな能力を持った不動産パーソンが働ける場をITの力で作っていきたいと考えています」(同氏)。

◆◆◆◆◆
 今回、当然ながらZoomでの取材だったが、スタートアップを取材しているかのようなフットワークの軽さが印象に残った。オンラインの導入が一気に進んだとはいえ、フルリモートとなるとまた別の話。課題は多いかもしれないが、今後の同社の展開に期待すると共に、コロナを機にこうした新しい取り組みが他でも見られるようになって、不動産業界の雰囲気も変わってくるのかもしれないと感じた。(meo)

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