自社のPR、そして集客のために、今やほとんどの不動産会社が自社でホームページを開設している。しかし、実際の集客につなげられている不動産会社は、決して多くはないのではなかろうか。
売買仲介をメインに手掛ける(株)トラストリー(東京都江東区、代表取締役:柴田光治氏)では、自社サイトで集客につなげることはできないかと検討。結果、コーポレートサイトとは別に、「深川くらし」(https://f-kurashi.tokyo/)という地域情報をメインに発信するサイトを立ち上げるに至った。
取り組みを紹介しよう。
◆オウンドメディアで、人気のまち“深川”の魅力を発信
同社では、2016年の創業に合わせ、同社を紹介するための自社ホームページを立ち上げ、会社概要、店内の様子などを掲載すると共に、物件情報、イベントやセミナー情報などをアップしてきた。一定のアクセスを獲得できてはいたものの、そのサイトで十分な顧客獲得ができているとは言い切れなかった。また、「『リフォーム不動産 深川studio』を屋号に用いていることもあり、中にはリフォーム事業者と思ってアクセスされる方もいた」(柴田氏)とのことで、サイトでの顧客ターゲッティングも満足のいく出来ではなかったという。
自社のサイトで顧客を獲得したい。そう痛感した柴田氏が着目したのが、オウンドメディアだった。「当社のような社員数人の小さい会社では、ニッチな部分で勝負をしないと難しい。当社の事業エリアである“深川”は、今タウン誌などでも注目される人気のまち。ここを紹介することで、この地を目指す人とつながることができる。そしてこのまちに関心を持つ人を少しでも増やすことができ、ここに住まいたい人との接点も持てるのではないか」(同氏)。
そこで、2019年7月に「深川くらし」をオープンした。
不動産会社のイメージは極力なくし、深川にこだわった情報を発信している。柴田氏や同社スタッフがよく足を運ぶ店などを中心に深川のお店を紹介する「地元で話題のこだわりのお店」、地域で開催されるお祭りやイベントなどの開催予定を案内する「深川イベント情報」など、深川エリアに特化したコンテンツがそこには並ぶ。
そして、いずれのコンテンツも自社のメンバーで作り上げる。「深川エリアの公園シリーズ」は、エリア内にあるすべての公園、約100ヵ所超を写真付きで紹介するものだが、柴田氏がカメラを携えて自転車で撮影し、紹介文も執筆したという渾身のコンテンツだ。
「深川に住みたい女」というタイトルのインパクトも強いコーナーは、一人暮らしをするために深川エリアで住まい探しをした同社スタッフの日記。「~住みたい女」という言葉のインパクト、写真やイラストも掲載され、ブログ調の読みやすさもあって、同サイト内における人気コンテンツの一つとなっている。
不動産の物件情報の発信でも、工夫をこらしている。サイトから不動産会社色をできるだけなくしているため、掲載物件数は多くはない。しかし「これは!」というえりすぐりの物件について、コラムのような形で紹介している。写真も多数掲載する。「物件の魅力で集客を図りたいと考え、力を入れて書きます。いわゆる“不動産会社の物件情報コーナー”にはならないよう、おしゃれで、読んで楽しいコンテンツにしたい。手間がかかるので掲載数を増やすのが難しく、そこは課題です」(柴田氏)。
拡散力を高めるため、SNS(Facebook、Instagram、Twitter)でも「深川くらし」のアカウントを開設し、情報を発信。ホームページと連動させた投稿のほか、浅野氏の気軽なつぶやき、写真やコメントの投稿などにより、さらに多くの、幅広い人とのつながりづくりにつなげている。
◆イラスト、写真は地元の人が提供
なお、コンテンツの作成にあたっては、地元の人を巻き込みながら進めているのものこのサイトの特長だ。「地元で話題のこだわりのお店」コーナーに掲載しているイラストや漫画は、深川エリア在住の漫画家「のり漫」さんの提供。写真は、同じく地元に住まうカメラが趣味の「フカフォト」さんの撮影した写真を許可を得て使用し、紹介している。また、「深川エリアの公園シリーズ」の中の4つの都立公園については、清澄白河在住のプロライター「鳩」さんに執筆を依頼した。「私はイラストなんて描けないし、写真も上手ではない。大きな公園の魅力は私だとうまく伝えられないので、プロの方にお願いしました。地元の縁を生かし、力を借りながら、コンテンツを充実させています」(同氏)。
なお、イラスト・写真・記事の提供者にとっても、多くの人の目に触れる良い機会となるため、大変喜ばれているという。
そうして作り上げられるサイトは、手作り感があり、温かな雰囲気を醸し出している。お店の人からは、サイトで紹介してくれたと喜ばれ、来店客にサイトの存在をアピールしてもらえる、といった効果もあるという。地域の人も巻き込むことで、認知度向上と、ホームページの拡充が好循環で進んでいるようだ。
「地元のお店に行くと、『深川に住みたい女、読んだよ』と声を掛けられたりします。見てもらえているということを実感できると、書くモチベーションも上がります」(同氏)。
サイト立ち上げから約半年が経過。アクセス数は一日おおむね数百アクセスで推移しており、「数値的にはまだまだ」と柴田氏。しかし、アクセスする人のほとんどが“深川”の生活に興味のある人、深川で家探しをする人と推測され、そういう確度の高い人とのコンタクトツールとしては着実に成果が出ている。すでにこのサイトを経由して取引につながった例が出ているという。「地域の人とのつながりも着実に強くなっています。そうした効果も、このサイトにはあると思っています」。
サイトを運営してきた印象については、「コストはさほどかかっていないのですが、労力はかなりかかります」と述べる。コンテンツを自社で内製化しようとすると、手間がかかる、というわけだ。しかし、お金も労力もかけずに集客できるなら、どこの会社もやっていますよね。大きなコストを掛けられない以上、労力をかけるのは必須と理解しています」(同氏)。
そして、労力をかけたからこその効果も。上記の「深川エリアの公園シリーズ」は、柴田氏がかなりの労力をかけて仕上げたもの。全公園を網羅したデータなのでこれを各コンテンツや物件情報などに紐づけることができる、副次的効果もあった。「撮影に行くのも、それを整理してまとめるのも大変だった。だから、これを真似してやる会社はあまりないのではないかと思っています。ネットでうまく活用していきたい」(同氏)。
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ネットの世界では、「どこのお店がおいしい」「どこのお店のサービスがとても良い」といった内容で信ぴょう性が高いものをつかもうとしても、意外と難しかったりする。口コミサイトの信頼性を問う記事が出たこともあり、ネットの情報=そのまま鵜呑みにできない、との認識も一般化しているように感じる。
だからこそ、その地域の人だから知る正確な情報は、キラーコンテンツになりうるし、その会社の信頼性を高めることにもつながりそうだ。(NO)