2023年3月にアップした「出勤したくなるオフィスが増加中」( 前編・ 後編)の記事では、社員の働き方、企業の狙いに合わせて創出された各社のオフィスを紹介した。その中の1社である(株)MIXIが、さらなる働きやすいオフィスとするために一部を改装したとの報を受け、取材した。
◆アフターコロナのニーズに合わせてリニューアル
MIXIの本社は、東京「渋谷」駅直結の「渋谷スクランブルスクエア」内にある。コロナ禍前に設計を行ない、2020年のコロナ禍の直前に入居した同社オフィスは、多種多様な会議室、昇降機能付きデスクの導入、内階段の採用、ビュッフェ形式の社員食堂など、働きやすさにとことん配慮したオフィスとして運用されている。
イノベーションの創出、コミュニケーションの活性化を目的に、在宅勤務メインから出社をメインに舵を切る企業が増えているが、同社では基本的に出社か在宅勤務かは部署ごとの取り決めにゆだねられているという。それでも出社する従業員はコロナ禍と比較すると若干増えており、日常が“アフターコロナ”に突入する中で、最善と思われたオフィスにおいてもいくつかの課題が確認されたことから、その解消に向けてオフィスの一部リニューアルに踏み切ったという。
リニューアルのポイントは、大きく2つ。紹介しよう
■「DEEP ZONE」の新設
ワークスペースを一部廃止し、新たに設けた執務スペースが「DEEP ZONE」だ。窓には暗幕状の遮光カーテンが掛けられ、太陽光がほぼ遮られている。全28席が配置されたその空間は、執務スペースとしてはこれまで見たことがないほど暗い空間だ。
このような執務スペースを設けた理由について、はたらく環境推進本部せいかつ環境室の熊坂勇刀氏は、「『在宅勤務では家族がいて仕事が進まない、出勤して集中して進めよう』と考える従業員は少なくないはずですが、新たなオフィスはコミュニケーション形成支援を意識したオープンなつくりの場所が多い。そのため、一人で没頭して作業できるスペースがなかった。そこで、そうしたスペースを用意しました」と語る。
足元が見えにくいほど暗いスペースに六角形の形に設計された半個室のブースが並ぶ。そのためモニタの明かり・表示に引き込まれる感じがする。ここでは飲食、会話、休憩がNGとされており、とにかく個人の業務にひたすら集中するためのスペースとして仕立てられている。予約制としており、利用頻度の高い従業員もいるという。
「DEEP ZONE」に隣接する形で、休憩スペース「REST ZONE」も新設。ここも遮光カーテンが下げられ、「DEEP ZONE」ほどではないものの薄暗いスペースに仕立てられている。仮眠などもしやすそう。静かに、ゆったりとくつろげる空間となっている。
ここは飲食が可能。そして個別照明なども設けられているので、飲食しながらのちょっとした作業などにも利用できそう。さらにリラックスチェアが配置された半個室のようなスペースもあり、仮眠もしやすそうだ。
◆テーブルセットから長椅子対面ブースにしたところ、利用度がアップ
■ファミレスブースへの変更
もう一つの変更が、ファミレスブースの設置だ。ここ数年でリニューアルされた各社のオフィスを見学すると、たいていの企業でファミレス席と言われる、長椅子の対面席スペースが設けられていることが多い。コミュニケーション、休憩、打ち合わせなど、さまざまな用途で使用しやすいのだろう。同社でも、各フロアにファミレスブースを新設した。
同社では、以前は各フロアの執務エリアそばにカフェテーブルを配置していた。「軽い打ち合わせや休憩に使いやすいのではないかと、四角いテーブルにイスを4脚セットし、複数配置していましたが、あまり使われていない様子がうかがえました」(同氏)。担当者間では、囲いがなくオープンなつくりが、落ち着かないといった印象につながり、利用頻度があがらなかったのではないかと推測したという。
そこで、ここをてこ入れ。よりカジュアルにコミュニケーションがとれるようにと、ファミレスブースに変更した。
飲食、打ち合わせ、ランチミーテイングなど、多用途の利用が可能。モニタを付けたブースやホワイトボード仕様の壁を設けた席も設けており、会議やオンラインミーティングにも活用してもらう考えだ。
「『立って話すのもなんだからここでちょっと腰かけて話そうよ』といったときや、会議室で終了時間となってしまったためにここで続きをといったケース、その他上司との軽い打ち合わせなど、多用途で使われている様子が見られます。昼くらいからはかなり席が埋まりますので、使い勝手がかなりよいのだと思います」(同氏)。
ドリンクサーバーのあるスペースからも近いため、実際のファミレスのように飲み物を楽しみながら、仕事に、休憩に…と多用途に活用されているようだ。
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新オフィス入居からわずか4年という短期でリニューアルを実施するそのスピード感に記者は大変驚いた。オフィスの改変ということはそれなりのコストがかかるはずだが、それは、同社が、自社のワーカー、そしてそのワーカーが活躍するオフィスという舞台を重要視していることの現れなのだろう。
ちなみに、多種多様な会議室があるのも同社オフィスの特徴であったが、「コロナ禍を経て、大人数が集まる会議が減り、一方で1対1のオンラインミーティングが増えるなど、環境が大きく変化しました。コロナ前の想定で会議室数を設計したため、今となっては会議室はちょっと多かったかも?と感じています。今後は予約データから利用実態を分析し、会議室をどのようにしていくかを検討していくことになると思います」(同氏)とのこと。
会議室を会議室としてなのか、他の用途にするのかも含めて未定とのことだが、他社に先駆けて新たな取り組みやスペース創出に取り組むのかもしれないと思うと、今後同社のオフィスがどのように“新陳代謝”していくのか、引き続き注目していきたい。(NO)