記者の目 / 仲介・管理

2020/12/24

路上アンケートで女性の部屋探しニーズを探る

 「お客さまの声に耳を傾ける」。日々、その気持ちを忘れないという心構えで業務に当たっている事業者は少なくないだろう。今回は、そこからもう1歩踏み込んで、実際に定期的にユーザーの生の声を拾い、店舗づくりや業務に生かしている事業者を紹介しよう。

◆女性が望む接客とは? 店舗とは?

 岡山県で女性をターゲットに賃貸・売買仲介を手掛ける(株)ミニクルホーム(岡山県北区)。代表取締役の城井 仁氏は、前職の不動産会社時代に、女性客の多くが不動産会社にあまりいいイメージを持っていないと実感していた経験から、2013年の独立に当たり、女性が安心して物件探しができる店舗にすることを決意。たった1人の小さな会社が生き残っていくために、女性がどういう人にどういう接客をしてもらいたいか、どういう店舗に来店したいか、実際に顧客予備軍である女性たちの声に耳を傾けるところから着手した。

 まずはさまざまな意見が拾えそうな東京へ向かい、飲食店を6件はしごしながら、従業員やお客さんなど手当たり次第に女性たちの意見を聞いて回った。不動産事業者として、場所や間取り、家賃、設備など、女性に人気の部屋を質問しつつ、「どういう不動産会社に案内してもらいたいか」「どういう営業マンと話したいか」を探った。そこで出てきた回答を集約すると、「怖くない」「食い物にされない」「1件1件丁寧に紹介してくれる」「そこで決めなくてもいい雰囲気がある」といった内容だったことから、それらの回答をより深く掘り下げられるよう、A4用紙3枚程度のアンケートを作成。全国各地で路上アンケートを試みることにした。

◆1日に数百人。各地でひたすら声をかけた

 地元岡山を見ているだけでは気づきにくい“新しいニーズ”の発見も目的に、2ヵ月に1回のペースで、東京、京都、大阪、名古屋、神戸、福岡&熊本に向かった。店舗所在地が岡山大学の近隣であることから、学生の意見を多く聞こうと、路上アンケートは大学近隣で実施した。

 当時、1日に声をかける人数は実に数百人に及んだという。声をかけるのは全員女性だ。同氏は、以前、大阪で度胸試しに路上で一発芸を披露していた経験があった。その経験から、学生はこちらのノリが良ければ、話を聞いてくれ、面白ければ、友達も紹介してくれる可能性が高いと踏んでいた。
 「もちろんちゃんと名刺を出して、しっかり正面から向き合うことも必要です。イメージは“ノリが良くて面白いけど、ちゃんとしている人”でしょうか」(同氏)。
 その雰囲気が演出できるよう、スーツ姿にカジュアルな上着をはおり、首に名刺を下げた恰好で臨んでいる。

 アンケートをとる際は、同氏が聞きながら、あらかじめ想定していた回答に「正の字」を書いていくスタイルにしている。紙に記載してもらう方式だと時間や手間がかかることもあり、逃げられることが多いと考えたそうだ。

 「“そうなんですか~”、“そういうものなんだ~”、“すごいね~”って、とにかく腰を低く、共感しながら聞き出すのがコツです。そのときの雰囲気や相手にもよりますけど、流行りのものまねを振られてやることも多いですね(笑)。笑ってもらえれば『何なに?』って、他の学生も寄ってきてくれます」(同氏)。

◆かわいいグッズで女性の共感につなげる

 路上アンケートを開始してほどなく、女性たちの多くは、「大手」や「有名店」より「どういう人が対応してくれるか」をより重視していることが分かった。ノリの良い同氏を受け入れてくれる女性も多かったことから、これで「女性向けでやっていける」「小さい会社でもやっていける」と自信を得た同氏は、アンケートから見えてきた女性たちの傾向や要望を、店舗づくりや接客スタイルに取り入れていった。

 店舗づくりについては、外観は古くても、店舗内がきれいであれば問題ないという意見が多かったことから、清潔感や内装を重視。アンケートのついでに好みのインテリアをヒアリングし、家具類は利用している人が多かったIKEAやニトリで揃えた。女性に人気の流行りの雑貨専門店にも通って、“かわいいグッズ”を調達して店内を飾った。
 「”同じの持ってる!“、”かわいい“と話がはずむことも。女性がターゲットの場合、こういうちょっとした部分で共感が得られることが、非常に効いてくると実感しています」(同氏)。
 なお、店内のBGMは必要ないという意見が多かったため、BGMは流していない。

インテリアの多くはアンケートで利用している人が多かったIKEAやニトリで調達
ミニグリーンなどかわいさを意識した店内
来店客に出すドリンクも、専門店の店員や知り合いの女性に聞いて女性が好きそうな8種類のお茶を揃えている

 接客については、ノリは良く、部屋探しについてはあくまでも真面目で丁寧な対応を心掛けた。安心して部屋探しをしてもらうために、自身の17回の引っ越し経験を生かし、事業者目線だけでなくユーザー目線からも女性の部屋探しの注意点やアドバイスをHPやブログにまとめ、継続して発信している(3年前からYouTubeチャンネルでも情報発信しており、当社発刊の『月刊不動産流通』2021年2月号編集部レポートで取材)。

 案内する部屋については、「“空いている部屋”より、“好みの部屋”を紹介してほしい」という要望が高かったため、路上アンケートでさまざまな女性に部屋の好みを聞いている経験を生かし、なるべく好みに近そうな部屋を案内するようにしている。

女性の部屋探しの注意点やアドバイスをHPやブログにまとめ、継続して発信している

◆SNSで入居後のトラブルにも対応

 同社は仲介専門だが、「入居しているときも面倒をみて欲しい」という声が多数聞かれたため、LINEやFacebook、Twitterなど、各種SNSを通じていつでも連絡が取れる環境を整備。入居物件で何かトラブルがあった際など、「いつでも連絡してOK」というスタンスを貫いており、実際に、設備トラブルなどの際、まず同氏に連絡してくるケースが多いそうだ。そうした際は、管理会社との間に入ったり、伝え方などをアドバイスする。

 仲介客以外にも、来店客や路上アンケートで意気投合した人ともSNSでのつながりをつくるようにしており、このSNSネットワークはいまや約300人規模まで拡大。このネットワークも、今ではちょっとしたアンケートの場として活用しているという。
 「新しいサービスが出てきたとき、“こういうサービスはどう思う?”といった、ことを気軽に聞いています。3分の1程度は回答を返してくれるのでいつも参考にさせてもらっています」。
 もちろん聞くだけではなく、季節の挨拶を兼ねて、「最近、どこそこで変質者が出たから要注意」「暑いから熱中症にならないように気を付けて」「こういうお店ができたからおすすめ」といった一斉メッセージを定期的に送るなど、つながりが途切れないようにも気を配る。

 なお、頻度は減ったが、SNSネットワークができた今でも、路上アンケートを全国の主要都市で定期的に続けており、今後も常に“女性たちの今の声”を把握するように努めていくという。

城井氏

◆◆◆

 こうして独立当初からユーザーの生の声を聞き、業務に取り入れてきたことがどれくらい成果を上げているのか。数値化するのは難しくても、同氏の現在までの累積仲介実績がたった1人の営業で、7年足らずで数千件と聞けば、成約率のアップや紹介増加など、確実にさまざまな面で成果につながっていると思われる。
 今回、時節柄オンラインで取材させていただいたが、確かに同氏はノリも良く、最初から最後までこちらも笑い通しで「なるほど。これなら女性受けはいいだろう」と感じた。しかし、話を聞けばその裏には、地道に継続する粘り強さを併せ持っている。だからこその数字ということなのだろう(meo)。

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