記者の目 / リフォーム

2020/11/10

1棟丸ごと時間貸しスペースビルに再生

コロナ禍で空きビルを貸し会議室・コワーキングスペースへ

 コロナ禍で、時間貸しのテレワークスペースやサテライトオフィス(会議室)等の需要が東京を中心に高まっている。その動きは徐々に東京の郊外や地方都市へも広がり出しており、大手企業はさまざまな商品の供給を加速している。今回は、その需要の高まりに地場不動産会社としていち早く呼応し、仙台市中心にある老朽ビルを1棟丸ごと時間貸しスペースのビルとして再生した先駆的な事例を紹介したい。

◆老朽化により建て替えを検討していたビルを有効活用

改装後の「仙台協立第1ビル」外観
1棟すべて時間貸しスペースに改装(写真は1階部分)

 今回紹介する物件は、仙台市内でビル仲介・管理を手掛ける日本商事(株)(仙台市青葉区、代表取締役社長:氏家正裕氏)が手掛けた。同社関連会社が市内で保有する仙台市のオフィス街にある仙台地下鉄南北線「広瀬通」駅より徒歩7分に立地する同ビルは、1966年築、鉄筋コンクリート造地上6階地下1階建て、延床面積2,100平方メートルのオフィスビル「仙台協立第1ビル」(仙台市青葉区)を再生した。老朽化が進んでいたことから、同社は数年前より建て替えを検討。テナントとの契約も、普通借家契約から定期借家契約に切り替え、別ビルへの移転の斡旋などを進めていた。「しかし、コロナ禍におけるテレワークスペースやウェブ会議に対応した時間貸し会議室等の需要増加を受け、今空いている場を有効活用することで、お客さまのニーズに応えられないかと改修に踏み切りました」(同社グループ統合戦略室室長・岡﨑 梓氏)。

 空いていた区画をコワーキングスペース(1階、155.4平方メートル、レンタルスペースとしても貸し出している)、貸し会議室(2~5階、15~53平方メートル)にそれぞれ改修。一般的な事務所区画はあえてなくした(一部フロアには従前のテナントがそのまま入居している)。改修費用は約2,500万円。

◆ウェブ会議、商談用など、部屋ごとにテーマを

重要な商談を想定した部屋
セミナー開催を想定した部屋

 1階のコワーキングスペースは、有人の受け付けも併設し、ドロップインでの利用も可能としているほか、カフェの機能も持たせることで、地域の人が気楽に立ち寄れるようにしている。

 貸し会議室は、部屋ごとにテーマを設定した点が特徴。「ウェブ会議」「セミナーの開催」「重要な打ち合わせ」など異なる利用シーンを想定し、それに合わせた内装や什器、設備を採用している。

 例えば、ウェブ会議向けの部屋では、大型スクリーンと専用カメラ、マイクを標準で設置。重要な商談向けの部屋では、革張りのソファなどを導入しシックな内装で仕上げるなど、重厚感ある雰囲気に仕上げた。定員も2~30人と幅広い広さの部屋を用意した。

◆“歩道”も活用しコロナ禍での利便性をアップ

1階のコワーキングスペース
沿道にもテーブル・イスを設置し、屋外利用も可能に

 なお、仙台市の許可を得て、コワーキングスペース前の沿道の一部を利用者のワークスペースとして開放している。テーブル・イスを置いて、屋外での作業も可能とし、コロナ禍での利便性を上げた。11月には建物裏にある駐車場スペースをテラスとして改装し、屋外スペースを拡大した。

 6月18日に1階部分を先行オープンしたところ、当初はさほど反響がなかったという。しかし、徐々にサテライトオフィス等を求める地域企業からの需要が高まった。「『複数の会議室を組み合わせて使い、3密を避けた会議の開催』『在宅者増加によりオフィス縮小を行なった企業がセカンドオフィスとして活用』といった例がありました」(同氏)。10月2日のグランドオープンにあわせ、2・3日に内覧会を開催したが、200人ほどが集まった。以降も地元企業を中心に引き合いが強まっている。部屋ごとに用途を明確化している点も「選びやすい」と評価を受けているようだ。

◆◆◆

 都市におけるテレワークスペースやサテライトオフィスの需要に加え、「ゆったりと滞在しながら自然の中で仕事がしたい」など、これまでオフィス需要がなかったような地方におけるワーケーションのニーズも少しずつではあるものの出てきている。今回の事例のように、全国で眠る空き家や空き店舗、空きビルなどを受け皿として有効活用すれば、新たなビジネスチャンスとなるのではないだろうか。(umi)

【関連ニュース】
  「仙台の築54年のオフィスビルをリニューアル」(2020/9/28)

この記事の用語

定期借家契約

契約期間の満了によって賃貸借関係が確定的に終了する借家契約。借地借家法に基づく契約類型である。

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