記者の目 / 仲介・管理

2020/7/8

人とまちをつなぐ商店街の「寄合所」

 国際文化観光都市として知られる岐阜県高山市。年間観光入込客数は400万人にのぼる。しかし、観光を支える要素の1つである“古いまち並み”に隣接する中心市街地商店街では、空き店舗化が顕在している。この問題は、多くの商店主が認識しているものの、有効な解決策を見出すまでに至っていなかった。空き店舗問題が深刻化する前に、解決策を見出したいと立ち上がったのが、地元の不動産会社だという。

人間関係や地域を“耕す”という意味を込めて名付けられた「寄合所 耕」

◆地元の高校生とともに空き店舗の実態を調査

 行動を起こしたのは、同市で売買・賃貸仲介、管理を手掛けるすみれリビング(株)(岐阜県高山市、代表取締役社長:井上 正氏)。2018年、同社が事業主体として応募した、国土交通省「商店街空き店舗対策の担い手強化・連携事業」に採択されたことを受け、岐阜県立飛騨高山高等学校商業研究部の生徒と連携し、高山市商店街振興組合連合会協力のもと「商店街空き店舗・事業承継実態調査」を実施したのがきっかけだった。

 「もともと生徒さんたちは、地域の特産物を活用した商品開発と商店街における販売活動、商店街行事への協力などを中心に活動していました。そこで、商店街内にある喫茶店をインキュベーション施設とし、開発商品の主力である各種アイスクリームを販売しながら地元顧客や観光客との交流を図り、商店街における空き店舗・事業承継実態調査の業務を担ってもらうことに。活動を通して、地域の将来を担う彼女たちに商店街への理解を深めてもらいたいという思いもありました」(井上氏)。

 高校生が直接足を運び、9つの商店街・154店にアンケートを配布。商店主とのコミュニケーションをとりながら配布・回収を行なったことにより、140店からアンケートを回収することができた(回収率90.9%)。

商店街の店舗でアイスクリームの販売をしながら、商店主へのアンケートを行なった高校生たち

アンケートからは、
・50~70歳代以上の商店主が全体の約80%を占めており、若い世代に継承することの重要性が浮き彫りとなっている
・商店主の世代が高まるほど、変化への順応が疎かになり、ネガティブさが顕著になっているのではないか
・観光客の動線上にあるかないかによって、商店街間の温度差が出ており、容易に解決できない構造的要因として長らく有効な解決策を見出せていなかった
などの問題が明らかとなった。

 「商店主の高齢化や後継者不在による空き店舗化のリスクは避けられない。この危機感を商店街全域で共有し、今後の課題として、若い世代の出店について検討しなくてはならないと感じました」(同氏)。

◆人間関係、地域を“耕す”「寄合所 耕」オープン

 とはいえ、商店街でいきなり商売を始めるというのはハードルが高い。実際、出店希望者からアイディアは出るのだが、なかなかアクションにつながらなかった。

 そこで2019年12月、約10坪の飲食店だった空き店舗を同社が借り、「お試し店舗」として利用できるレンタルスペース「寄合所 耕(こう)」をオープンした。

 「人間関係や地域を“耕す”という意味を込めて、“耕”と名付けました。実は以前から、仕事のお付き合いだけでなく、地域の方たちとゆっくりお会いできる、ふらっと来て話ができる場所をつくれないかと考えていたんです。そして、せっかくお越しいただけるのなら、地元の食材を使った料理でもてなしたい。そんな思いから、私自身が食堂の料理人として腕をふるう“すみれまちかど食堂”を始めました」(同氏)。

「すみれまちかど食堂」では、井上社長自らが腕をふるって定食などを提供する

 手始めに、今年2月1日(土)の6時30分より13時までの間、「卵かけご飯定食」と「漬物ステーキ定食」の2種類をそれぞれ15食限定・500円で提供したところ、「慣れないことであっぷあっぷしながらの営業でしたが、(値段が高めの)観光客価格で普段は商店街の飲食店をなかなか利用できなかった方などに特に喜んでいただけました」(同氏)。

 その後も、忙しい本業の合間に時間をつくり、日時限定で食堂をオープン。地元の方を中心に徐々にファンが増えてきているという。

◆若者が共感。県外からのUターンも

 そうした中、県外の大学に通う井上氏の長女が後期試験を終えて実家に戻ってきた際、父親の運営する「寄合所 耕」に興味を持った。

 「大学を卒業しても地元には帰ってこない、地方都市には自分たちが活躍する場所がないと言っていた長女でしたが、高校生と連携して行なった事業や食堂の取り組みに共感し、“自分たちにもできることがあるかもしれない”と思ったようです」(同氏)。

 同社の耕・企画担当社員と相談しながら、長女が中心となり一緒に働いてくれるスタッフを募集。飛騨高山生まれで、現在は県外に在籍している10~20歳代の大学生・社会人が集まり、3月14日、4人での「café Bouquet」オープンにこぎつけた。

「café Bouquet」を運営しているのは、10~20歳代の若い女性スタッフ

 最初はカフェを運営していたが、4月18日、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、緊急事態宣言が発令された。5月6日までカフェは休業することとしたが、その間はテイクアウトに力を注ぐことに。自粛期間中に、地元でつくられたパン、野菜、フルーツなどの食材を主役に、33種類の手づくりサンドウィッチやカレーをはじめとするメニューを開発し、5月7日から気持ちも新たに営業を再開している。

色とりどりのサンドウィッチの数々。インスタ映えすると人気

 休業期間中も、Facebookやチラシ、Instagramなどで情報発信を続けたことにより、「コロナ期間中もテイクアウトを続けてくれて助かった」「(サンドウィッチが)インスタ映えしていい」といった反響が多く、リピーター客も増えつつあるという。

 「コロナを経験したことで、地元生産者と今まで以上につながりを深めたりと、地域ならではの助け合いができました。地元ではできることがないと思っていた若者たちですが、“アクションが起こせることを知ってもらいたい”と、地域や人、まちとのつながりの大切さなどを、中・高校生にインターンシップを実施して伝えたいと考えているようです」(同氏)。

 現在は、彼女たちが中心となって、飛騨高山高等学校商業研究部との商品開発プロジェクトや、農業連携計画も進行中。高校生にメニューや告知・販売方法をプレゼンしてもらうことを通じ、地域での自分たちの可能性を見出し、飛騨高山で活躍できる若者を1人でも多く生み出したい考えだという。

◆◆◆◆◆

 商店主の高齢化、後継者不足による空き店舗化は、全国の商店街で深刻な問題になりつつある。その問題を解決できるのは、若い世代の力によるところが大きいだろう。今回、そのきっかけをつくったのは地元不動産会社。これからの不動産会社には、人と地域をつなぐ役割を担っていく必要があるのかもしれない。
 「地元に希望が持てない」「活躍できる場がないから都会へ行くしかない」と諦めていた若者が、今やまちの再生・活性化の中心となって活動している。なんとも夢のある話だと感じた。(I)

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