オーストラリアでは現在、「アウトドアリビング」と「書斎」にお金を費やす人たちが増えている。「家の敷地の中にあるアウトドア空間」と言える開放的かつ社交的な「アウトドアリビング」。「一人でこもる」ための閉鎖的かつプライベートな場所である「書斎」。家の中でもまったく正反対の特徴を持つ2つの場所に、人々が資金注入する理由。それは「コロナ禍」である。
「旅行代金」を「家のアップグレード」に転用
じつはオーストラリア人、無類の旅行好きである。普通の住宅地で普通の暮らしをしている人たちでも、1~2年に一度は海外旅行をする。ところが2020年に新型コロナウイルスが到来。オーストラリア政府は死の床につく肉親訪問や葬式、その後の遺産手続きなどを目的としたもの以外はプライベートでの渡航を禁止するという世界でも最も厳しいレベルの制限をおよそ2年間続けた。
つまり無類の旅行好きなのにそれがままならない。旅行資金として貯めていたお金も旅行に使えない。「それなら渡航制限が解除したときのために蓄えればいい」と考える人もいるにはいたが、「宵越しの銭は持たない」という江戸っ子気質に近いものを持つ人も多いオーストラリアの人たち。じゃあそのお金をどこに使おうかとなったとき、「家の設備のアップグレードやリノベーション」へと向かったのだ。
「ビデオ会議の必需品」を書斎に追加
まず「書斎」である。コロナにより日本同様、いやおそらく日本以上に「リモートワーク」する人が増えた。リビングルームなど家族共用のスペースでは落ち着かなかったり、かわいい邪魔者たちにまとわりつかれたりするのはご存じの通り。だがオーストラリアの郊外の一軒家の多くには「書斎」がある。
だったらそこでリモートワークをすればいいと思われるかもしれないが、落とし穴が一つあった。もともと「リモートワーク」などということを想定していないので、オーストラリアの書斎にはドアがないことがほとんど。
すると当然かわいい邪魔者たちが虎視眈々と仕事の妨害工作を試みる。特に「リモートワーク」に付き物の「ビデオ会議」に求められる「静かな環境」が確保されてない。
というわけで「書斎にドアを設置する」というリノベーションに人気が出てきたのだ。
豪華に変身する「アウトドアリビング」
一方の「アウトドアリビング」のアップグレードがコロナ禍で人気となった理由。これは新型コロナが流行し始めた当時、飲食店での店内飲食が禁止されテイクアウトやデリバリーのみに制限されたことが多い。店で食事を楽しめない。だったら家で食事をよりおいしく、またより心地よく食べようという機運が高まったのだ。
もともとあった簡素なテーブルと椅子を、雰囲気のいい籐製の8人掛けテーブルセットに代えようか。日本円にしておよそ30万円? なになに構うものか。旅行資金をこちらに充てればいい。
幅1メートルくらいのバーベキューコンロもこの際だから、シンクや調理台がついた幅3メートル、その下には戸棚にドリンク用冷蔵庫まで付いた「アウトドアキッチン」とも呼べるものにしてしまおうか。約70万円だって? 大丈夫、大丈夫。
もちろんここまで贅沢できる人は限られてはいるが、かつて人気の価格帯だった5万円ほどのアウトドア用ソファーや4口のガスコンロ付きバーベキューコンロなどは、アウトドア店や家具店の片隅で肩身が狭そうにしている。
前向きに生きるオージー(オーストラリア人)
オーストラリアも他の国々と同様、新型コロナウイルスによる多大な被害に遭っている。ただその中でもできること、具体的には「家での仕事時間と余暇のアップグレード」を試みたオーストラリア人たち。「転んでもただでは起きぬ」ではなく「コロナでもただでは起きない」。陽気なオージー(オーストラリア人)たちの前向きさを、私も少し見習いたい。
柳沢有紀夫(やなぎさわ・ゆきお)
オーストラリア・ブリスベン在住のジャーナリスト。著書多数。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」の創設者兼お世話係。同会のモットーは「会員もしあわせに。クライアントもしあわせに。読者もしあわせに」。